第148話 リースクエスト 三つのアーティファクト
「頼み事ねぇ……」
オレは目の前の『結晶蝶』リースの言葉に対して距離を置くように返答する。
中々に不思議な状況だが……事は慎重に運ばねばならない。
実の所、こちらの事情を察してそうなリースには止めどなく質問したい。しかし、情報を欲しがっていると察されると何かとつり合わない要求をされる懸念もあるのだ。
交渉ではこちらが不利でもソレを悟られない様に相手から情報を引き出すのが鉄則である。
「事情を知ってるのか? 助かったぁ~。聞いてくれよ! 俺とおっさんは何故か『遺跡』内部にいて困ってんだ。何か知ってるなら教えてくれ!」
カイルくんが居ると中々にぶち壊してくれるのだが……そう言う愛弟子なので仕方ない。プランBで行くか。
「オレ達は意図せず迷い込んだんでね。頼み事を聞く前に最低限の情報が欲しい」
とにかく、ある程度の状況さえ知る事が出来れば何とかなる。
『この世界は貴方達の言う所では『遺跡』内部なのでしょうね』
「? その口ぶりだと確証は無いのか?」
『すみません。私も記憶が曖昧でして。気がついたらここに』
ってことは……リースもオレとカイルと同じ様に強制転移させられた感じか。それなら――
「元は人間か? あんた」
「ええ!? リースってそうなのか?」
「いや……普通に考えてそうだろ」
『結晶蝶』が喋るなんて、マスターが眼を輝かせて記録する現象だぜ。
『元は人間ですが……どちらかと言うと『結晶蝶』の時期の方が長いですよ』
「…………マジで?」
「すげー! おっさん、俺も『結晶蝶』になれる?」
カイルが『結晶蝶』になると四六時中、五月蝿そうだな。
リースは元人間で、今は『結晶蝶』……か。随分と複雑な事情を抱えてるみたいだねぇ。
「まぁ……色々と質疑応答する前に自己紹介するか」
取りあえずリースとは関わりを持つ事に決めた。
「オレはローハンだ」
「カイルな!」
『よろしくお願いします、ローハンさん。カイルさん』
「あ、俺はカイルで良いよ! なんか……さん付けされるとむず痒くてさ……」
『ふふ。わかりました、カイル』
「おう!」
取りあえず、純粋な反応はカイルに任せてオレは情報を引き出しにかかりますかね。
『そうですか……外では“珠”が願いを……』
「ああ」
リースは“願いを叶える珠”の事を知っていた。なんでも、ソレを代々見守ってきた一族だったらしく、余計な説明は無しで会話が進む。
「“珠”が効果を失った様子はオレ達も直接確認してる。だから、目の前のアレはおかしい」
オレは『石碑』に埋め込まれた“願いを叶える三つの珠”を見る。淡く光り、願いを待っている様に見えなくもない。
『私の知る限りでは、この“珠”はずっとここに在り、光り続けています』
っことは……“珠”は最初から複数あったのか? うーむ……流石に情報が少なすぎて結論が出ない。
「でも願っても叶えてくれなかったぞ?(ごくごく)」
カイルはヤシの実(二個目)に口をつけらながら問う。
『先程も言いましたが、“珠”の実態は別の次元に存在しているのです。故に、これらを解放するには、特定のアーティファクトの魔力を注ぐしかありません』
「なんか……面倒な事になってきたな」
『すみません。『石碑』に刻まれた文字を読む限り、それ以上の事は……』
「気にするなって! 俺たちが集めて来るからさ! 余裕だぜ! な、おっさん!」
「お前はノータイムでやるって言わないの」
少し腑に落ちない所もあるが、結局は“願いを叶える珠”を頼った方が早いと言う結論に行きつくだろう。
しかし、前提としてリースの言葉が全て事実だった場合に限る。カイルがオラオラな分、オレが自粛せねば。
「その前にリース、お前の“頼み事”とやらを教えてくれ。それからでも判断は遅くないだろ?」
「そうだな!」
カイルは喋る『結晶蝶』ことリースの事情には興味津々だ。
『『遺跡』の外に会いたい人が居るのです。だから、ローハンさん、カイル。貴方達が『遺跡』を出る時に私も連れて行って欲しいの』
「なんだ、そんな事か。良いぜ!」
『本当ですか!?』
「おう!」
やっべ。カイルのノータイム返答に反応できなかった。しかし、この流れは悪くないな。リースがこっちに依存する関係になるのなら情報も引き出し易い。
「そうだな。そんじゃ、この“願いを叶える珠”を使ってさっさと三人で『遺跡』からおさらばするか」
『ローハンさん……ありがとうございます!』
羽をはばたかせて最大限のお礼を示すリース。何か面白いな。
『では、この“珠”を解放するアーティファクトに関して説明致します』
「おう!」
『解放に必要な魔力を宿すアーティファクトは……『剣』『杖』『王冠』の三つです』
その後、オレとカイルは水着姿でゴリゴリマッチョ野郎どもと海底でド突き合いをするなんてこの時は夢にも思わなかった。
「俺の物!!!!!」
「クソッタレ!!」
「うぉ!?」
『キャッ!?』
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