第164話 【海震】ハワイ
【ダイバーランク】
それは海底協会が定める“猟有海域”で安全に狩りを行うシステムだった。
海中環境下における、『戦闘力』『判断力』『功績』を総合して毎年定められる序列のようなモノ。ランクに応じてそのダイバーへ依頼を行ったり、特定の“猟有海域”への協力要請をする目安として機能している。
殆どの『海人』や『人形』が登録する中、始めてランクに載ってから僅か数年で“1位”に上り詰めた『海人』がいた。
ダイバーランク1位……【海震】ハワイ。
この名前はここ数年、変わることなく“1位”に記載され続けている。
「俺の物!!!!!」
「クソッタレ!!」
「うぉ!?」
『キャッ!?』
これが『シーアーサーブレード』争奪戦のラストバトル!
“俺の物!”と、ハワイは『シーアーサーブレード』を狙ってカイルへ襲いかかった。
「ちょっとハワイのおっさん!? 落ち着けって!」
「うぉぉぉぉ!!」
落ち着きの無いカイルでさえもその様な言葉が出てくる程にハワイの様子は異常だ。見誤った。こいつ……ここまで執着してたのかよ!
「オラッ!!」
オレはカイルへ一直線に向かうハワイの脇腹に【玄武】『絶壊』をぶちこむ。
本来は仲間であるが、今はそんな事を言ってる場合じゃねぇ! 時間もない以上、流暢な事をやっているとオレらが深海に呑まれて死ぬ。
ウェーブを正面から圧した一撃を急所へモロ入れた。だが、逆にバチッと
嘘だろ……?
「邪魔を……するなっ!」
「チィ!」
振り払うような何気ない裏拳。『甲牙』を合わせ――
「いや……ダメだこれ!」
オレは身を屈めて回避。上を通過する上腕は髪を掠めるが、近くを通るだけでビリビリと震動が伝わってくる。
コイツ……『音界波動』の出力が異常だ! ウェーブが“鎧”だと加味すると、ハワイの『音界波動』は“装甲”。それも『絶壊』が弾かれる程の出力を平然と纏ってやがる!
『甲牙』で返しても防御の方が高いために効果は皆無だっただろう。
「俺の物!!」
「くっ!」
ハワイの前蹴りをオレは『音破』を纏った両腕をクロスして、更に後方へ飛びつつ受ける。
それでも吹っ飛ばされ、近くの岩に激突。震動が効果として残り、両腕が震えて止まんねぇ……
「おっさん!」
「カイル! ハワイの攻撃は絶対に受けるな!!」
なんつー奴だよ! 『音界波動』のレベルが違いすぎる。
「『シーアーサーブレード』は……俺の物!! 俺の物!! 俺の物!! 俺の物!! 俺の物!!」
「わっ! うっ! やっ! とっ!」
ハワイの『俺の物ラッシュ』をカイルは器用に避けている。
『水剣メルキリウス』を抜く暇もない様子だが、それ以前に味方と認識しているハワイにカイルが剣を振れるかが怪しい所だ。
『ハ、ハワイさん! 止めて下さい!』
「俺の物!! 俺の物!! 俺の物!! 俺の物!!」
『こ、言葉が通じませーん!』
リースが、ひーん、と泣く。常識を貫く姿勢には脱帽だが、その手の奴には言葉は通じないぞ。
しかも『水剣メルキリウス』をハワイが触る事が不可能な為、一時的に渡して止める事もできん。
加えて『音界波動』の“装甲”はこちらの攻撃を受け付けず、ハワイの攻撃力を数倍に補強している。
殺す気でかかっても殺れるかどうか。しかし、攻撃力が足りなさすぎる。
カイルは、ハワイのおっさん! 止めろって! と言いながら避けているが、連戦の疲労やダメージもあって捕まるのは時間の問題だ。
「クソ……これだけは使いたくなかったんだが……」
オレはまだ震えが残る手を何とか持ち上げてパンッ、と両手を合わせる。
「
これ以上、愛弟子を追い詰めるのなら手段は選んじゃいられねぇ。幸いというか『音魔法』と『水魔法』の魔力は必要以上に満たしている。
「『ニーノの
これだけは絶対に使いたくなかった。
何故かって? あのドヤ顔女と会う事になるからだよ!
「うぉぉぉぉ!!」
「ちぃ、くそっ!」
カイルは迫り来るハワイに対して遂に『水剣メルキリウス』を抜くことを決めた。
『水剣メルキリウス』がどれ程の攻撃力を持つのか解らないが、ローハンが吹き飛ばされたまま動かない様子を見て、もはや気遣っている場合ではないと、柄を握る手に力を込める。
「『シーアーサーブレード』ォォォ!!」
「オラっ!」
『音界波動』を纏って振り下ろされるハワイの拳に合わせてカイルは『水剣メルキリウス』を抜き放つ。
「……はぁ!?」
ハワイの拳は水を殴った様に『水剣メルキリウス』を一方的に弾き消失させた。そのまま貫く拳がカイルへ直撃するが、その姿も水のように揺らいで消滅する。
「何!? どこだ!? どこに行った!? 俺の『シーアーサーブレード』!!!」
「おっほん」
血眼に視線を周囲に巡らせるハワイへ、己の存在を伝えるようなワザとらしい咳払いが周囲に響いた。
「ぬぅ!? そっちか!」
ぐぉ!! とハワイが振り向く。
そこには、いつの間にか用意されていた、テーブルと日傘に三つの椅子。
テーブルには人数分の紅茶やお菓子が置かれリースが着地。椅子にはカイルとローハンと、シルクハットを被った女が座っていた。
「え? え? なにこれ?」
『あれ? これは……いつの間に?』
「…………」
いつの間にか席に座らされていたカイルと、テーブルの上に着地するリースは困惑し、ローハンは額に手を当てて項垂れつつ女を見ない様にしていた。
「やれやれ。僕の力が必要なんだろう? ローハン。ふふ。僕の偉大さは君の中では色褪せないモノと言う事だ」
「……死ぬほど不本意だけどな」
「え……誰?」
『……何者です?』
カイルとリースの言葉に女は傍らに立て掛けた杖を持って立ち上がる。そして、シルクハットをくいっ、と持ち上げて後ろ目で二人を見た。
「素敵なお嬢さん、麗しい結晶の妖精さん。僕の名前はニーノ・A・ペルギウス。以後、お見知りおきを」
「あ、ども。カイル・ベルウッドです」
『リースと言います……』
「カイルにリース。うん、良い名前だ」
「『シーアーサーブレード』ォォォォ!!」
呑気に自己紹介をしている間を暴走ハワイが悠長に待つハズもない。全身に『音界波動』を纏い、一定の範囲を抉りながら突っ込んでくる。
「うわっ、来た!」
『ローハンさん! 何とかしないと!』
するとニーノが、手出し無用、と言いたげに手をかざすとカイルとリースの離席を止めた。ローハンはこれから何が起こるのか理解しているのかずっと頭を抱えている。
「飛び入りのギャラリーはいつもの事。さぁ――」
『音魔法』が反響し、低い音と高い音を混ぜた軽快な音楽へ。
『水魔法』が作用し、色の無い空間に彩りを持たせる舞台へ。
「僕たちだけじゃない。ここら一帯を僕の“オールナイトショー”に招待しよう!!」
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