第241話 現代に甦らせた伝説だよ
「ここからは一人で行きなさい」
ゼフィラは『虹色の柱』の前に立つソニラの所までディーヤを連れてくると、そう告げる。
「……ハイ」
少し歩みが進まないディーヤだったが、ゆっくりと足を前に出すとソニラへ近づき、
「【スケアクロウ】」
背を向けたまま放たれたソニラの声にディーヤの歩みが止まる。
「かの魔獣を退けた戦士は『太陽の大地』の長い歴史を見ても、シヴァのみです。此度は二人の協力者が居たとはいえ、戦士として最上位の称賛を貴女に与えるとしましょう」
そう言って振り返るソニラはディーヤへ告げる。
ディーヤはその言葉に嬉しさを感じつつも、ソレは自分の力ではないと胸の前で手を握る。
「巫女様。【スケアクロウ】を退けたのハ……ディーヤの力ではありませン」
「ゼフィラから聞いています。カイルとレイモンド。この二人の力も大きかったでしょう。しかし、貴女の尽力があったからそこの結果でもあります」
「違ウ……違うんでス……ディーヤが勝てたのハ……『恩寵』を勝手に使ったからでス」
自分から『恩寵』を手放した。だから、例え戻っても使わずに返す事が戦士としての習わしだ。
認められぬ力を使った勝利に意味は何もない。
「何故……ディーヤに『恩寵』があるのですカ? 巫女様に確かニ……返したはずでス」
ソニラは優しく微笑むと『虹色の柱』に向き直る。
「『恩寵』は私が管理し、持つべき者へ与える。そして、任命された『三陽士』は『太陽の民』を護る。そうする事で私たちは日々を笑って過ごせる」
虹色の光は戦士達の魂が還る光。彼らはヴァルハラで戦士としての記憶を語り合う。
「ですが、“意思”と言うものは時に大きな未来へ紡がれる事があるようです」
「……大きナ……未来?」
「ディーヤ、私は確かに貴女から【極光剣】の『恩寵』を回収しました。それは偽り無き事実です」
「…………」
「ですが貴女が去ってすぐに【極光剣】の『恩寵』は私から貴女へと戻ったのです」
その事実にディーヤは驚きに眼を見開いた。
「……何故……」
「私も『恩寵』は道具として見ていました。しかし、長きに渡り戦士達と共に戦い続けた『恩寵』に彼らの意志が宿ったのです」
ソニラは再び振り返るとディーヤへ歩み寄り、片膝をついて目線を合わせる。
「ディーヤ。貴女は私ではなく『恩寵』に選ばれたの。それは『太陽の民』を護り続けた戦士達が決めた事。だから――」
ディーヤの手を取りつつソニラは告げる。
「私も彼らと同じ様に再び貴女へ【極光剣】を贈りたいと思います。拝命して頂けますか?」
「――――ハイ」
「よう、ディーヤ達帰ってきたって?」
『宮殿』で日光浴をしていたシルバームはディーヤ達の帰還を聞き、トコトコとゼフィラの元へやってきた。
「今は、巫女様とお話中だ。下がっていろ」
「先に結論だけ教えてくれよ。【スケアクロウ】との戦いはどうなったんだ?」
「退けた」
「お前としてはどうだ?」
「実力は十二分ある。『太陽の戦士』に置き換えても上位に値するだろう」
そもそも、【スケアクロウ】と相対して戦い続けられるだけでも『恩寵』候補に上がるレベルだ。
「そんで、背中は預けられそうか?」
「彼らの戦いは純粋なモノだった。仲間と共に敵を討つ意志を強く感じた」
「お前がそう言うなら、カイルちゃんに関しては信用するか」
「ローハンには千華を説得して『円陣』に参加させる」
「わぉ。リンチする気か?」
「死んだらそれまでだ」
「厳しいねぇ」
シルバームは、クックックと笑う。そして、ソニラと話すディーヤをゼフィラと並んで見る。
「『恩寵』をディーヤに戻したのか?」
「正確には“戻った”と言う表現が正しい」
「どう言うことだ?」
ゼフィラは『恩寵』から『三陽士』を選ぶ事がある旨を語った。
「意思が宿る……ねぇ」
「実際にその事例は確認されていた」
「そうなのか?」
「私の家系から【極光壁】を継ぎ続けている事がその証明だ」
今までは確信が無かったが、ディーヤの一件で『恩寵』が次の『三陽士』を選んでいると言う仮説が証明された。
「俺はてっきり……【極光壁】なんて役職はお前の家柄以外にやる奴が居ないから消去法だと思ってたぜ」
「……それで、お前は何をしに来たんだ?」
「そりゃ【スケアクロウ】戦での結果をお前に聞きに来たんだよ」
「なら、用は済んだだろう?」
「この場はな。けど、別の用事が出来た」
シルバームはソニラと半泣きしながら話すディーヤを見て告げる。
「ディーヤに『
「『
「天才である俺が古い文献を読み漁って現代に甦らせた伝説だよ。シヴァの言う事も馬鹿には出来ねぇ。構築までかなり苦労したが、実戦での確認も取れてる」
こっちの盤面も良い流れに整ってきたな。
さぁて……俺はアイツの為の準備を進めるとするかね。
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