第240話 治療(キュア)よ!

「どうかしら?」

「あらん、良い服ねぇん」


 オレは道具持ちとして店長と共に『宮殿』に訪れていた。なんでも、新しい戦士服が仕上がったので、ソレを見てもらう為らしい。


「このキラキラしているのは何かしらん?」


 目の前にはオカマで眼帯をつけたヴァラジャって責任者が、店長の持ってきた戦士服を並んで吟味しながら会話をしていた。


「陽気を吸収しやすい様に『太陽石』の粉塵を生地に混ぜてみたの。これなら夜でも一定の時間は陽気の自然放流を抑えられるハズよ」

「どれくらい?」

「そうね。二時間ってところかしら」

「二時間……もっと伸ばせないかしらん?」

「今できる服の性能はこれが限界。後は各々で『太陽石』を持つしかないわね」

「そう……ありがとね、千華。少しは皆の怪我も減ると思うわん。量産に入りましょう」

「ええ。不具合が出たら連絡を頂戴」


 と、眼が合ったヴァラジャはバチッ! とウィンクしてくる。オレはちょっと、ゾクッ(寒気)。

 店長はオレに荷物持ちの付き添いを命じただけで何も説明しないが、戦争に向けた様子を直に見せてくれるのはそれなりの配慮だろう。

 『太陽の民』の内情を知れるのはかなり助かる。後は【スケアクロウ】との戦いに出向いた奴らだ。あっちはどうなったか……


「ヴァラジャさん!」


 すると、伝書を受け取った者が駆け寄ってくる。


「あらん。慌てないの。お肌に悪いわよん」

「例の【スケアクロウ】に向かった奴らが帰ってくるそうです! 内、怪我人二人!」

「あら! すぐに担架と道具を用意しなさいな。アタシも行くわん。即座に治療キュアよ」

「はい!」


 遠巻きに『グリフォン』の飛行が見える。

 二人怪我をしただと? おいおい……まさか負けたんじゃないだろうな?


「ローハン」

「あ、はい!」


 おっと……今は仕事仕事――


「私はこれからヴェーダの所へ話に行くわ。貴方はカイルとレイモンドの服の様子を見て、私に報告しなさい」

「え?」

「嫌? それなら採掘場に行って『太陽石』の粉塵を――」

「行ってきます!」


 店長は荷物を“糸”でふわりと浮かせると、トコトコ歩いて行った。

 オレは降下場まで足を運ぶと、チトラが上に乗る『グリフォン』が翼を動かして滞空しつつ吊るした『荷箱』を目の前で慎重に下ろした所だった。


「痛てて……」

「アドレナリン切れたらそうなるよ」

「治療優先だナ」

『今日はもう無茶したらダメだよ?』


 扉が開くとカイルを支える様に、レイモンドとディーヤが一緒に出てきた。

 カイルは足を負傷。肩にリースが心配そうに乗っている。


「あ、おっさん!」


 オレに気づいたカイルが手を振ってくる。まったく、この愛弟子は……


「足を撃たれたか」

「俺は避けたと思った!」


 オレは呆れながらカイルの様子を見ると、太股に一発食らってる。

 おそらく【スケアクロウ】の内蔵武器だろう。『光線』を食らったら足一本じゃ済まんからな。


「負けたか?」

「そんなワケねぇだろ!」

「まぁ……【スケアクロウ】には勝ち……で良いんですかね」

「ヤツはまだ、戦えタ」

『でも、あれ以上続けてたら危なかったかもしれません』


 元は【原始の木】を護る為の三体の守護者だ。控え目に言って“眷属”クラス。そう簡単には越えられないだろう。


「まぁ、カイルは治療に専念して――」

「どいてん♪ ローハンちゃん」

「うわ!?」


 オレは後ろから耳元で囁かれて反射的にザッ! と道を開けるように距離を取る。ヴァラジャが悠々と通過しカイルを診る。さらにその後ろから担架部隊が続く。


「足をやったわねん。弾は貫通……みんな! 治療キュアよ! カイルちゃん、三日は松葉杖ね」

「三日!? こんな傷、ゼウスさんなら明日には治してくれるのに!」

「誰ぇん? ゼウスって? この場に居ない人を頼るのは、ダ・メ★ 綺麗な肌に傷を残したらダ・メ♪ アタシの治療キュアを黙って受けなさぁい!」


 あ、ちょっと! おっさ~ん――

 と、担架に乗せられたカイルは、わっしょい! わっしょい! と流れるように運ばれて言った。別室で治療キュアされる様だ。


「レイモンド、リース。ヴァラジャに任せて置けば大丈夫ダ。巫女様の治療も任されている男だからナ」

「アイツは男のくくりなんだな」

「? 当たり前だろウ。腕は確かダ」


 カイルはしばらく安静か。まぁ、戦争に向けてそろそろ休ませようとも思ってたし、口で言っても走り回るから丁度良い首輪だな。


「ディーヤは巫女様に話があル。それでハ」

「おう」

「ディーヤさん、ありがとうございました」

「それは……こっちの台詞ダ」


 そう言って、ディーヤはゼフィラと共に歩いて行った。オレはごそっとリースにアイテムを渡す。


「リース、コイツを持ってろ」

『これはなんです?』

「『記憶石』。当時を思い出しながら魔力を込めれば、その記憶をオレも見れる。カイルが寂しくて煩くなると思うから、付き添いながらソレも頼むぜ」

『はい』

「ローハンさん。ちょっと良いですか?」


 パタター、とリースは飛行し、わっしょいされるカイルを追って行く。入れ違いにレイモンドが神妙な面持ちで声をかけてきた。


「レイモンドもご苦労さん。お前も怪我は無いみたいだが……ボロボロだな。それと、何か音魔法でもくらったか?」


 軽く背中を叩きながらダメージが残る部位を指摘する。


「なぜそう思うんです?」

「気づいてないのか? お前、耳を立ててるぞ。深く索敵する時のお前はそんな感じだ。周りの音が聞き取り辛いんだろ?」

「――よく解りますね」

「周りを見るのが癖でな。【スケアクロウ】は音響武装も内蔵してる。お前なら心配ないと思っていたが……初見で食らうのは仕方ない」

「……僕が耳をやられたのは【スケアクロウ】じゃありません」

「やっぱり、増援が来たか」


 是が非でも国境を割らせたく無いのなら、増援の一つや二つは待機させてるだろう。だが裏を返せば、増援ソレを出させる程に【スケアクロウ】を追い込んだとも言える。


「三対一とは言え、大したモンだ。マスターが聞いたら喜ぶぜ」

「……ローハンさん。ボルックさんだったんです」

「? 何がだ?」

「後で『記憶石』を見てもらえば解りますが……増援はボルックさんでした」


 レイモンドは周りに聞こえない様にオレだけに告げる。


「……確かか?」

「はい。僕はボルックさんと特定の音魔法で連絡を取り合える様にしています。ソレを使って伝えてきたんです」


 クランで索敵を担う二人だからこそ、オレとクロエみたいにレイモンドとボルックにも特定の連絡手段がある様だ。


「『永遠の国アステス』は危険だから近づくな。先に『解放軍』サリアさんか『ゴルド王国』のスメラギさんと接触する様にと」


 怪我の功名か……ボルックの所在が知れるとは。しかも、内容から察するにサリア、スメラギと共に『遺跡内部』に来てる様だ。


「……アイツら、どこで何やってんだ?」

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