16話ー➃ 心境変化の兆し?






「はは……これは暗黙で秘匿されるはずだ。もし今攻められたら天上神界が滅亡する可能性がある。こんな情報を一般公表したら……未曾有のパニックになる。当然他にも理由はあるだろうけど、理由の一つは確実にこれだ。」


「これを公表すればとてつもない混乱を招くでしょうね……経済や政治にも想像を絶する程の影響を及ぼすわ。」


「機密事項ではないけど、公表もされてない理由はこれか……でもさ。そう考えると初代全神王様や、二代目は何で機密にされてるんだろう?」


「確かに不可解ね……ヴァラルを機密事項にするなら分かるけれど……ヴァラルの方がおまけ機密感があるのよね。」



 おまけで機密感という何とも独特な表現をしたルシアに、ルークは何とも言えない微笑みを向けた。


 再び『植物学入門』に文字が浮かび上がる。



【ヴァラルは悪意が存在する限り何度でも蘇る。この恐るべき力を封じるため、2代目全神王は管理者全員と協力し、ヴァラルがこの世に出てこれぬよう強力な封印を施した。】


【この封印は成功し、ヴァラルの力を奪うという偉業を成し遂げた。】


【しかし完全に封じることはできず、ヴァラルの悪意、すなわち精神だけは封印から漏れ出してしまった。そしてその悪意は今もなおこの世界を狙い続けている。】



「ってもう封印されてるのか!?つまり今のヴァラールは残りカスみたいなものなんだね。」


「それでもよ?私達はその残りカス相手に振り回されてる。もし封印が解けでもしたら天上神界は……。」



 ルシアの言葉はルークの胸に深く響いた。

彼はしばらくの間、沈黙して俯き、考えを巡らせた。


やがて思案の末に、彼は一つの結論にたどり着いた。



「今の僕らにできることは……何も無い。何もかもあまりにも足りなさ過ぎる。」


「ならどうするのよ。知っているのに何もしないなんて私は嫌よ。」


「でもできる限り事はしよう。まず僕らが強くなる。そして管理者、またはそれに匹敵する存在を見つけて協力を仰ごう。」



 ルークの下した判断はお世辞にも現実的とは言えなかった。

そして当然、それに対してルシアは難色を示した。



「……それで変わるのかしら。他に何かできることはないかしらね。」


「分からない。でも最善を尽くすしかない。何度やり直したとしても大きく結果が変わる事はない。守れるものなんて一握りだよ。」


「何よそれ……最善を尽くすだけ?私は嫌って言ってるの!何も守れず『最善を尽くした』なんて言いたくないわ!!」


「……ごめん。なら、色々変えてみるよ。僕の方針や行動原理とかも……」



 普段から感情豊かに話すルシアだが、ここまで感情的に訴えるのは珍しかった。


 彼女の強い感情にルークは少し動揺し、胸の奥に小さな痛みを感じた。

その動揺が、後の判断において重要な転機となったのである。



「あっ。ちが……ごめんなさい、代案もないのに。何か私もいい策を思いついたら共有するわ。」


「ありがとう。僕も色々考えてはみるよ。確かにこんな、カスみたいな対策だけじゃムリゲーすぎる。」



 2人はその後も夜通し今後について話し合い、その1日は眠ることなく幕を閉じた。






 僕達は一晩中対策を話し続けたが、具体的な解決策を見つけることはできなかった。


 本に浮かび上がった情報を再び整理すると、以下の4つの事実が明らかになった。




 ・ヴァラルには「害厄王」と呼ばれる直属の部下が7人おり、 

  それぞれが凄まじい武力を持っていること。


 ・この世界の外には「概念存在」と呼ばれる存在がおり、

  ヴァラルはその「概念存在」の一部を使役する事ができる。


 ・ヴァラルにとって幸福は絶望であり、他人の不幸こそが幸福であること。


 ・ヴァラルが一時期拠点にしていた場所の入り口についての詳細情報。




 これらは何も知らない僕らにとって、非常に有力な情報だった。

特に最後の情報は、十神柱でさえ知らない可能性が高い。



「一先ず今は推薦されたクエストをこなすしかない。遺跡の探索は僕らだけでは絶対に危険だ。」


「そうね。まずヴァラルの現在の動向を調査するべきね......クエストをこなして十神柱の方々の助けになりましょう。遺跡の件は、融通が効くアファルティア様に事情を説明して協力を仰ぐのが最善だと思うわ。」


「まぁ、遺跡探索の同行はまず無理だと思うよ?交渉はしてみるけど……正直僕らを連れていくメリットない。」



そうこう話しているとタイミングよく、魔道神ソロモン様から推薦クエストの依頼が届いた。


 その内容を確認し、僕らは息を呑んだ。

驚愕のあまり、言葉を失うほどの異次元の内容だったからだ。



「原初熾星王の…討伐?」


「ただの熾星王でも命がけなのに……原初のって私達でどうにかできるレベルなの?」



 星霊は一つの星に宿る意志のような存在であり、その上には一つの惑星を束ねる星霊王がいる。


 そしてさらにその上位には、銀河全ての意思ともいえる熾星王が存在するのだ。


 熾星王は、僕たちが死力を尽くしてようやく倒せるかどうか、というほどの強大な存在だ。


 星の意志たる星霊王とは次元が違う存在であり、


......その圧倒的な力は並の惑星文明にとって、抵抗すら許されない必定の滅びを意味する。


 熾星王の形や大きさは個体によって様々だが、平均して惑星を丸ごと飲み込むほどの巨大な体躯を持つことが多い。


 そして今回の相手は『原初』の熾星王。

つまり、ただの熾星王の個体より遥かに強大な、古代から存在する究極の熾星王なのだ。


 いくら何でも普通に戦えば、僕らの手に余る存在だ。

もちろん普通の状態で戦えば、の話なのだが。



「と……とりあえずギルドに向かって話を聞いてみよう。この状態の僕らが全力で戦っても勝率は2割くらいだろうし……」


「……断る方が賢明な選択ね。ソロモン様のお考えは分からないけれど、流石にこれは危険だわ。それとも?方針を変えて『切り札』でも使う?」



 ずっと考えていた……力を隠す方針は少なからず成長速度も低下させてしまう。

 本当にこれからも、これまでのやり方を続けて通用するのだろうか?



「実は昨日の話し合いからずっと考えてるんだ……僕たちは慎重になってまで隠すほどの実力を持っているのかなって……」


「ルーク、結論を急がなくていいわ。あなた、こういうのは熟考したいタイプでしょ?」


「……そうだね。少し考えさせてもらうよ。でもすぐに結論を出してみせる。」


「別に急がなくていいわ。ほら、ギルドに向かいましょ。準備して?」



 ルシアの優しい言葉に背中を押されながら、僕たちはひとまずギルドへと向かうことにした。


 道中、悩みながらも新たな決意が芽生えつつある。


 今のまま安全に重きをおいて慎重になるのか、それとも新たな方向へ舵を切るべきなのか。


 とにかく今は次の命がけの任務について集中だ。



何せ敵は『原初熾星王』なのだから。





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ここまでご覧いただきありがとうございます。


本当は「古今東西最凶の悪意」の方が今後の展開としてはしっくりくるのですが、分かりにくいと感じこれにしました。


またまだ盛り上がりを見せていない話数展開の中、ここまで最新話を読んだくださった方は本当にありがとうございます!!!

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