第149話 シーアーサーブレード

 『シーアーサーブレード』。

 それは10年に一回、この近海で起こる“海割れ”によって発生する『海底迷宮』の深奥に安置されている伝説の剣である。

 海に住む物ならば誰もが一度は耳にする。そして、ソレを追い求め、その手に掲げる事を多くの男達が望んだ。

 そんな『シーアーサーブレード』を追い求める者達を人は敬意を込めてこう呼ぶ。


 【ブレード・ダイバー】と――






「意味わかんね」

『ええ!?』

「おっさん、これめー」


 “珠”の解放に必要なアーティファクトの一つ――『剣』に関して近々進展があると説明されたオレとカイルは、リースに案内されて海岸沿いにある港町『シーモール』へ足を運んだ。


 そこである程度の情報収集を終えて今は酒場にいる。

 オレとカイルが、ザザァン……と波に起こされた場所は大陸の端っこだったらしく、ここは島では無かった様だ。

 『シーモール』では亜人も多く往来し、中でも水中でも生活できる『海人マーマン』の姿が多い。近くに猟場があるらしく、提供される料理の全てが海の幸だ。


 現在はカイルの腹が、ぐおおおお! と化物の咆哮の如く鳴り始めたので適当な酒場に入り、食事をとりながら『シーアーサーブレード』に関してリースから説明を受けている所である。

 ちなみにカイルは深海獣のステーキをばくばくと頬張って、リースはどっからか出したストローでコップの水をちゅーちゅーやっている。お前口どこだよ。


「なんだよ、その【ブレード・ダイバー】って」

『この界隈では『シーアーサーブレード』に挑む者に敬意を称えてそう呼んでいます』

「敬意なんて要らないだろ……」


 剣一本追い求めるだけで敬意が発生するとか……どんな界隈だ。


「けどさ(もぐもぐ)。その、“さーぶれーど”が必要なら俺たちも挑戦しないと(もぐもぐ)」

「お前は食べ終わってから会話に参加しなさい」


 オレがそう言うとカイルは食事を再開する。


「その『シーアーサーブレード』ってのは、海底の迷宮にあるんだよな?」

『その様に伝えられています』

「じゃ、別に“海割れ”を待つ必要もねぇ。オレがひと潜りして取ってくる」

『それではダメなのです』


 オレの言葉をリースは水をちゅーちゅーしながら否定する。


『各々のアーティファクトから魔力を得るには、正式な手順で所持者と認められねばなりません。ですから……私達も【ブレード・ダイバー】として“海割れ”に参加しなくては』

「マジかよ……」

「よぉ、兄ちゃん。“海割れ”に挑戦するって? そりゃあ、聞き捨てならねぇな」


 オレらの会話を聞いていたらしき『海人』が絡んできた。かなりガタイは良く筋肉が姿を成しているかのように鍛えている。て言うか『海人』は全員マッチョだ。


「明日は10年に一度の“海割れ”だ。今、この港町には世界各地から多くの【ブレード・ダイバー】が集結している。だってのによ」


 『海人』の男はオレとカイルをチラッと見る。カイルは、もぐもぐ、リースはちゅーちゅー、オレは適当な視線で返すと、


「細っせぇぇ! 細すぎるぜお前ら! そんな細い身体で『シーアーサーブレード』に触れようってのか? 【ブレード・ダイバー】を舐めてんのか?」

「いや、別に侮っては無いけど……」


 意味わかんないだけなんだよなぁ。けど――


「こう言うのは解りやすくて結構好きだぜ」

「あぁん?」


 オレは席から立ち上がる。それでも『海人』の大柄な体格はオレを見下ろしていた。周囲から、


「ウェーブのヤツ、また新参いびってるのか」

「まぁ、ヤツのおかげで雑魚が参加前にふるい落とされるしな」

「毎回一人は居るよなぁ。観光目的の女連れが気楽に参加するって形」

「あのガキ、良い身体してんな」

「『結晶蝶』をペットにするとか変人だろ」


 などと聞こえてくる。どうやらこの『海人』はウェーブって言うらしく、それなりに知られている存在のようだ。


「頭の位置が低い野郎だ。そのガキを連れてとっとと帰んな。これは俺様の優しさだぜ?」


 いいぞー、ウェーブ。

 【ブレード・ダイバー】を舐めんなよー。


 と、周りも乗っかり煽ってくる。外様のオレ達は完全にアウェー状態だが関係ない。

 オレは、スッと手の平をウェーブにかざす。それが力比べの合図だと察したウェーブは、


「バカが! へし折ってやるぜ!」


 勢いよく握り、力を入れた瞬間、ウェーブは逆にどっ、と片膝をついた。

 身体強化+【オールデットワン】の馬力(片腕だけ発動)にて易々とウェーブの筋力を抑え込む。


「おやおや。頭の位置が低いなぁ」

「テメェ……」


 ぐぐぐ……とウェーブは立ち上がってくる。見た目の筋力は飾りじゃねぇか。


「死ねや!」


 残った手に拳を握り、ウェーブは殴ってきた。よし、正当防衛成立っと――


「テメェーら! ワシの店で暴れたら半年は出禁だぞ!」


 オレが軽く交わして反撃しようとしたら酒場全体に響く怒声にウェーブの拳が止まる。

 筋骨隆々なマッチョ『海人』の店主が、ピチピチのエプロンを装備し、カウンターから叫んでいた。


「チッ……」

「はは」


 手を離して背を向けるウェーブは不服そうに舌打ちする。そして、


「おい、小粒野郎」

「あ?」

「テメーも“海割れ”に参加するんだろ?」

「まぁな」

「そこで殺す」


 後ろ目で睨んでくるウェーブにオレは肩を竦めて呆れると、ヤツは不機嫌に酒場を出て行った。


『ローハンさん。大丈夫ですか?』

「まぁ、問題ねぇよ。ああ言うヤツはどこにでも一人や二人は居るモンさ」


 オレは席に座る。周囲の男共の向けてくる視線が少し変わったな。

 初見での情報収集で現地に絡まれる事は良くある。サクッと実力を見せれば黙るので絡んで来てくれた方がやり易い。


「おっさん(もぐもぐ)」

「どうした? 水か?」

「さっきのヤツ、強ぇーな」


 カイルも気づいていた様だ。

 ウェーブは単なる筋力だけで【オールデットワン】を押し返した。魔法や身体強化無しでアレなら、本来の実力も相当だな。


『彼ら『海人』はいわば“狩人”。彼らは海中で狩りをすることで生計を立てており、腕の立つ者は単身で『海蛇リヴァイアサン』を仕留めるそうです』

「それでもオレの敵じゃないさ」


 問題は明日、“海割れ”で侵入する海底迷宮がどれだけの難易度か、と言う事だ。

 オレが暴れてカイルとリースに『シーアーサーブレード』を取りに行ってもらう流れがベストだが……謎解き系だったらカイルには厳しいぞ。


「すまん、ちょっと話を良いか?」


 すると、顔に傷のあるムキマッチョの『海人』が話しかけてきた。


「俺の名前はハワイ。さっき、あんたらに絡んだ『海人』のウェーブとのやり取りを見て頼みたい事があるんだが……」


 ハワイはウェーブと同じくらいの体格とマッチョ率だがヤツよりは話しやすさが感じられる。


「なんで、オレ達なんだ?」

「それも説明したい。話しだけでも聞いてくれるか? もし、受けてくれるなら報酬も払う」

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