3話ー➃ 黒幕がヤバすぎる!?





 僕達は天上神界の最高神 十神柱アファルティア様の眼前にいた。



「アファルティア様。お久しぶりにございます。この度は」


「もう少し崩してもいいですよ?私とあなた達との仲ですから。」


「ありがとうございます。少し口調を崩します。」


「あ……あぅぁ」



 この女神は僕ら兄妹を神界に導き、昇神させてくれた恩神だ。

そのおかげで、僕たち兄妹は今日も生きていられるのだ。本当に頭が上がらない。


ちなみに妹は隣でガチガチに固まり、口をパクパクさせている。

しばらくは役に立たないだろう。



「今回私が来た経緯を説明しますね?神界側もこの件は重く捉えています。本来であればギルドの役員が来る予定だったのですが、報告者があなた達という事もあり、急遽私がお話を伺いにまいりました。」


「なるほど。そうだったんですね。お忙しい中、ありがとうございます。」


「暇という訳ではないのですけれど……特別忙しいという訳でもなかったので気にしないで下さいね?」


「はい。」



 この状況でこちらから狂化の件を切り出すのは、無礼に当たるかもしれない。


アファルティア様がこうして気さくに話をしてくださっているのは、隣でガチガチに緊張している妹の和らげるためだろう。本当に慈愛に満ちた女神様だ。



「エリーさんの緊張も少しだけ解れたようですので……報告の件に入りましょう。」



 僕はキノコの件や狂化ベヒモスの仮説など、妹と共に考察した内容を基に報告を行った。


 憶測の部分は本来控えるべきだが、この人とは確固たる信頼関係がある。

また融通も利くため、あえてその点も含めて話すことにした。



「なるほど。私達十神柱の仮説とほとんど相違ありません。植物については私達も疑っておりましたが、まさかキノコですか……また現在、あの惑星の大気中の成分を計測しています。」


「げ……現地に行っていないのに、そこまで予測されたのですか!?」


「大気中。濃度。念頭に。ありません、でした。」



やはりエリーはガチガチだ。



「いえ。私は貢献してないですよ?こういう推理が得意な方がおりまして……その方が言い始めたんです!私でも犯人の方については、経験から検討はつきますけれど……」



 今、確かにアファルティア様は犯人に心当たりがあると言った。この方は悠久の時を生きてきた古い女神様だ。


 彼女は僕が生まれる遥か昔から、役職変わらず十神柱として活躍している。

その知識と経験は計り知れない。



「アファルティア様。何か……心当たりでもあるのですか?」


「ヴァラル。という名前をご存知ですか?」



 ヴァラル……伝承や童話に登場する絶対的巨悪。

その名を聞くだけで、神界の住人たちは凍りつくほどの存在だ。


 天上神界の全盛時代……先代の全神王様でさえその存在を滅ぼせなかった。

そんな史上最凶最悪の存在として知られている。


 彼の悪行は神界の歴史に深く刻まれ、恐怖と絶望の象徴として語り継がれている。

 ヴァラルの力は圧倒的で、彼の影響力は今もなお神界の隅々にまで及んでいる。


 その名が語られるとき、そこには必ず畏怖と戦慄が伴うのだ。



「ヴァラル?おにぃ誰?」


「いや、何で知らないんだよ?まぁいいよ。アファルティア様。今回の件はそのヴァラルが仕掛けた事なのですか?」


「天上神界の予想を上回ってきたので……私としてはヴァラルでは無いかと思います。」



 しかしもしそれが真実だと仮定するなら、状況は最悪かもしれない。



「しかし何故今になって……アファルティア様ヴァラルとは一体何者なのでしょうか?」



 僕は推察力や考察力には自信があるが、彼女のように長い歴史を知る存在から学ぶことが多い。


 彼女の発言を元に、少しずつ真実に近づけるよう思考を巡らせているが、まだ結論にはたどりつけない。


 書庫で手当たり次第に本を読み漁っているが、童話や昔話以外でヴァラルの存在を確認できる記述は見当たらない。


 上位の神々は長寿ゆえに、古い情報が埋もれてしまうことがあるのだろうか?

それとも、ヴァラルに関する情報が意図的に抹消されているのか?



「申し訳ありません。あなたの情報権限では、その質問にはお答えする事はできません。秘匿事項が絡んできますので……」


「分かりました。本日はありがとうございます。」



 秘匿事項が絡む。確かにアファルティア様はそう発言なされた。


 だが、これはヴァラルの存在自体が機密事項ではないという事だ。

その成り立ちや、歴史を語る際に関わる「何か」が機密だという意味に取れる。


 本来、そのようなニュアンスを使う必要はない。

アファルティア様がルールのギリギリまで融通をきかせてくれているのだろう。


 彼女の配慮に僕は感謝せずにはいられなかった。



「情報ありがとうございます。」


「あ……ありがとう。ござ、ます。」


「お気を付けて帰ってくださいね。」



 僕らは一礼し、必要な情報を頭の中で精査しなつつ部屋を退室した。

エリーは終始緊張してほとんど話せずにいた。


 廊下に出ると、彼女はやっと深呼吸をして少しだけ緊張を解いたようだった。



「おい、なんか話してくれよ……僕一人で報告することになったじゃないか!?」


「だって、憧れの人。恩人。超偉い人。緊張する。」


「にしたってなぁ……」



 エリーは淡々と答え、僕も軽く肩をすくめた。

そして、ギルドの出口に向かって歩き出した。

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