第210話 プリヤのお節介

 『太陽の里』。

 それは『太陽の大地』の中心地に作られた巨大な穴の中に存在する『太陽の民』の故郷である。


 絶えず降り注ぐ晴天の陽射しの中で、更に数本の濃い光の柱が穴下へ伸びていた。

 それらを受け止める土壌は、日影の生まれる穴の中でもふんだんに陽気を蓄える事が出来、穴下で生活する『太陽の民』を大きく支えている。

 滝の排水路となる大河が里の中心を通り、生活水や漁、遊泳などの簡単な娯楽としても機能する里の生命線でもあった。


 『太陽の民』は高い身体能力を持つ代わりに“陽気”を必要とする種族。その上でヒトとしての消費を当然の様に行う事もあり、大半の『太陽の民』は里で生涯を費やすのが当たり前とされていた。


「おい。止まれ」


 ローハンの操る馬車は壁面に設けられた傾斜(柵無し)を回る様に進んで里の底までやって来た。

 すると、里に入る前に進行を塞ぐように、止まれ止まれ、と手を振りながら進行方向を塞ぐ男女の『太陽の戦士』が現れる。


「ここから先は『太陽の里』だ。部外者は入れない。入るには誰かの紹介か、査定を通してもらう」

「崖上に宿町があるので、調べる間はそっちに滞在してくれますか?」

「え? 入れないのかよ」

『審査が必要なんですか?』


 下に降りきるまで、里の様子をワクワクしながら眺めていたカイルとリースは、入里拒否されて、少し残念そうに告げる。


「規則でな。文句があるなら武力行使も構わないぞ。里全ての『太陽の戦士』を相手に出来るのならな」


 物腰丁寧な二人だが、戦化粧をし、腰には『戦面クシャトリア』を引っかけている。即座に戦闘になることも辞さない様子だ。

 やれやれ、とローハンが話そうとした時――


「およ? 今日はアーシカとミタリの幼馴染みペアじゃん」


 プリヤがローハンの脇――荷台から顔を出した。チトラも、やぁ、と荷台の側面から顔を出す。


「プリヤ!?」

「チトラも……と言うことは、ディーヤを連れて帰ったのね」


 アーシカとミタリは、シヴァが編成した、ディーヤ奪還メンバーが帰還した事を認識する。


「チビッ子はアヴァニ爺ちゃんのトコにクシを連れて行ったよ」

「! そうか……」

「間に合わなかったのね……」


 ディーヤに取って最悪の形になった事に二人は少しだけクシに対して祈った。


「他にも連れ去られた子供達が居たハズだ。その子達はどうした?」

「残念だけど、『ナイトパレス』ではそこまで気にかける余裕は無かったよ。アタシらも退却で一杯一杯でさ」


 せめて、ディーヤを連れ戻せただけでも良い結果だろう。


「これから巫女様に報告に行くトコ。通してくれる?」

「ええ。行って良いわよ」

「あんがと」


 ミタリが動くとアーシカも馬車の道を開ける。後に巫女より『太陽の戦士』には今回の遠征がどの様な形に終結したのか報せが届くだろう。


「そう言えば、戦士長は――」

「そうそう前から疑問だったんだけどさ。あんたらマジで結婚しないん?」

「ぶっ! な、何でそう言う話になる!?」

「プリヤ……いつも言うけど、貴女は勘違いしてるわ。私とアーシカはそんな関係じゃないの」

「お、おお……そ、そうだぞ! 全く……からかうなって!」

「ふーん。じゃあさ、アーシカ。後でアタシとヤろうよ。遠征で溜まっててさ。相手ヨロ」

「え? そ、それって本気で――痛てて!? ミタリ!? 急に何で頬を引っ張る!?」

「私たちは門番の責務をゼフィラ様から言い渡されて居るでしょう? それに集中」

「お、おう……そ、そうだな……」

「それと……後で交代になったら、ご飯に付き合って」

「あ、ああ」

「じゃあ、しょうがないなー。アーシカ、ヤるのは今度ねー」

「お、お――痛て!? ミタリ! 足を踏むなって! それとさっきから何故、痛みを与える!?」

「……別に」


 そんな事を話している間に、馬車はトコトコと門を抜けた。


「アイツら仲良いのか悪いのかわかんねぇ奴らだなぁ」

『仲は良い方だと思うよ』

「プリヤのお節介」

「全く……さっさとヤれっつの」


 ローハンの話を聞いたプリヤは今後の“戦い”を考えて、友達二人の関係を背中押したのだった。


「クックック。プリヤ、お前は中々やるな」


 しかし、ローハンはプリヤの行動はシヴァの事を伏せた意図も感じ解く。


「まぁね。変に噂になるよりは、巫女様からの報せがあった方が混乱も少ないだろうし」

「お前みたいなヤツが中間にいると余計な足止め無くスムーズに進む。助かるぜ」

「あ! なんだアレ! 光を投げ合ってるぞ!」

『川の中から光が浮かんでるのを掴んでますね。何かの競技でしょうか?』

「ウチの連れは完全に観光気分でな。」

「適材適所っしょ。アタシは基本的に肉体労働は向いてないし。里の仕事は偵察が一番楽だからねー」


 馬車は里の中へ。そして、プリヤの案内で里の中心にて、最も濃い光の柱が降り注ぐ――『太陽の巫女』の宮殿へ向かう。

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