第162話 『水剣メルキリウス』
「あ、おっさん!」
『ローハンさん』
オレはカイルの反応を辿って行くと、海底渓谷の近くでその姿を見つけた。
近くには『海人』と『人魚』が気を失って倒れており、コイツらを相手に勝った様だ。
カイルは嬉しそうに手を振って駆け寄ってくる。犬属性全開の愛弟子。リースも無事な様子でパタパタと飛行してくる。
「おいおい、お前は面白い様にボコボコだな」
加護の着けたTシャツはボロボロで、カイルの顔にはアザが出来て少し腫れ始めていた。
「俺は二人を相手して勝ったんだ! 激闘だったんだぜ!」
『大変でした』
「どうせ正面からド突き合ったんだろ? お前は駆け引きを覚えなさい」
「んー、最後にぶっ飛ばすならどっちでも同じだろ?」
そりゃ、そうなんだが……カイルは普段から剣で敵を切り伏せる関係上、それよりも近い間合いの相手には無理を通す傾向にあるな。
ソーナとの戦いの時もボコボコ殴られてたし。こりゃ、少しは徒手格闘の間合いを教えてやった方が良いかもしれん。
『カイル、ローハンさん。少しずつ海の壁が狭まってます』
オレらよりも高い視線で飛行出来る『結晶蝶』のリースは“海割れ”が徐々に終わってきている様子を教えてくれた。時間はそう多くは残ってないか。
「『
オレは『広域感知』にて残りのマップを把握。まだ通れるルートで『シーアーサーブレード』が安置されてそうな場所に目星を立てた。後はどう最短距離を取るかを――
「おっさん、おっさん」
「なんだ?」
ツンツンしてくるカイルは一直線に2時の方向へ指を向けていた。
「あっちに『さーぶれーど』あるぜ」
「なに? あっちは――」
カイルの指差す方向に集中して感知を回すと、確かに拓けた空間がある。
「カイル、お前……魔力感知が出来るのか?」
「よくわかんない! でも、なんか聞こえるんだ。何かな……これ、歌?」
「…………ハハ。マジかよ」
『シーアーサーブレード』は魔力感知には引っ掛からない。故に見つけるのは目視でなければならないのだが……
恐らくカイルは『
『
「よし、案内してくれ。最短距離で行くぞ」
「おう! そうだ! 見ててくれよ。俺の『水マホー』!」
カイルはバッ! と両手を上げる。道を作れ! と叫ぶがシン……と何も起こらない。
「あれ? さっきは上手く行ったのに! なんでだ!?」
「フフフ……」
「あー、おっさん! なに笑ってんだ!」
「いや、なに――」
オレはパチンッ、と指を鳴らして周囲に漂う『水魔法』の魔力を使って『水域』を発動。簡単な道を作る。
「あ! 俺が作ろうと思ってたのに!」
「そう言う時はオレを対象にしろ」
オレらは対岸に渡ってカイルの案内で『シーアーサーブレード』を目指す。
『なんと、なんと! なんと言う大判狂わせ!! あの【雷震】ウェーブが『人族』に敗れ、【ダイバーランク10位】のタルク、【拳姫】セレンも同じ『人族』沈められたぁ! 『
そんなマレーの実況が陸へ伝わる頃、ローハンとカイルは『シーアーサーブレード』を最短距離で目指して他の『海人』と遭遇していた。
「軟弱な『人族』めが! この【ダイバーランク9位】のドッセス様が相手だ!」
「くふふ。この僕の計算では91%と確率でこの先に『シーアーサーブレード』がありますねぇ。このテュルフの計算に間違いはありません。ハイ」
「ウェーブのグループを殺ったのか、お前ら! 俺の名はダイン。勝てると思うな!」
オレはドッセスを『音波』で怯ませて【玄武】『絶壊』で吹っ飛ばす。
カイルはテュルフの顔面に飛び膝蹴りを叩き込み、眼鏡をかち割ってノックアウト。
ダインの『音波』をオレは『音破』で相殺し、カイルがインファイトを仕掛けてる隙に背後に回り、トンと首筋を叩いて『音破』を打ち込んで意識を失わせた。
「なんだ? 雑魚ばっかだ」
「連携すりゃこんなモンだよ」
三人は個別で現れたので、基本二対一で潰した。無論、ウェーブよりも実力が劣ってた事もあるが、ホントに『海人』は搦め手に弱いのな。
『あ! あれですか?』
そんな奴らを迎撃していたら遂に目的の広間へ辿り着く。そこの中心には岩の上にポツンと刺さる1本の細剣が存在していた。
青い刀身。
うわ……間違いねぇ。『シーアーサーブレード』は――
「あれだ! 『さーぶれーど』!」
『やった! やりましたね!』
「…………」
「どうしたんだ? おっさん」
オレは『シーアーサーブレード』に近づくとその柄へ手を伸ばし触れた。
「え?」
『ええ!?』
カイルとリースが驚く。そりゃそうだ。握ろうとした瞬間、まるで水でも触るかのようにオレの手は通過しちまったんだからよ。
「やっぱりそうか……」
「おっさん。何か知ってるのか?」
『シーアーサーブレード』を前に嘆息を吐くオレにカイルが歩み寄ってくる。
「『シーアーサーブレード』は【七界剣】の一つ……『水剣メルキリウス』だ」
「ええ!?」
この剣を手に取る事が出来る条件は至極単純――
“誰よりも弱き者”
である事だった。
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