第161話 おいおい、冗談だろ……

 生まれつきだ。

 生まれつき、俺とアイツは他とは違っていて、だからこそ『シーアーサーブレード』に夢を見たんだ。






 『海人』としては珍しく、俺は体内で電位を作る器官を持って生まれた。

 しかし、それは海を生活環境とする『海人』としては欠陥も良い所で、周囲に被害を及ぼす事は勿論、俺自身も感電する事からも命を危ぶんだ。

 幼いながらに感情的になれば発動してしまう事から、親父とお袋は俺の為に陸での生活を余儀なくされた。


「ウェーブ、父さん達の事は気にするな。別に生活が出来ないワケじゃない。お前は自由に生きなさい」


 親父は『海人』でも腕の立つ狩人と言うワケではなく、お袋も平凡な『人魚』だった。

 海辺の近くに住居を構えた俺に友達は居らず、いつも楽しそうに遊ぶ陸の奴らを眺めていた。

 近寄れば、“電気野郎ー”と石を投げてくる。別に負ける事は無いだろうが、それで親父とお袋に迷惑がかかると考えると、距離を取るのは必然だった。その分、信頼できる存在は両親の二人だけだったが。

 そんな時だ。“海割れ”の時以外では誰も近づかない『海底迷宮』でハワイと出会ったのは。


「おれはハワイ! おっとあんまり、おれに近づくな。他のヤツに比べて『鼓動』が大きいみたいでさ。気分が悪くなるらしいんだ」


 ハワイも俺と同じ様に他よりも特異な体質で皆から距離を取っていた。

 似たような境遇だったからか。何度か『海底迷宮』で顔を合わせると、次第に日頃の愚痴を話す様になり親友と呼べる間柄になるのはそう時間がかからなかった。


「なぁ、ウェーブ。『シーアーサーブレード』って知ってるか?」


 ハワイはこの『海底迷宮』に存在する『シーアーサーブレード』の事を嬉しそうに語った。次第に俺もハワイと同じ様に『シーアーサーブレード』に夢を見るようになった。


 かつて、海を支配していた【暴君】ポセイドン。そいつから海を解放した“英傑”アーサー・ペルギウス。

 それは遥か太古の伝説。お袋がよく話してくれた。しかし、偉大な英傑が残した剣――『シーアーサーブレード』は実在し、伝説は本当であるとハワイは熱弁する。


「ウェーブ、おれは『シーアーサーブレード』を絶対に手に入れるぜ! 他の『海人』には無い、おれの強すぎる鼓動は……伝説に手を伸ばす為の大きなアドバンテージになる!」


 忌むべき体質を己の夢の為に役立てる。ハワイのその言葉に俺は救われた。

 俺とハワイの集合場所は『海底迷宮』。その過程でセレンと出会い、ボーゲンやタルクと出会い、俺たちは海底渓谷の奥底でアーサー・ペルギウスの伝説を観た。


 ハワイは当然ながら、他の三人も夢が強くなったんだと思う。

 しかし、大人になるに連れてやることは増え、純粋に“夢”ばかりを語ることは出来なくなる。

 セレンはふと居なくなり、ボーゲンは親の後を継ぐ為に『海獣使い』として付き合いを空ける事が増え、タルクは己の道を的確に見つけて歩み出した。

 俺とハワイは己の能力に耐えて使いこなす為に身体を鍛えに鍛えた。

 そして、ハワイは海で【ダイバー】として活動し、俺は非合法の賭け試合に身を投じていた。


 相変わらず俺の『雷魔法』は海では他に被害を生む。この歳になると制御は出来ているが、どうせなら有効に使いたかった。

 それに偶然にもセレンと再会出来たしな。

 昔のメンバーも揃い、俺たちは“海割れ”に挑戦した。

 ベテランの【ブレードダイバー】相手に善戦するもハワイは俺らを庇って離脱。託された俺たち四人は初参加で『シーアーサーブレード』を目の前にしていた。


 運が良かったとしか言えない。

 しかし、俺たちはこの場にハワイが居ない事に『シーアーサーブレード』を抜く事はしなかった。

 『シーアーサーブレード』を抜くのはハワイの役目だ。俺たち四人は心にそう決めていた。

 けど、折角なので記念に触るくらいは良いだろう、と『シーアーサーブレード』に触れた――――



 



「――――!?」


 オレは去ろうと背を向けた瞬間、ガバッと上体を起こしたウェーブの気配に後ろを振り返った。


「おいおい、冗談だろ……」


 “お前のフィニッシュ+オレの攻撃力”が無防備な所に直撃したんだぞ? 何でまだ動け――


 しかし、ウェーブはすぐに姿勢が崩れて横に倒れそうになる。身体に力が入っていない。ヤツは『甲牙』を耐えたのではない。強靭な意識が何とか身体を動かしている状態だった。


「……ぐっ……」


 それでもウェーブは重々しく身体を起き上がらせ立ち上がる。しかし、膝は震え、まともに歩くことさえも出来ずに戦える様子は皆無だった。

 オレも改めてウェーブに対して警戒を向ける。


「……ウェーブ、もうお前の敗けだ」

「……『シーアーサーブレード』には……行かせねぇ……」


 絞り出す様にウェーブはそう言うと、不敵に笑って告げる。


「それに……俺は……まだ立ってるぜ……?」

「……お前は“戦士”だな」


 オレはウェーブに対して踏み込む。これが最後だ。


「来いよ……勝つのは俺だ……」


 ぶんっ! とキレも威力もない朦朧としたウェーブの拳をオレは避けつつ懐に入るとその顎を肘で刈り、脳を揺らす。


「――――」


 ウェーブは最後の糸が切れた様に意識を失うと俯せで倒れ、沈黙した。

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