第244話 くっ! 遅かったか!

「おっさん! レイモンドはどこだぁ!?」

「おじさん! レイ君を出しなさい!」


 オレが店長に言われて店先で『太陽石』を粉塵にする作業をしているとカイルとプリヤがそんな事を叫びながらやってきた。

 カイルの奴は松葉杖に馴れてない様子で軽く汗を掻いている。オレは手を止めて粉塵対策のゴーグルを外す。


「おうおう、どうしたお前ら」

「おっさん! 俺は更に強くなれるんだろ!? 何で教えてくれなかったんだよ!?」

「そうよ! レイ君を出しなさい!」

「リースー、意味解らんから説明を頼むー」

『あ、はい!』


 オレは側にいたリースからこんな事になっている過程を聞く。

 パタパタ説明中…………


『と言う事でして……』

「…………」


 オレは呆れて額に手を当てた。ついでにリースから『記憶石』を受け取り、プリヤにノせられているカイルへ向き直る。


「おっさん! レイモンドは!?」

「アイツにはオレからの伝言をクロエへ頼んだ。少しは休んでからでも良いと言ったんだが、『里』は落ち着かないんだと。さっき出て行ったぞ」

「くっ! 遅かったか!」

「クロエさんに伝言?」


 するとカイルはオレの指示に興味を示す。


「お前が治療中にゼフィラが来てな。こっちの状況が固まったから、そろそろあっちの情報が欲しい。徴兵と軍の編成をしている頃だし、侵攻日が決まってるかもしれん」


 『ナイトパレス』との戦争が間近に迫っている。戦士達は緊張感を持つ時期に入っているのだ。


「ディーヤはシルバームから新しい『極光術』を教わる為に『太陽の神殿』へ行くそうだ。決戦日まで帰って来ないんだと」

「うぉぉぉ! それって特訓じゃん!」

「まぁだろうな」


 【スケアクロウ】の一件でディーヤは再び【極光剣】として『三陽士』に就く事になった。

 嬉しい誤算だが【夜王】と相対するには足りないと感じていたので底上げをしてくれるのなら願ったりである。


「そう……なら尚のことね! おじさん……貴方にカイルの“枷”を解放できる?」

「おっさん……俺の“枷”を解放? してくれ!」

「カイル……お前、自分が何言ってるか理解して無いだろ?」

「? 強くなれるんだろ?」

「勿論よ!」

「んなワケねぇよ」


 取りあえず、ツッコミを入れておく。


「え? プリヤ、そうなのか!?」

「ちょっとおじさん! 根拠を言いなさいよ!」

「カイルの性格の問題ね」


 話を聞いていたのか、そんな事を良いながら店から出てきた店長に注目が向く。

 店長はカイルが松葉杖を突いたまま会話をしているので休める様に椅子を持ってきた様だ。


「ありがとー、千華さん」

「どういたしまして。それよりも服が少し血で汚れてるわね。洗うから脱ぎなさい」


 店長は座ったカイルから、ぐいぐい、と服を強奪する。

 ひんむかれたカイルはあっという間にインナーとスパッツ姿に。太股の手当て痕が目立つ。


「カイル。強くなるには下地が必要だって事はお前も知ってるだろ?」

「素振りはしてる!」

「そう。剣で何でも斬る為に毎日素振りするのと同じだ。だから、いきなり新しいことを始めるには前もっての鍛練が必要になる」

「じゃあ、やりかた教えて!」

「まぁ聞けよ。今、お前は『霊剣ガラット』を自在に抜くことを目標にしてるだろ? 今お前が求めているモノはその目標とは全く関係ない」

「え? そうなの?」

「そうなの。だから今は安静にして足を治す事に集中しなさい。【スケアクロウ】戦で一段階レベルを上げたみたいだしな」

「えへへ。そうかなぁ」


 カイルは後頭部に手を当てて嬉しそうに笑う。素直なのは良いが、それ故に他の雑音に誘導されやすいのが愛弟子の弱点でもあるのだ。


「つー事でプリヤ。今のカイルにソレは不要だ」

「プリヤ! 色々教えてくれたのに……なんかごめん!」

「……そう言うことなら仕方ないわね」


 オレの意見が第一に考えるカイルにこれ以上の誘導は不可能だとプリヤは察した様だ。


「しょうがない……カイル。レイ君が戻ったら教えてね」

「おう! 必要なら手を貸すぜ!」

「ホント? 約束よ」

「任せろ!」

「……」

『……』


 まぁ、レイモンドなら逃げ切れるだろ。

 じゃあねー、と手を振ってプリヤは去って行った。


「カイル、店長に許可を貰ってな。お前はしばらく『千年華』で寝泊まりして良いってよ。その足じゃ補助も必要だろ」

「大丈夫だって! それに『霊剣ガラット』も簡単に喚べる様になったし!」

「ほー、それは進歩だな」


 こいっ! とカイルが言うと、その膝の上に、ぽてっ、と『霊剣ガラット』が落ちてくる。なんとも可愛い召喚だこと。


「ほらな! 完全におっさんを越えたぜ!」

「抜いてみ」

「見てろよー!」


 カイルは柄と鞘を握り刃を――


「ふんぬぅ!? あれ? ふぬぬぬ!!」


 見せなかった。時が止まっているかのように鞘からは抜けない。


「カイル」

「待ってくれよ! 【スケアクロウ】の時は抜けたんだ! ふぬぬぬぅ!! ぬぬぬ……ゼェ……ゼェ……なんでだ?」


 抜けない様子に肩で息をする愛弟子の膝上の『霊剣ガラット』の柄をオレは掴む。


「まぁ――」


 そして、簡単に紫色の刀身を切っ先まで鞘から出して見せた。


「意識して喚べる様になったのは及第点だぜ」

「んな!? くっそー! 今に見てろー!」


 オレは鞘を受け取ると『霊剣ガラット』の刃を戻し、カイルへ手渡した。


「ローハン。作業が止まってるけど楽しそうね」

「あ、すみません! すぐに再開しますんで!」


 店内から戻ってきた店長のジト目にオレはゴーグルを着けて削り作業に戻る。






「うーん……」


 俺は『霊剣ガラット』が【スケアクロウ】との戦いで応えてくれた様な気がしていた。

 あの時は勝手に抜けてて応える様に自在に振るえた。けど、今は無理になった。俺に何が足りないんだ?


『カイル、どうしたの?』

「リース、昔から考えてるんだけどさ。なんでおっさんは『霊剣ガラット』を自在に抜けるんだ?」

『え……? うーん……ローハンさんとカイルに違いがあるから……かな?』

「違いって?」

『私は剣士じゃないから解らないけど……なんとなくね、その剣を抜く条件はヒトによって違う気がする』

「最も強い奴。それが『霊剣ガラット』の条件なんだけどなぁ」


 単純に俺の実力不足かなぁ。確かにおっさんなら【スケアクロウ】は無傷で倒せるかもしれないし……やっぱりそう言う事か!


「素振り不足だ!」

『あはは……』

「それなら、三時間後に『円陣』があるから見学すると良いわ」


 そう言って千華さんが綺麗にしてくれた服を持ってきてくれた。それよりも――


「『円陣』って?」

「『太陽の戦士』達が行う模擬戦みたいなモノよ。『太陽の里』の中央広場で240時間事にあるの。参加者は自由」

「お、マジ!? じゃあ――」

「貴女は無理よ。それに、今回は『円陣』はローハンの実力を周知させるモノだから」


 俺はザリザリと音を立てて石を削ってるおっさんを見る。


「師から教えて貰うばかりじゃなくて、その戦いから自分なりに解釈するのも良いと思うわよ」

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