第147話 みんなの力を貸して欲しい
「マリア様! 本日も良い日和ですね!」
「ええ。とても良い天気です」
「マリア様! お菓子を作ってみたんです! 食べてください!」
「ありがとうございます。後でキング様と頂きます」
「マリア様――マリア様――」
と、本日のミサが終わってから信徒達によるマリアの人気は急上昇していた。
「【聖女】はスゲー人気だな。キング、お前を越えてるんじゃね?」
大聖堂の二階の窓辺に座るスサノオは、信徒に囲まれても嫌な顔一つしないマリアを見下ろしていた。
「マリアは『エンジェル教団』を創設した際の“六人”の中で唯一続く家系です。それ故に古くから支持する信徒も多く、彼女も慈愛の気が強い」
「あの巨乳も代々なのか?」
「私は彼女の祖父母までとの関わりですが、言われて見ればそうかもしれないですね」
「ウケが良いのかねぇ。俺にはさっぱりだ」
スサノオにとって女体に対する価値は皆無。彼自身の本質が“風”と“雷”であるからこその反応であった。
「アマテラスの様子はどうですか?」
キングの問いにスサノオは、ん、と窓の外を指差すとカグラと共に居るアマテラスがマリアに挨拶していた。
互いに丁寧な物腰で話し合う場は神々しさが上がる。側に居るカグラがモブに見える程に。
信徒達は巨乳×巨乳故に更に沸き立っていた。(女信徒は沸き立つ男どもに怪訝な顔をしていた)
「やっと引きこもりを脱却だ。我が君も今回は良い経験になっただろう。キング、俺たちはそろそろ『エンジェル教団』を去ろうと思ってる」
「そんな気はしていました」
キングはお世辞では無く、心底残念そうに呟く。
「実に残念です。アマテラスは信者達の言葉をとても良く聞いてくれると好評でしたから」
「我が君はああ見えて貪欲なんだよ。単に知らない『物語』を聞いてただけだ。身体を二つに分けてまで『
十年ほど前に『エンジェル教団』の本部にやって来たアマテラス一行は教団内でも、一信徒として扱うにはあまりにも強大過ぎた。
放置しておけば『アマテラス教』が生まれんばかりの輝き。来る者拒まずの『エンジェル教団』は頭を悩ませたが、キングが自身の下に就けると言い、今日まで彼らと共にあったのである。
「貴方達は組織には向かない。いや……『始まりの火』を中心にした“組織”である以上、我々に帰順させるのは不可能だと思っていました」
「なんか悪いな。利用したみたいでよ」
「お気になさらず。我々としては求められれば導く相手は『創世の神秘』であろうとも拒む事はありません」
アマテラス一行との関わりをキングは良い思い出として心に残す。
アマテラスが『始まりの火』当人である事を知るのは『エンジェル教団』でも一部の者のみだった。
「とは言え、我が君は一期一会を大事にする御方だ。今後ともこの関わりは大事にしていきたい」
「勿論です。『エンジェル教団』にアマテラスの席は残しましょう。ゼウス先生もそうしておられますし」
「そうなのか?」
「はい。ゼウス先生はご意見番のような立ち位置です。『エンジェル教団』はかつて乱れた時代がありまして。その時、だいぶお世話になりました」
「【千年公】もお節介が過ぎるな」
ゼウスに続き、アマテラスとも関わりを持てた事は『エンジェル教団』にとってもプラスだった。
「ん? キング、今日は『ギリス』と何かあるのか?」
「いえ、その様な会談は本日の予定にはありませんが」
「来てるぞ、【解放】ジャンヌが」
スサノオは大聖堂へ歩いてくるゼウスとジャンヌを視界に移すとキングも横に並んでソレを確認する。
更にセルギとソイフォンも共に帰って来ていた。
「キング~」
そう言って手を振るゼウスにキングも手を振り返し、マリアは会釈。アマテラスは視線を向け、スサノオは一度風になるとゼウスの目の前に姿を成す。
「『ギリス』陣営のお偉いさんが、堂々とここに来るのは軽率過ぎやしないか?」
「“珠”、もう、無い」
スサノオとカグラが前に出て対応する。するとゼウスが応えた。
「
ゼウスは、双方の陣営のトップに対して近い内に起こる可能性のある事態を伝える為にやって来たのだった。
「…………かつて“珠”に“世界を滅ぼせ”と願われ、それが今も尚続いている、と?」
「ええ」
大聖堂にて、主要人物達はゼウスは過去に『創世の神秘』が全員が集まってその“願いを封じた”旨を語った。
「かつて『創世の神秘』が集った戦いは
