第213話 『古夜の盟約』
「単刀直入に言う。【夜王】ブラッド・ナイトは“不死”だ」
中庭から宮殿の端にある川沿いのテラスへ移動したオレは、ソニラ婆さんへ確信となる情報から開示した。
「不死……にわかには信じられないわ」
日影を作るパラソルの席に座るのはオレと婆さんの二人。ゼフィラとシルバームは婆さんを護る様に後ろに立って聞いていた。
「こっちとしてはそう言う反応はありがたいぜ」
「? どういう意図かしら?」
「荒唐無稽な話をそっちが真面目に捉えてくれてるって事さ」
不死と聞いて大半の奴は、そんなわけあるか、と一蹴するだろう。だが目の前の巫女様はオレの情報を真摯に受け止めてくれる。変に遠回りせずに済みそうだ。
「シヴァから『太陽の民』と『ナイトパレス』の関係はある程度は聞いた。こっちの戦力が一方的に削られてるってこともな」
「……私達『太陽の民』の敵は『ナイトパレス』だけでは無いの。フォール大河へ侵入してくる魔物やビリジアル密林の『古代種』と戦うのが『太陽の戦士』の役目よ」
崖を下る際に『太陽の里』を俯瞰したが、彼らは十分に自給自足が出来ている。外を頼る必要はなく、『ナイトパレス』よりも自然界に現れる魔物との戦いがメインの様だ。
「それが、ここ数十年で『ナイトパレス』側にも問題が出てきたんだろ?」
「……ええ。夜が範囲を広めてる。それも、普通の“夜”じゃない」
オレからすれば昼と夜が延々と維持されている状況は異質なのだが……婆さんからすれば今の『ナイトパレス』の“夜”が異常であると感じ取っている様だ。
「その根拠は?」
「『
ソニラ婆さんは『古夜の盟約』に関して詳しく説明してくれた。
『太陽の民』が住む『太陽の大地』へ、他の土地から逃げ延びてきた者達がいた。
『太陽の民』はかつて自分達が助けられた事を思い出し、総出で彼らを保護。しかし、彼らに『太陽の大地』はあまりにも過酷な環境だった。
そこで、当時の『太陽の巫女』は夜を遮る『ナイトメアロッド』を二つに分け、封じた夜の一部を開放。その地域を彼らに与え、新たな故郷にするように告げた。
その地域は『ナイトパレス』として建国。年に一度、中立荒野において『太陽の民』との“祭り”を行う程に両者の関係は良好だった。
しかし……時が流れ、世代が変わっていくにつれて当時の感謝や思う気持ちが薄れ、『ナイトパレス』は己達の権利ばかりを主張する様になっていった。
「そして『昼夜戦争』が起こった」
『太陽の大地』全てを『ナイトパレス』のモノとしようとする動きが起こった。
当時から『ナイトパレス』側へは穏和な対応をしていた『太陽の民』を侮った故に起こった戦い。
5000の『ナイトパレス』側の戦力に対し、『太陽の民』が出した戦士は『三陽士』の三人だけだった。
結果は『三陽士』による一方的な戦い。
5000の戦力をたった三人で圧倒した『三陽士』を見て『ナイトパレス』は『太陽の民』への認識を恐怖へと改める。
対する『太陽の巫女』は、このままでは争いの連鎖が止まらない事を危惧。『三陽士』を率いて『ナイトパレス』の首都へ足を運び、当時の【夜王】と『古夜の盟約』を結んだ。
“1000年後『ナイトメア』は返してもらう”
ただ、それだけの文言であるが、その意味は『夜』が終わらせる事を意味していた。
1000年の猶予を開けたのは『太陽の巫女』が忘れていない、慈愛精神からの温情だったのだ。
「秘宝『ナイトメア』は夜を封じたり作り出したりできるわ。その力を使って一定の地域を夜にしたの」
人工的な夜と言う所か。
「だから、1000年間で『ナイトメア』を返し、新たな土地を見つけて出ていけ、と。でも反対意見は無かったのか?」
「私達は安住の無い辛さと、彼女に救われた想いを忘れずに語り継いできた。だから、私達がソレを生み出す側になってはならないの」
崇高な考え方だが……ソレを成す事が出来る文化と戦闘力が『太陽の民』には整っている。何もない所からここまで高水準に築いてきた様子は違和感しかないが……今はソレは置いておく。
「それで『古夜の盟約』は後どれくらい有効なんだ?」
「もう、とっくに過ぎているの。けど、先代【夜王】スピル・ロンドは穏和な方で私達とは“会話”で歩み寄ってくれた。彼は、新たな土地が見つかり『太陽の大地』を近年中に去る。それまで待って欲しい、と提案してきたわ」
「信じたワケか」
「ええ。彼の言う新天地を私も見に行ったわ。後は臣下を全員納得させるだけだって」
「けど、今の【夜王】はブラッドだ」
どんな理由があったのかは不明だが、全てにおいて円満に終わる……寸前で王位が交代したらしい。
いや――
「ブラッドにとっては新天地は魅力的じゃなかったのか」
『ナイトメア』を手に入れる為にもブラッドの事も掘り下げないとダメか。
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