第22話 お尻を触られたの
「うーん」
「また何か悩み事?」
ゼウスとサリアはトコトコと『エンジェル教団』の敷地を歩いていた。
ゼウスは丸腰だが、サリアは腰に拳銃を二丁とサバイバルナイフにガスマスクと言う装備で堂々と進んでいる。
ガチガチに装備したサリアは本来なら飛び止めるどころか、入ることさえ叶わないが、出会う信徒は、まるで何も見えていない様子ですれ違っていた。
「
「遺跡に入ったんでしょ?」
「半日前にね。多分、ロー達は同じ所に出たと思うのだけれど……」
ゼウスが、はぁ……、とため息をつくのは珍しい。どんな窮地でも楽しそうにしているのが彼女だからだ。
「ため息なんて珍しい」
「あら。
「聞くだけは出来るわよ?」
「セクハラされたのよ、
「……は?」
サリアは思わずそんな声が出た。
「“炎剣イフリート”。知ってるでしょ?」
「知ってるわ。『七界剣』の一つでしょ? “霊剣ガラット”に並ぶ一振」
『七界剣』は、この世界に存在する最も代表的なアーティファクトだ。持つ者に無限の力を与える言われる。
サリアもローハンやカイルが“霊剣ガラット”を使う様を見て、言い伝えは誇張ではないと理解していた。
「それを見つけたの」
「凄いじゃない。どこにあったの?」
それが本当なら歴史的な発見だ。
しかしゼウスは嫌な事を思い出す様に、ふむぅ、としかめっ面をする。
「カルバルン・スタンウェイ。あの子が持ってたわ」
「……誰?」
「第一次千年戦争で活躍した『カルゴ』の軍人さんよ」
「第一次千年戦争って……今から3000年前の?」
「ええ。歴史の勉強はきちんとしてるのね」
「こんなんでも『エルフ』だからね」
偉い偉い、とゼウスはサリアを褒めると少しだけ機嫌が戻った。
「『七界剣』の中でも“炎剣イフリート”は誰にでも抜ける剣。けど、適正が無ければ刀身から漏れる魔力で焼き尽くされてしまうの」
「それで、そのカルバルンって奴は適正があったんでしょ?」
「ええ。“炎剣イフリート”の所持者になった彼は戦争に投入されて数多の敵を倒し、『カルゴ』の進行に大きく貢献したわ」
「でも、第一次千年戦争の勝利は――」
「ええ。『カルゴ』じゃないわ。何せ、他の六国がカルバルンを全力で追放したから」
「……何があったのよ」
その時を見ていたかのようにゼウスは語る。
「転移魔法『
それを持って、第一次千年戦争は幕を閉じたのである。
「もう、スケールがデカすぎて良くわかんないんだけど……」
「ふふ。それでね。最近、カルバルンと再会したのよ」
「え? どこに居たの?」
「遺跡内部よ」
ゼウスは遺跡の謎を調べている際に立てた仮説がいくつか証明されたと語る。
「遺跡には色々と仮説を立てていたけれど、今回の一件で別の世界への“接続装置”と言う事が判明したわ」
「へー。システム的な擬似世界じゃないんだ」
今現在『エルフ』の学者達があらゆる定説を立てている遺跡の全容。
特に内部には明らかに不自然な空間が広がり、一定の周期で切り替わる事に対しては、擬似世界が創り出されている、と言うのが有力説だった。
「それでね……ふむぅ……はぁ……」
ゼウスは再度、呆れた様にため息を吐く。今度は連続で。
「あの子の居た世界はイエティが主な住人として生活する世界。当然、相手なんて見つかるハズは無いわ」
「じゃあ、マスターに会えて嬉しかったんじゃないの?」
「
「……聞いても良い内容?」
「聞いて。吐き出してスッキリしたいから」
そして、ゼウスは一言。
「お尻を触られたの」
「……え?」
「お尻を触られたから、雷霆であの子を吹き飛ばしたのよ」
「…………『シャドウゴースト』は?」
「50体くらい出たわね」
「流石にソイツ、死んだでしょ?」
「どうかしら。でもあの子は、もう死んでる様なモノだから。死なないけどもうすぐ死ぬわ」
なぞなぞの様なゼウスの言葉を最後に、二人は遺跡都市で『エンジェル教団』を取り仕切るキングの元へ立つ。
「おはよう、キング」
「あぁ。おはよう……って!!? ゼウス先生!?」
ころんころん、と音が鳴りそうな笑顔で手を振るゼウス。
対して部下と集会の打ち合わせをしていたキングは驚きの声を上げた。
ここは『エンジェル教団』の最奥。数多の警備と感知魔法が何重にも敷かれた場所であり、蟻の数さえも違えば警告が鳴る。
そこへ平然と入り、散歩をするかの様に三大勢力のトップの一人に会うことが出来るのはゼウス以外には成し得ない事だった。
サリアは、マスターが不意に現れる時ってこんな感じか……と、常識を越えた魔法に改めて敬意を感じる。
「敵!? 警報は――」
「鳴らさなくていい……この方の前では無意味だ」
焦る部下を嗜めつつ、キングは額に手を当ててため息を吐く。
「紅茶を頂戴。キング」
「次からは事前に連絡をください。一体何用ですか?」
ゼウスは、にこにこしながら日常会話をするように、
「“願いを叶える珠”を見せてくれないかしら?」
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