第211話 ヒャッホォォ!!
「勘弁して欲しいぜ。俺は病み上がりだってのによー」
『太陽の巫女』が住まう宮殿は、里の中央に絶えず残る1本の“虹光の柱”を中心に囲う様に建てられていた。
その為、大河の流れを分ける様に存在し、両岸とは繋がっておらず船による接岸か、空から入るしかない。
シルバームは『グリフォン』を使い、空から宮殿へ着地した。
「『グリフォン』か。雛でも買って一匹育ててみるかね」
里に戻り数週間。ようやく50年前の身体能力を取り戻してきた。やはり、日光下でのスローライフは最高だと再認識する。
「まだ、レイモンド君は来てないか。よし、ちょっと日光浴でもするか♪」
『太陽の里』には至るところにビーチベッドが配置されている。宮殿の外側にも例外なく存在し、誰でも使用可能だった。
「お前が日光浴をするベッドは宮殿にはない」
「……そうだった。ここはお前の職場だったわ」
コツ、と足音を立ててシルバームを睨むように宮殿奥から現れたのはゼフィラだった。
「今は戦争中だ。お前も戦士としての“格”が求められる。外様のレイモンドが意欲的に動いていると言うに……お前は模範となる存在だろうが。だらけた生活をするようなら最前線で忙しなく働くか?」
低く、凄みのある声色は口にする言葉を現実にする程の地位をゼフィラは持つ。
【極光壁】は『太陽の巫女』と『太陽の民』の守護者。『戦士長』の次席としての発言力を持ち、ゼフィラ当人も人格者として多くの者達に慕われていた。
「レイモンド君は大活躍だねぇ。連れてきた俺はかなりの功労者じゃね?」
「お前が連れられた形だがな。50年も姿を眩ましておいて我々の信頼を簡単には取り返せると思うな」
シルバームは、シヴァ、アシュカ、ゼフィラとは同期だった。四人の中では戦士としての才覚は他三人の足下にも及ばないものの、代々『極光術』を伝える一族としての役割として『太陽の民』でも一定の地位がある。
「仕方なかったんだよ。『恩寵』を持たない俺じゃ、ベクトランのヤツを倒すには奇襲しか無かったんだ」
「それで50年も薄暗い独房で奴隷生活か。他を頼れ。少しは頭を働かせろ」
「働かせたぜ。間違いなく被害が出る。ベクトランの野郎はそれだけ格が違った。下手すりゃシヴァも殺られてたかもな。やっぱり俺はこの戦争の功労者じゃね?」
「…………クロエ・ヴォンガルフが瀕死まで追い込んだ所にトドメを刺しただけだろうが」
「倒したモン勝ちだろ? けどな……どんな形であれ、ヤツへのトドメだけは絶対に俺がしないといけなかった。
「…………」
ゼフィラの沈黙は己の責務をまっとうした故の葛藤である。
「ふん。外の女と何度も浮気を繰り返したヤツから出る発言とは思えんな」
「うっ……俺も反省したんだって……お前の所に戻って来ただろ?」
「論点のすり替えに乗ってやる。私を孕ませてマズイと思って戻ってきたんだろうが」
「……
「もう居ないがな」
「…………」
大河を並んで見る二人の間には気まずい沈黙が流れる。すると、少し冷静になったゼフィラは、はぁ……と溜め息を吐いた。
「だが……シャイアの仇に命をかけた事は評価してやる」
代々、【極光壁】の『恩寵』を継ぐ家系のゼフィラは『太陽の里』から離れられない。
故に娘の仇をシルバームがとった事だけは使命を選択した自分には出来ない事だと告げた。
「ゼフィラ……頼みがあるんだが――」
「断る。お前とは二度と夫婦になる気は――」
「ヒャッホォォ!!」
その時、サングラスをかけたプリヤが大河に生息する『ビートフィッシュ』に乗って現れた。目の前でアクロバットを決めつつ、水飛沫をシルバームとゼフィラに浴びせる。
「あ! ゼフィラ様、すみません! いやー、『ビートフィッシュ』の誘惑に抗えなくて!」
「いや、気にしてない。さっさと宮殿に上がれ」
ハンカチを取り出してゼフィラは濡れた顔を拭う。イヤッハァ! とプリヤは自由自在に水上を楽しんでいる所、
「――来たな」
近づいてくる小舟に気がつき、チトラとローハンが乗っている様を確認。レイモンドともう一人の少女の姿がない。警戒心が強まる。
「残りはどうした?」
「話すならオレだけで十分だ。敵意を消してくれよ。争う為に来たんじゃない」
ローハンは丸腰。だが、油断できない相手である事はゼフィラが最も知っている。
「巫女様が待っている。くれぐれも『太陽の民』を敵に回さぬ様にな」
ゼフィラ警告するようにそう言いつつ、ローハンの挙動全てにアンテナを張った。
「ところで、ゼフィラ」
「なんだ?」
「さっき俺はお前のビーチベッドを貸してくれって言おうとしたんだが……“断る”の後に何て言った?」
「…………何も言ってない」
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