第212話 太陽の宮殿
「ローハン・ハインラッドだ」
「俺はシルバーム。丁寧にどうも」
「【極光壁】ゼフィラだ」
オレは初めて見る顔のシルバームと、ゼフィラに対しては改めて挨拶をする。
ゼフィラは恐らく本人だろう。存在感が並ではないし、シヴァと同じくらいの“格”を感じる。
シルバームって奴は雰囲気はそれ程ではないにしろ、腹の中を隠すのが上手い感じだな。経験上、こう言う奴の方が手強い。
『太陽の戦士』の層は『三陽士』しか期待していなかったが……それ以外でもシルバームみたいな奴が居るのは追い風だな。一歩引いて視野を広く持つ奴は、咄嗟の違和感にも気付きやすいのだ。
「アンタは格闘家か? 武器を持ってないみたいだが」
「こっちの誠意だ。一族のトップに会うなら武器はご法度だろ?」
さりげないシルバームの探りに対してテンプレの返答で誤魔化す。
『太陽の民』は魔力の概念が薄く、発生魔法への意識が低い。その為、彼らには魔法そのものが搦め手となり得る。
「巫女様はそう言うのは気にしないけどな」
「そうなのか?」
「ああ。それよりもアンタ、レイモンド君と知り合いだろ? クロエちゃんとは同僚かい?」
「まぁな」
「苦労するだろ~? イイ女が近くに居るとさ」
「無駄話はそこまでにしろ」
ゼフィラはそう告げて宮殿に向かって歩き出す。
「ついてこい。巫女様がお待ちだ」
ゼフィラに案内されて宮殿内部に入ったオレは素直に驚いた。
ステンドグラスの天井が設けられた広い空間を十数人の『太陽の民』が行き来している。
彼らは植物や鉱石を運んだり、天井の開いている箇所から、内部の宿り木に停まる魔鳥から伝書を受け取ったりする様子が確認出来た。
個人的な偏見だが『太陽の民』はもっと原始的な種族かと思っていた。何て言うか、先祖を大事にして、とにかく正面からぶっ飛ばす感じのカイルみたいな奴が多いイメージ。
しかし、外のトーテムポールに始まって、環境の調査や情報伝達の最適化など、組織としては十分に先進的なモノを伺える。
「思った以上に組織化されてるんだな」
「どのようなイメージを私達に抱いているのかはどうでもいい。貴様がやるべき事は情報の開示だ」
「そりゃ、ここまで御膳立てされて違えるつもりは無いさ」
ゼフィラの性格は大体解ってきた。一つの譲れないモノを“芯”として、絶対的なルールを己に敷くタイプだな。
良く言えば『堅実』。悪く言うなら『融通が効かない』。
この手のタイプは身内の意見でも中々考えを変えない。一定の能力は約束されているが、咄嗟の対応には一手遅れるだろう。
クロエが襲撃した時に、搦め手で突破された様が想像できるな。
「相変わらず窮屈そうな場所だこと。息が詰まるぜ」
「皆、生活をより良くする為に働いている。能天気なお前とは一緒にするな」
対してシルバームは掴み所が無い感じだな。行動に予測が立ちづらい奴ほど何をするのか解らない。オレとしてこっちの方が厄介だ。
「プリヤ、チトラ。お前達はここまでで良い。持ち帰った情報をヴェーダに伝えろ」
「はーい」
「了解」
じゃあねー、とここまで同行した二人は去って行った。
そのまま、オレはシルバームと並んで歩きながらゼフィラの後に続き、宮殿の中心にある中庭へ出ると、外からも見えていた“虹光の柱”の前に立つ一人の女の後ろ姿を前に止まる。
「ソニラ様」
ゼフィラが声をかけつつ胸に手を当てると片膝をつく。シルバームも同様の姿勢を取った。
「お連れしました」
その言葉に振り向いた女――老婆は威厳や厳格な雰囲気はまるで持たず、優しげな眼でオレと眼を合わせる。
「『太陽の巫女』ソニラです」
「ローハン・ハインラッドだ」
敬語は使わない。これから行う事は“対等な立場”で話さなければならないからだ。
それはとても古い物語。
まだ“彼ら”が荒れ地を彷徨い、己の『短命』と言う運命を受け入れ、細々と滅び行く事が当たり前だとしていた時代――
「大丈夫ですか?」
一人の女性が『夜』に怯える“彼ら”を見つけた。彼女は一人、また一人と“彼ら”を迎え入れ、『夜』を越える知恵を授けた。
だが、それでは根本的な解決にはならなかった。“彼ら”の『短命』の秘密は種族としての特性から、起こっているモノだったのだ。
太陽を――
彼女は“彼ら”の為に『夜』の一部を“杖”に変えた。
「いつの日か、この『悪夢』を克服し、貴方達が『夜』と共に生きるられますように」
その日まで“彼ら”にはこう名乗る様に告げた。
『太陽の民』と――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます