第163話 劇場マジシャン

 『シーアーサーブレード』こと『水剣メルキリウス』は強者では触れない・・・・・・・・

 それはこの『シーアーサーブレード争奪戦』に置いて大きな矛盾となっている。


 この辺りでは一般的な『海人』や『人魚』は種族的にも強くなり、『海底迷宮』を抜ける為にもそれなりの腕前は必要だ。

 つまり『水剣メルキリウス』に辿り着く為には“強者”でなければならないのに、手に入れるには“弱者”でなければ不可能なのだ。


「……そりゃ、引退するわな」


 『シーアーサーブレード』を目の前にした【ブレードダイバー】は求めても意味はないと悟ったのだろう。


「うわっ、ホントだ。触れねぇ」


 カイルも、ざぶざぶと『水剣メルキリウス』をスカる。


『これはどうするんですか?』

「リース、魔力を得られないか? オレたちは実物が必要じゃないだろ?」

『やってみます。少し時間をください』

「すげー! おっさん、これ欲しいな!」

「お前は絶対に無理だからな」


 リースが『水剣メルキリウス』の上に着地し、『石碑』に込める為に必要な魔力を得ていく。


「リースは触れてるけど」

「リースは生物的にも弱い存在だからな。けど、触れても剣を持ち歩けないなら所有者としてはカウントされない」


 『水剣メルキリウス』は【七界剣】の中で次々に所有者の変わる武器として有名だ。

 別名“一振の剣” 

 手にした者がその刃を一振して“強者”となった瞬間にその手を離れる。使用する事が前提なら所有し続ける事が不可能とも言える武器なのだ。

 恐らくは――


「ニーノ・A・ペルギウス以外に所持し続けられる奴は金輪際現れないだろうな」

「誰?」

「胡散臭い、劇場マジシャンだよ」


“ほらほら、どうしたんだい? ローハン。ゼウスの息子なのに、こんな仕掛けもわからないのかい? ほら君の襟からカードが出た。ポケットにもあるよ。ふふ。僕の偉大さを思い知ったかな? ん? ん?”


 幼少期に母さんに連れられて世界中を旅していた時に出会ったニーノのドヤ顔は今でも思い出して腹が立つ。


「クソ、嫌な事を思い出したっ!」

「お、おう……なんか知らないけど……おっさんが苦手な奴か」


 ニーノの腰には常に『水剣メルキリウス』が有った。本人は何があっても使わずに、逃げてばかりのザコのクセにオレに勝ち逃げした唯一の相手だ。

 しかし、今『水剣メルキリウス』がここにあるのは色々と複雑な事情がある。


「まぁ、何にせよ。オレらにこれは持っていけない。出来る事ならこんな所に放置したくはないが……」

「なんで?」


 カイルの問いにオレは即答は出来なかった。少し言葉を選ぶ。


「…………『水剣メルキリウス』は探してる奴が居てな。出来れば持って行ってやりたかったんだ」


“今回の件、我々は互いに大切なモノを失った。君たちは『家族』を我々は『導き手』を。もしも、旅先で彼女の遺品を見つけたら私に教えて欲しい。アラン殿と共に眠りにつかせてあげたい”


 悪いな、ルシアン。『水剣メルキリウス』だけは無理だ。遺跡内部って事もあって場所を教えようにもわからんし。


『ローハンさん。魔力を得ました』

「『石碑』には使えそうか?」

『はい』


 リースが少し水色の光を纏ってパタパタと飛行。『海底迷宮』も狭まって来たし、そろそろ退却と行きますかね。


「ハワイには『シーアーサーブレード』は手に入らなかったって口裏を合わせてくれよ」

『はい!』

「おう!」


 よし、目的の魔力も手に入れたし、カイルも『水剣メルキリウス』を腰に装備してるし忘れ物は何一つ無――ん?


「…………は?」

『……え? カイル……』

「ん? なに?」


 カイルは、どうした? とオレとリースの視線を返す。その腰には『水剣メルキリウス』。

 いや……いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!!!

 待て待て待て待て待て!!!


「お前! 何で『水剣メルキリウス』を抜いてんだ!?」

「なんかじっと見てたら、イケそうだったからさ。さわれたから、そのまま抜いたら普通に抜けた! そしたら勝手に鞘と固定バンドも出てきた!」

「出てきた! じゃない!」


 なんだ!? どう言うことだ!? 『水剣メルキリウス』の所持条件は“誰よりも弱き者”じゃないのか?! いや……まてよ。


「カイルお前、『水剣メルキリウス』を見つける時に“歌声”が聞こえるって言ってたよな? それって今でも聞こえるか?」

「んー、聞こえない」

『これは……どういう事なのでしょう?』

「オレには推測しか立たん……」

「俺もよくわかんないけど! ラッキーじゃん!」


 ラッキーで片付くモノなのか? 考えられるのは『共感覚ユニゾン』の効果だろう。くそ……マスターと議論しないと結論が出ねぇ!


「と、とにかく帰るぞ。色々考えるの陸に上がってからだ」

「おう!」

『は、はい!』


 『海人みんな』の“夢”を簡単に引っこ抜きやがって……

 まだ“海割れ”で開いている道を急いで戻ろうとした時、


「待てぇい!!」


 そんな声が聞こえてオレたちは足を止めた。


「なんだ!? 誰だ?!」

「俺だ!!!」


 オレの問いに答える様に叫びつつ目の前に現れたのはハワイだった。

 残り僅かな“海割れ”の道を全力で走ってきたのか、肩で息をしながら目の前に立っていた。


「なんだ、ハワイのおっさんか。見てくれよ! 『水剣メルキリウス』! これが『さーぶれーど』だろ!」

「お、おい……カイル……」


 今、ハワイに見せたらヤバい気がする……

 すると、ハワイはスッ……と目を閉じた。そして、ゆっくりと目を開ける。


「俺の『シーアーサーブレード』……」

「げっ……」

「眼がやべぇ」

『ハ、ハワイさん……落ち着い――』

「俺の物俺の物俺の物俺の物俺の物俺の物俺の物俺の物俺の物俺の物俺の物俺の物俺の物――俺の物!!!!!」

「クソッタレ!」

「うぉ!?」

『キャッ!?』


 錯乱したハワイが襲いかかってきた。

 “海割れ”が終わるまで時間が無いってのに……最後の壁がコイツかよ!

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