第21話 揉む!
オレらは
傷の深さからストフリはあまり遠くまで飛べない。と言うオレの推測は当たり、城から見える山の中腹で一戦交えたらしい。
「夜ん内に、吹雪がぁ止んでよかっだでよぉー」
「ストフリが気を使ってくれたみたいだな」
吹雪はストフリが身体を冷やす為に起こした現象だ。古代種ってのは本当に厄介なヤツらばかりである。
そしてオレたちは晴天の早朝から、タルタスの背負った籠に乗り、四人で移動していた。
タルタスは見た目通りのパワーキャラで、オレらは四人を背負っていても汗一つ掻かずに山を登っている。
「悪いなタルタス。お前を足に使っちまって」
「がまわねぇー。ゼブスにはごれ以上の恩があるでよー」
「へー。ゼウスさんってタルタスに何やったんだ?」
カイルの質問にタルタスは、断崖絶壁を命綱無しで登りつつ答える。変に気をそらすと皆死ぬ。
「サリーの病気を治しでもらっだでよぉー。ゼブスが居なぎゃ、オラは今頃一人だぁー」
あの人らしい。なんやかんやで、困ってる人は見過ごせないんだよな、ウチのクランマスターは。
「サリーは病気の後遺症でちと、身体が弱くなっちまったがぁ、きちんと生活してりゃー体力も戻るって話だぁー」
「よかったな!」
「んだー」
だが、それだと少し気になるな。クランマスターは何で“中層”まで降りずに“上層”を上がったんだ? これ以上は進めない理由があったのだろうか?
『ローハン。氷嵐鳥の傷に残っていた魔力反応を上に検知』
ボルックが目的の奴が上に居ると告げてくる。
こっそり行ける場所ではなかったので、戦闘になるかもしれないな。
オレらは上がると同時に戦闘を身構える。
「よっどら!」
タルタスが崖を掴むと一気に登る。そして、足場に着地すると、
「――――」
オレンジ色の炎に燃える長剣――“炎剣イフリート”を持つジジィが居た。
「んあ?」
陽炎が揺らめく。
“炎剣イフリート”が生み出す大火は、タルタスを容易く飲み込み、射線上を焼き尽くす。
「早起きは三文の徳ってか?」
オレは咄嗟に前に出て氷魔法を発動。防御を重視した『氷陣壁』は瞬時に四層の壁を正面に作り出し、受け止めた。
「あづづづ!!」
一層でもマグマを1日は塞き止めるんだが、それが一瞬で二層も消えた。
しかも奴は剣を振ってねぇ。挨拶でコレかよ。
「タルタス! お前は離れてろ!」
余波で熱空が辺りに残る。環境適応の腕輪を着けているオレらは問題ないが、タルタスは環境ダメージをもろに受ける。クランマスターの作る魔道具は本当に優秀だ。
「ほぅ。ワシの炎を止めるか。久しい強者か、それとも偶然か?」
キィィィン……と“炎剣イフリート”が動く。
「ずまねぇ! 終わったら呼んでぐれぇ!」
ヤバイと瞬時に悟ったタルタスはバックステップすると、崖から飛び降りた。
「灰刃」
奴は軽く“炎剣イフリート”を振る。密度を集めた熱の斬撃が空間ごとオレを通り抜ける。
「ほぅ」
だがオレは精霊化にて身体を炎とする事で熱斬撃を通過させ回避。その間で、
「どうやら、本物みたいですね」
「だな!」
レイモンドとカイルが挟撃。ジジィが剣を振り抜いた瞬間を狙っての接近は完全に虚を突いていた。
「大紅蓮焦土」
ジジィが燃える。そして、爆発するように空間を焼き尽くす炎が広がった。
『フィーバー』
だが、その炎が不自然にフッと消える。ボルックが割り込み、攻撃を無力させたのだ。相変わらず絶妙なサポートだぜ。
「ぬぅ!?」
ジジィは空いている手に炎を握るように即席の刃を形成。レイモンドへ振るうが、『重力』を消して抵抗を無くした飛び上がりで刃を越える。
「多勢に無勢で悪いとは思うぜ!」
更にカイルが“炎剣イフリート”を振らない様に剣で受けて阻害する。
手札は全て見えたか? そこへ、上空に跳んだレイモンドが、重さを放つ。
「『
目に見える重力球はジジィを直撃し、周囲を加重させる。カイルとボルックは環境適応で相殺する事でダメージは無い。
ズゥゥン……と重々しい音が周囲に響く。