「では……『エンジェル教団』に“珠”の一つを持って現れたと言う女は――」
「恐らく、その“願い”の残根ね。便宜上、ここでは“彼女”としましょうか」
今期の遺跡都市で起こった“珠”の争奪戦。その一端を担った謎の女に関して、ようやく迫れそうだ。
「女の意図がわからん。“珠”に願いを叶えさせて、ソイツに何の得がある?」
ジャンヌが不可解な女の行動に疑問を抱いた。
「上澄みに積もった『遺跡』のエネルギーを消費させる為よ」
「益々意味がわからん」
他には全く持って意味の無い行動に見えるが、ゼウスから見れば納得の動きだった。
「“珠”は長い時を得て、願いを叶える状況にあったの。故に本来発動している“願い”の上にソレが乗っかってる形だった。“彼女”は今すぐにでも世界を滅ぼしたい。けど、誰かが“珠”に願いを告げるまで蓋をされてた状態ね」
「理解が越えてるな」
この場でもソレを把握し説明できるのはゼウスだけだとスサノオは驚く。
「
新たな知識としてゼウスは納得し記録する。
「……その“滅びの願い”はどうする?」
ヤマトはゼウスがその事を全員に話した意図の本質を尋ねた。
「かつて“彼女”は『創世の神秘』に封じられた。だから、前と同じ様にしてはダメだと気がついたのね」
「……本来よりも力を失った状態では『創世の神秘』には勝てない、と言ったところですか」
アマテラスは己の記憶にある先代『始まりの火』と“世界を滅ぼす願い”との
「世界には世界のルールがある。別の世界の存在がこの世界に干渉しようとしても水中に居るようなモノ。呼吸も動き十全じゃない。だから、被害はこの地方だけで済んだの」
「では、彼女の目的は……」
マリアの神妙な口調にゼウスは応える。
「この世界で自由に動ける身体。『受肉』と言ったら良いかしら? そして今度は『創世の神秘』でさえ止められない程エネルギーを持って世界に現れる。ソレを『遺跡』内で整えてから出てこようとしているのよ」
それはどれ程の力を持つのか、現状ではゼウスも計り知れなかった。
現時点でも、『遺跡』内部へ特定の存在を強制的に転移させる程に力を得ている。
『
ソレを司っているのが“彼女”で、きっと
「『遺跡』とこちらの接続を完全に断たなければいけないわ」
「! ちょっと待ってス!」
ゼウスの発言に間を置かずにセルギが口を挟む。
「ゼウス様の家族が『遺跡』に連れ込まれたんっスよね!? もし『遺跡』から出入り出来なくなったら――」
『星の探索者』のクランメンバーの失踪。それはソイフォンとセルギ以外には場の全員が知らなかった事だった。
ゼウスにとってクランメンバーは息子、娘の様に大切にしている事を場の全員が理解している。
「
しかし、ゼウスは世界も家族も見捨てる事を決して考えていなかった。その場の全員に向けてゼウスはペコリと頭を下げる。すると、間髪いれずに――
「勿論です、ゼウス先生。『エンジェル教団』は全組織力を上げてあなた様に協力いたします」
キングの言葉に他の面子も異論は無かった。無論、
「ゼウス、これで前の貸しは無しにします。ふふふ」
アマテラスも“世界を滅ぼす願い”との『物語』を己の手で得られる事を楽しみに笑う。
「……」
「我が君がそう言うならやるか」
「姫、様、楽し、そう」
三人の眷属もアマテラスの意思には同意する。
「【千年公】。私も微力ながら協力する」
「ジャンヌ。命の保証は出来ない戦いになるわ。貴女は本当に良いの? 故郷に帰れるのでしょう?」
ジャンヌの部隊が帰還部隊となっている事は既に聞いていた。故にもう死地に居る必要はないのだ。
「無論、我々の陣営で先程の説明をしてもらい、還りたい兵は先に還す。コレは私個人の判断だ。私は困っている友人を見捨てるような器用な生き方は出来ないのでね」
「そう。今後も苦労するわよ」
「それはお互い様だろう?」
フッ、と笑うジャンヌにゼウスもコロンと微笑む。
「具体的にどう動くかは、後でまた説明するわ。今は各々で備えててちょうだい」
今回の件で『創生の土』『呼び水』『星の金属』は動かないだろう。それだけ、今の世界は困難を超えて行くことが出来る者達が存在している。
「みんな、もう少しだけ待っててね」
きっとクランメンバーは各々で脱出を目指しているハズだ。
ゼウスは『遺跡』に背を向けるとジャンヌと共に『ギリス』陣営に向かった。
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