第151話 筋肉災害
『さぁ……さぁさぁ!! 今年も来ましたよー! 世
海辺から手を上げて『音魔法』で場に声を届けるマレーは半身半魚の種族『人魚』である。
マレーちゃーん! と声援が返ってくる程に人気のようだ。
『彼女は海底協会の職員ですね』
「海底協会とかあんのか……」
「おっさん! 『人魚』ってマジで居たんだな! 泳ぐの速そー」
カイルは初めてみる『人魚』に眼を輝かせている。その視線に気づいたマレーは手を振ると、カイルもぶんぶんと振り返した。
『【ブレード・ダイバー】の皆さんには周知だと思いますが、今一度『海底迷宮』の説明をさせて頂きます!』
初めて参加する【ブレード・ダイバー】にも親切に説明してくれるらしい。
『“海割れ”によって発生する『海底迷宮』では、魔法が著しく制限され、金属類は錆びて使い物にならなくなります。加えて空間に漂う特殊な水分は衣服に付着し、その身を重くしてしまいます。故に水着の着用がお勧めですよー』
それで、水着推奨なのか。後、武器も使い物にならなくなるから皆素手だな。
『そして『海底迷宮』の順路は毎回ランダム。いくら道順を覚えても全く意味はありません。つ・ま・り! 初参加の【ブレード・ダイバー】さんでも『シーアーサーブレード』を手にする可能性は十分にありますよ!』
そんな可能性は微塵もねぇ。
って言いたげに、ウェーブのグループが無言のオーラを放ってやがる。
他の【ブレード・ダイバー】はそれでも、己が手に入れる、と言わんばかりの佇まいだ。みんなマッチョで威圧感がハンパねぇよ。
『尚、『シーアーサーブレード争奪戦』での殺傷沙汰は、海底協会は干渉しませーん。あくまで【ブレード・ダイバー】の方々の勇姿を陸と海の両方にお届けするのが仕事なので!』
マレーは完全にエンタメの為にいるワケか。すると、波がゆらゆらと不規則な様を見せ始める。
『さぁ間も無く“海割れ”です! 【ブレード・ダイバー】の方々! 観客の方々、準備はよろしいですかぁ!?』
波が意思を持つように割れ始めると、少しずつ奥へ続く道を作り出す。
入り口は三つ。浜辺の【ブレード・ダイバー】達は強制的に三組に別れることになる。ちなみにオレ達は右端。ウェーブの奴らは左端に陣取っている。
そして、完全に道が拓けた。
『それでは! 今年こそ【キング・ダイバー】が生まれるのか! GO! GO! です!』
うぉぉぉぉ!! と筋肉どもが駆け出した。恐ろしい肉の津波は、ドドドドッッ! と走るだけで砂浜を掘り起こす勢いで進行する。
「あっはっは! スゲー!」
「リース! カイルから離れるなよ! 轢かれるぞ!」
『ひぃ~』
走り出した筋肉どもに混ざってオレとカイルは走り出し、リースはカイルの肩にしがみつく。前方が一人でも転けたら大惨事だぜ、こりゃ。
うぉぉぉ!!?
と、ドタドタと前方が転倒する。考えた側から転けやがった!
詰まる前方の筋肉とその事情を知らない後方の筋肉。筋肉板挟み。地獄絵図。しかし、こんな修羅場は慣れたモンだ。
「っと、どりゃあ!」
「ほっ、よっ、とっ!」
オレは前方の筋肉を踏み台にして大きく飛び越え、カイルはまだ通れる隙間を的確に見つけ、すり抜ける様に肉の板挟みを突破する。
「俺を踏み台にぃ!?」
「なんて、しなやかな筋肉なんだ!」
オレとカイルの突破劇に対して後ろからそんな声が聞こえる。一度突っかかった筋肉どもは後ろからの追加で更に団子状態。もはや天変地異だぜ……
『アレに巻き込まれた様を想像すると……恐ろしいです』
「みんな大丈夫かなぁ」
「……まぁ、大丈夫だろ」
ぐぁ~……
止まれー!
などと阿鼻叫喚だが、アレで潰されるレベルの鍛え方じゃないだろう、あの筋肉どもは。
「無事だったか?」
すると、先頭組にいたハワイは、筋肉地獄が発生する前に飛び出していた様だ。
「何てことねぇよ」
「ハワイのおっさんも、無事だったか!」
「はやり、君達に声をかけて正解だった。唐突なアクシデントにも咄嗟に対応するとは。君達はかなり場馴れしているようだね」
「組む事になった以上、足は引っ張らないさ」
ハワイと共に少し駆け足に『海底迷宮』の先へ進む。割れた海が壁になり、上には水幕の様に海中がある。
「一気に行くぞ」
ハワイが『水魔法』で壁の海を少し拝借して、水の流れを作るとオレらを乗せて高速で降る。
「速えー!」
「なるほど、こう言う使い方もアリか」
『ひぃぃぃ!』
リースが飛ばされそうになったので、カイルは膝に抱えるように乗せてあげていた。
「絶叫系は苦手か?」
『叫ぶ程に速く飛びたくありませんよ……』
「あはは。GO! GO!」
『結晶蝶』のリースは適当な攻撃でも散ってしまうから、そりゃ心労が凄いわな。カイルは現状を楽しそうにしている。
オレら四人は山を下るかのように下へ下へ向かっていくのだが、次第に光量が減っていく。思ったよりも深い所に『シーアーサーブレード』はあるようだ。
「おお」
上を見上げると海獣が泳いでいる様をリアルタイムで見れる。中々に幻想的な風景だが最悪、海水が押し寄せた時の事も頭に入れて置かねぇと。
ハワイは怖じ気づく様子が無い所を見るに『海人』は深海には平然と適応している様だ。【ブレード・ダイバー】の過半数を『海人』が占める理由もわかる。
「よし、着いたぞ」
水流が減速後、停止。どうやら海底に着いたようだ。
目の前に淡い青色の光が点在する鉱石が足元を照し、回りの海には発光するクラゲが漂っている。薄暗いが最低限の光は確保できていた。
「完全にダンジョンだな」
「なんか、ヤベー奴が居そう」
『この先に『シーアーサーブレード』があるんですね』
「ここからは作戦通りに――」
その時、横の海壁から飛び出した巨大な触腕がハワイを絡めとった。
「こいつは!?」
「! ハワイのおっさん!」
助けようとしたオレらを制する様にハワイは腕を伸ばして奥を指差す。
「先に行ってくれ! 後で合流する!」
それだけを言い残し、海壁から深海へ引きずり込まれた。
オレは『広域検知』にて、ハワイを拐ったヤツの全容を確認するが……
「……マジかよ。『
デカ過ぎて全てを把握しきれない。全長1キロは以上は有る。
「行くぞ、お前達」
「え? ハワイのおっさんは!?」
『た、助けに行かないんですか?』
「海の中は流石に無理だ! オレ達だと海壁から外に出た瞬間、水圧でぺしゃんこだぞ! ハワイを信じろ! ヤツは『海人』だ!」
『クラーケン』が襲ってきたら『シャドウゴースト』を出さずに撃退できる気がしない。
「ハワイに絡んでる隙に奥に向かうぞ!」
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