第150話 【ブレード・ダイバー】

 次の日――

 暑い陽射し。

 ザザァン……と打ち寄せる波。

 浜辺に集合するマッチョ共。

 水着姿のローハン&カイル&リース(麦わら帽子だけ装着してカイルの肩に着地)。


「スゲー! これが全員【ブレード・ダイバー】か!」

『なんか、浜辺が狭く感じますね』

「それ、気のせいじゃないぞ」


 筋肉密度が多いんだよ。まるで筋肉の見本市である。

 しかも、何人かマッスルポーズ極めて肉体美の個人バトルしてるヤツもいるし。暑苦しい……


「水着である必要がアレだけなら着る必要は完全に無かっただろ」


 なんでも、“海割れ”に参加する為には水着でなければならないらしい。

 理由としては普通の服では足枷になるとか何とか。オレとカイルも水着を勧められて、『シーモール』の水着専門店で買ってきたのだ。

 ちなみに他の【ブレード・ダイバー】は皆、水着なのを良い事にマチョマチョ具合をこれでもかと見せつけている。オレもそれなりに鍛えてはいるが、奴らの仕上がり具合を見れば素人同然だ。

 オレは短パンタイプの水着。カイルは競泳水着を選んだ。まぁ、動きやすいから良いんだが……目立つ胸はそれなりに視線を引き寄せるらしく、品定めの視線にイラっと来る。


「カイル、このシャツ着とけ。防護つけてるから」

「お、サンキュー! おっさん!」


 さりげなくTシャツを着せてやると、周囲から、チッ、と舌打ちされた。殺すぞ、テメーら。


「あ、ハワイのおっさん!」


 すると、マッチョの中から良いマッチョのハワイを確認。カイルがこっちこっちー、と手を振るとずんずんと歩いてきた。


「おはようさん」

『おはようございます』

「暑っちーよな!」

「はっはっは。『人族きみたち』にはこの陽射しはキツイか。『海人俺たち』には程よい日和なんだがな」


 種族が違うと環境の感じ方も異なる。『海人』にとってすれば、この陽射しも風景も日常ってトコか。


「今日はよろしく頼むぞ」

「ああ」

「おう!」

『全力を尽くします!』


 オレらは急遽、協力関係にあった。話しは先日の酒場に戻る――






「力を貸して欲しい」


 大柄で筋肉の山を搭載したハワイが席に座ると、椅子が小さく見えるな。


『力をですか?』

「……珍しいな。『結晶蝶』が喋っているとは」

「リースって言うんだ! 俺はカイル! こっちは師匠のおっさん!」

「リース、カイル、オッサン。よろしく」

「いやいや……オレはローハンね。オッサンじゃない」


 ワケわかんなくなるから自己紹介は絶対に大事。


「それで、なんでオレ達に声をかけたんだ?」

「君達がウェーブと対峙していたからさ」


 ハワイは一呼吸置いて神妙な面持ちで告げる。


「『シーアーサーブレード』」


 その単語を口にするハワイの雰囲気は神聖なモノを思い画く様子だった。


「あの剣はこの海域に古くから伝わる伝説なんだ。『海人』は子供の時から子守唄の様にソレを聞かされ、誰もがソレを手にする事を夢見る」

「良くある話だな」

「けど、伝説が語られてはじめてから『シーアーサーブレード』を手に入れた者は誰もいない」

『どういう事ですか?』


 リースも把握していない情報をハワイは持っている様だ。


「噂は多くある。海底迷宮が複雑だとか、とんでもない化物に護られるとか、そもそも存在しないとか」

「『シーアーサーブレード』本体は確認出来てないのか?」

「見た者は何人か居る。“海割れ”によって発生する海底迷宮は毎回ランダムだからね。運良く最短距離で『シーアーサーブレード』にたどり着いた者もいる」

「じゃあ、何で誰も手に入れてないんだ?(もぐもぐ)」


 カイルのヤツ、食べながら話すと言う器用なマネをしだしたな。


「解らない。『シーアーサーブレード』にたどり着いた者は一人も例外なく【ブレード・ダイバー】を引退してる。まるで求める事が無駄だと言わんばかりに口も閉ざすんだ」

「……おたくはどう思ってんだ?」


 オレの質問にハワイは拳をグッと握る。


「勿論、あると思っているさ。そして、ソレを手に入れた時、俺はあらゆる海の男の頂点――【キング・ダイバー】となる!」


 なーんだか、【ブレード・ダイバー】界隈にも変な事情がありそうだ。しかし、『シーアーサーブレード』……ここまで噂になってるなら実在するのは確実。しかし接触した者を引退者に追い込んでるってのはちょっと気になるな。


「そして、次の“海割れ”が起こるのが明日。君達にもソレに参加して欲しい」

「元々そのつもりだ」


 “海割れ”が明日だと言う事は『シーモール』を歩いて掴んでる。て言うか、町を上げて大々的に宣伝してんだよなぁ。この酒場も、海割れ割引! とか看板を出してたし。


「それで、手を貸して欲しいってのは何だ?」

「さっきも言ったが、ウェーブの事だ」


 さっき絡んできた、好戦的な『海人』マッチョだな。


「ヤツは毎回の様に手下を引き連れて“海割れ”に挑む。他の参加者を手下に足止めさせて自分は悠々と海底迷宮を探索してる」

「ルール違反じゃ無いなら全然アリな戦略だけどな」

「そんな中、ウェーブは前回の“海割れ”で『シーアーサーブレード』を肉薄したらしい。次は必ず手に入れる事が出来ると確信してるらしいんだ」

「それで、あんたも人海戦術を取ろうってワケか?」

「ああ。君の言う通りだよ。そして、君達はウェーブに眼をつけられた。きっと優先して襲ってくるだろう」


 まぁ、殺しに来るだろうな。返り討ちにしてやるつもりだが。


「つまり、オレらに囮をやれと?」

「都合の良い事を言ってるのは解ってる。けど……ウェーブにだけは『シーアーサーブレード』を渡すワケには行かない! 勿論、俺も欲しいってのもあるが」


 自分の都合も包み隠さず話すハワイの言葉は逆に信頼できる。それにオレも『シーアーサーブレード』の正体は何となく掴んだ気がする。


「ああ、良いぜ。協力しよう」

「! 本当か!? いくらでも払う! 言い値を言ってくれ!」

「金じゃなくて『シーアーサーブレード』に一回だけ触らせてくれるだけでいい」

「本当にそれだけで良いのか?」

「ああ。リース、それで問題ないか?」

『私達は魔力を得られれば問題ありません』


 まぁ、オレの推測が間違ってなければ『シーアーサーブレード』の前の持ち主は……ニーノだろう。

 オレの予想が当たって居ればだが。

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