第34話 遺跡“下層(春)”ヒューマンガーデン
「なんだ!? なんだ、コイツ!」
「駄目だ! 強すぎる! 一旦逃げ――」
そう言葉を発した男は木剣で首を跳ねられた。
下層に入った冒険者達は、遠目からでも見える程に巨大な大樹の近くでソレに遭遇していた。
“…………”
ソレは木人。“大きな傷のある大樹”を護るように無数に存在し、冒険者達の前に立ちはだかる。中でも女型の木人は剣の形状をした武器を枝で作り出し、既に五人の冒険者を屠っていた。
「くっ!」
「下がれ下がれ! 『火炎玉』が降ってくるぞ!」
奴らの弱点は火。大樹を燃やしてしまう可能性からなるべく使いたく無かったが、守護する女型の木人が強すぎる故の苦渋の選択だ。
後衛にいる魔法使いによる『火炎玉』か雨のように降り注ぐと、女型の木人を含む、他の木人を全て飲み込んだ。
焦げた臭いと草木の燃える煙で視界と鼻が覆われる。
「強すぎるだろ。どこの奴がトチって『人樹』に捕まったんだ?」
彼らはとある情報を手に入れて『人樹』への攻略に乗り出したパーティーだった。
しかし、ソレを守護する木人達は今までに見たことのない強さを持ち、近づくことさえも出来なかったのである。
「けど所詮は植物だな。この【火炎の魔術師】バーン様にかかれは、イチコロ――」
ヒュッ、と風を切る音と共に、煙と炎の中を走ってきた女型の木人が木剣でバーンを貫いた。
「バーン!?」
「フラグ立てるからぁ!」
「うご!? ツッコミどころは……そこじゃねぇだろ……」
ガクッ、と事切れるバーン。彼の遺言通り注視する所はそこではない。
かわせない数の『火炎玉』を広範囲に降らせたのだ。効果は抜群。しかし、女型の木人だけは生き残り、その姿には焦げ跡すら見当たらない。
「どけどけ! 『
【火剣六席】プシロンが、得意の炎付与した剣で女型の木人に対して斬りかかる。
すると、女型の木人は木剣をバーンから引き抜きそのまま流れる様に受けた。プシロンは木剣ごと木人を焼き斬る。
「所詮は植物! 頭脳は獣以下の様だ――何ぃ!?」
プシロンの想定とは裏腹に木剣は焼け斬れなかった。
水属性の付与が施されており、属性付与が相殺されたのだ。
「馬鹿な! こんな事はあり――ごぼぼぼ!?」
そのまま顔に『水玉』を押し付けられプシロンは呼吸を妨げられる。そして、木剣の一閃がその首を落とす。
「プシロォーン!」
「水魔法に殺られるパターンのデフォルトみたいに逝ったぁ!」
「退却! 退却だ!」
前衛と後衛の要を失ったパーティーは、『人樹』の攻略を諦めて急いで離脱した。
“…………”
女型の木人はソレを追撃せず、踵を返すと大樹の側に戻っていく。
地面から『人樹』の根が出てくると死体は取り込まれ、木の幹からバーンとプシロンの木人が現れた。
蝶が舞い、花や草木が唄う様に日光に対して微笑んでいる様に見えた。
温厚な魔物たちも、その暖かさに身を寄せ、眠ったり、草を食べたり、のどかな雰囲気が辺りに漂う。
木漏れ日の射す森のちょっとした空間に隠れる様に建つ石造りの塔。
外観はだいぶ年期が入り、蔦が這う程に永い間、人の手が入っていない様が見てとれる。
「うぉぉぉぉ!!」
「うぁぁぁぁ!!」
「あぁぁぁぁ!!」
『レイモンド。合図をしたら『反転重力』を頼む』
そんな叫び声が塔の内部を下に向かって流れていく。
『3、2、1――』
ズゥゥゥン……
そんな音と共に塔の一番したの扉に衝撃が走り、隙間から埃が漏れ出る。温厚な魔物達は驚いてその場から逃げ出した。
そして、チーン、と言う機械音と共に、ガー、と扉が開いた。
「チーン……じゃねぇよ。痛てて……全員無事か?」
ローハンは打ち身の身体を起こしながら全員の安否を確認する。
「な、なんとか……」
「カイル……退いてくれない? 動けない……」
「あ、ワリ」
じたばたするレイモンドの顔を谷間に埋めていたカイルは謝りながら起き上がった。
『着いた様だな』
先に扉から出たボルックは、簡単に周囲をスキャンする。危険な魔物との出会い頭は無さそうだ。
「やれやれ……やっとか」
魔力の満ちる下層。魔力飢餓を潤す程に回復する様をローハンも感じる。そして、扉から出ると遠くに見える巨大な樹を視界に確認した。
「アレか? ボルック」
オレは遠目に大樹を確認していた。
ここからでも見える程に馬鹿デカイ『人樹』だ。表層を斜めに走る傷が特徴的だな。
『前と違い、今回はだいぶ離れた所に出たようだ』
「前はどこだったんだ?」
「あの木の根元でしたよ」
レイモンドも起き上がると、同じように『巨大人樹』を見据える。
「扉を開けた瞬間、木の人間が滅茶苦茶いてさ。木の根っことかも襲ってきて、凄かった」
カイルは当時の事を思い出す様に呟くと扉から出る。すると、扉は閉まった。
『ローハン、どう見る?』
「あんなふざけたデカさの『人樹』は初めて見た」
『人樹』は遺跡だけでなく、表の世界にも各地に転々と存在している面倒な魔物だ。
だが、極端な環境を生き延びる程に強靭と言うワケではない。その証拠に、今回通ってきた上層と中層ではその姿さえも見かけなかった。
「日射し、環境、魔力。全部栄養満点だな。しかもここは天敵も居なさそうだし」
この下層には、炎を使う魔物や、植物を餌とする魔物もいないだろう。故に磐石に育ったって所か。
「あんだけデカけりゃ、生み出す『枝人』の数も50は下らない。ボルック、クロエは本当にここにいるのか調べてから――」
「ここだよ、おっさん」
カイルは『巨大人樹』を見て呟く。
「あの木にある傷……クロエさんがつけたんです。僕たちを逃がすために『人樹』の注意を集めて……」
派手にやったなアイツ。
『クロエは、あの『巨大人樹』に捕まっていると見て間違いはない』
分かりやす過ぎて、話が早ぇや。
「よし、助けに行くか」
「おう!」
「はい!」
『ああ』
“ローハン……貴方はクランを離れるなら……『霊剣ガラット』を置いて行きなさい……”
「ったく……いっちょ、ガツンと言ってやらねぇとな」
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