第239話 新手……!

 頭部損傷。

 分析機能40%減。

 『光線ライトレーザー』出力不安定。以降、逆流の危険有り。使用停止。


 『霊剣ガラット』の一閃により【スケアクロウ】の巨体が揺らめく。

 『確定予測』は違えていなかった。唯一間違えていた事は『共感覚』に対する情報データ

 『光線』に精霊化すると言う、カイルの本能が引き出した結果――『確定予測』では観測できない全く別の結末に対応策出来なかったのである。


「っと! オラァ!」


 着地したカイルは終わりとは思ってなかった。相手が立っている限り、勝負はまだ終わらない。

 『霊剣ガラット』が【スケアクロウ】の胴部を両断する勢いで横薙ぎに振るわれる。


「――――ピピ」


 頭部を損傷してもカメラの一部が壊れ死角が出来たのみ。【スケアクロウ】の動きは鈍らない。

 カイルは足の負傷効果もあり剣速が衰え、空を斬る。【スケアクロウ】は『霊剣ガラット』の横薙ぎを避けつつ、後退するようにカイルから距離を取った。

 ソレは、予測のつかないカイルに対しての最適解。だが、三人の見方は違った。


「下がった……待てよ!」

「怯えを見せましたね」

「ここで仕留めるゾ!」


 カイルは、ガクンッ、と無理をした足から力が抜ける。その両脇からレイモンドとディーヤが同時に【スケアクロウ】へ迫る。


「――ピピ」


 【スケアクロウ】も二人の迎撃に移る。頭部損傷により『確定予測』に誤差が生まれる為、観測停止。腕部アームと回避を主軸に攻勢を行う。

 その時、外からの命令が割り込む――


『帰還命令。ただちに二番格納庫へ』

『了解。【戦機】、介入ヲ確認』


 ソレは風のように横から割り込むと、レイモンドとディーヤを左右に弾くように立ち塞がった。






「!?」

「っ……なんダ!?」


 目の前に不意に現れたのは【スケアクロウ】と同じくらいの大きさをした『機人』である。

 しかし、【スケアクロウ】のような腕が長く、前屈みのフォルムではなく人に着ぐるみを着せた様な、大きな手足が太く、全体的に大柄なイメージとなる『機人』だ。


「新手……! ディーヤさん!」


 『機人』はディーヤに手の平を向けると、そこから発射された『ネットランチャー』により、近くの大木に張り付けられる様に拘束される。


「くっ……何だ、これハ!?」


 全身を均等に拘束され、更に浮かせられた故に即座に破れない。

 レイモンドは跳ぶと『重力』を纏いつつ蹴り下ろす。加重を乗せた一撃は岩を容易く砕く。


『…………』


 『機人』はソレを肘部に『反射』の魔法陣を展開し、受けると弾き返した。同時に肩の装甲が僅かにスライドする。


「簡単には行きませんか」


 宙に弾かれたレイモンドは加重で着地。その際に脚に力を溜めて、次の瞬間には助走をつけた本気の蹴打を放とうと――


「――――」


 する前に意識を失って事切れた様に前に倒れた。『機人』のスライドしていた肩部が元に戻る。


「レイモンド!? くっそぉ! お前!」


 カイルが『機人』に向かって走る。だが、ストッ、とその身体に針が刺さると、


「がっ!!?」


 電流が流れる。そして、全身の力が抜けて倒れ『霊剣ガラット』を手放すまで放電されると、うぐぐぐ……と痙攣する。


「カイル! レイモンド!」


 『機人』はディーヤに再び手の平を向け――


「『後光の剣』」


 横から振り落とされた『後光の剣』を避ける様に手を引っ込める。

 ザゥッ! と地面には焼ける剣線が走った。


「不可侵を犯したのは我々だが、彼らは証明したのでな」


 傍観していたゼフィラは歩み寄りながら告げ、『機人』は両手の平を彼女へ向け、出力を上げる。


「ここよりは【極光壁】。彼らに手を出すと言うのなら私本人・・が相手をしよう」

『…………』


 『機人』は出力を抑え手の平を閉じると踵を返す。【スケアクロウ】はいつの間にか開かれた金属の国境を越え、その先へ消えていた。

 『機人』もその後に続き、国境は閉じると『永遠の国アステス』は再び沈黙する。






「あ……ぐっそ……」

『カイル……大丈夫?』

「なんか……痺れるるる……」


 リースは何とか仰向けになったカイルを心配して飛び回っていた。


「レイモンド。完全に気を失ってる」


 チトラは全く動かないレイモンドの心音を聞き、呼吸は安定している事を確認する。


「ゼフィラ様。レイモンド無事。カイルは怪我」


 チトラの報告を受けつつゼフィラはディーヤを拘束する金属のネットを外す。『光刃』では切れなかったので拘束している根本を破壊して取り外した。


「怪我はないか?」

「……腕と脇腹が痛いでス」

「帰ったらヴァラジャの所に行け」

「…………」


 ザッ、と踵を返すゼフィラへディーヤは少し口淀んで尋ねる。


「ゼフィラ様。この『恩寵』ハ……一体……」


 【スケアクロウ】との戦いで、返したハズの『恩寵』が再び現れた。その事に関して何か知っているのではないかとゼフィラに問う。


「帰ってから巫女様に聞くと良い」


 ゼフィラはそれだけを言うと、痺れるるる……と痙攣するカイルを抱え上げ、『グリフォン』が離脱待機する『荷箱』へ歩いて行った。






『助かりました。【戦機】ボルック』

『【スケアクロウ】の様子はどうだ?』

『想像を越えていました。【スケアクロウ】がここまで損傷するのは初めてです。『霊剣ガラット』とその所有者。とてつもない脅威です』

『ならば問答は終わりか?』

『いえ。この結果は未だに“病”を覆す情報には足り得ません』

『そうか。では続きを進めよう』


 『永遠の国』が直面している“死病”に関して――

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