「……全員、離れろ!」
ジジィがレイモンドの『重力球』でぺしゃんこになる様を目の当たりにしていたが、次の瞬間には火柱が発生し、オレは咄嗟に『氷壁』で三人を護る。
「どうなってんだ!?」
『氷陣壁』は一瞬で消滅したが、その一瞬の間に三人は距離を取った。
火柱が払われる様に消えると、“炎剣イフリート”を持つジジィが平然と立っている。
「お前ら、気を引き締めろよ? ヤツは“炎剣イフリート”と一体化してる」
人は武器を極めればソレを手足のように操る事が出来る。無論、それは魔法武器にも言えることで、極めに極め抜いた者は文字通り、身体の一部として昇華する。
自由に出現させる事が出来るのだ。
「なんだあれ? おっさんの精霊化か?」
『いや、あれは存在の定義そのものが変わっている。ヤツ自身が“炎剣イフリート”だ』
「どういう事だよ! ボルック!」
「カイル、お前は剣だけを良くみとけ」
よりにもよって“炎剣イフリート”を極めて、炎を自分の身体にしてやがる。鍛え過ぎだろ。
「でも逆に言えば、“炎剣イフリート”を破壊すれば倒せるって事ですよね?」
「まぁな。けど、ソイツは骨が折れるぜ」
実体化した瞬間を狙って、強烈な一閃を叩き込むしかない。
遺跡内部で無ければいくらでも戦り様はあるんだが……いかんせん、こちらには『シャドウゴースト』の縛りがある。本気は出せねぇな。
「熱くなってきたぜ!」
カイルは楽しそうに上着を脱ぎ捨て、狂戦士の笑みでジジィを見ていた。昔から相手が強けりゃ強い程、調子を上げていくのが我が弟子だ。
代わりに今の状態だと“霊剣ガラット”は絶対に抜けんがな。
「ま、まさか……。貴様は女か!」
「あん?」
おいおい。上着を脱いだカイルになんかジジィが反応を示したぞ。
「ワシの“炎剣イフリート”を受け止める者など、ここ100年は一度も居なかった……」
「……」
「お前らの目的はなんだ?」
「オレらは――」
カイルの代わりに説明しようとしたら、ゴゥ! とオレに火炎が飛んでくる。咄嗟に『氷陣壁』。四層の内、三層まで消し飛んだ。あっぶねぇぇぇ!
「話したいんじゃねぇのか! クソジジィ!!」
「やかましいわ! ワシはそこの巨乳剣士に聞いておる! 男は黙っとれ!」
今の、オレ以外だったら殺られてたぞ。
カイルは少し戦意が落ちた様子で、あー、と歯切れ悪くジジィと会話する。
「えっと、ジィさんが攻撃した魔物が居ただろ? 氷の鳥。そいつの傷を消して欲しいんだ」
「氷の鳥……はて……?」
「覚えてないか? それとも知らない?」
「うーむ。銀髪巨乳剣士の胸を揉ませて貰えれば思い出すかもしれんのぅ」
「はいはい。出ました出ました。たまにこう言う人居るんですよね。特に老人」
『欲求の制限が外れた者はカイルに近づけるなと、マスターから言われている』
カイルを庇うようにレイモンドとボルックがスッと前に立つ。“重力”と“制限”の一部を解放してやがる。おーい、『シャドウゴースト』が来るぞー。
「このたわけ共!」
おー、なんかジジィがキレ出した。カイルを考慮してか炎は出さずに“炎剣イフリート”の切っ先を向ける。
「貴様らは護ってるつもりなのだろうが、大事なのは本人の意思じゃ! 未来の広い若者の意思を制限するでない!」
なんか偉そうに中身の無い説教を始めやがった。ちょっと感化され戸惑う二人がウケル。
「して、巨乳剣士よ」
「……その言い方、止めてくんない?」
カイルは少し恥ずかしそうに言う。レイモンドとボルックは隙あらばジジィを殺そうとしているな。
「巨乳剣士よ。ワシはお主に決闘を申し込む!」
聞いてねぇこのジジィ。
「ワシが負けたら、お前さんの問題を取り除こう!」
「お、マジ!」
「マジじゃ! その代わりにワシが勝ったら――」
ジジィはチラッと視線を少し下げる。露骨に胸を見んな。
「そのおっぱいを揉む!」
よし、殺そ。
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