第214話 不死の種類

「それが『ナイトパレス』と交わした『古夜の盟約』が始まった出来事よ」

「随分と昔の話まで当事者のように語ってくれるが、アンタは何年生きてるんだ?」

「『太陽の巫女』は歴代巫女の記憶を継ぐ。だから……なのでしょうね」


 傷だらけの者を追い出す事に当事者と変わらない抵抗がある……か。

 まぁ、事態の流れは大体解った。まだ不明確な事はあるが……結論としては、『太陽の民』もオレ達も【夜王】ブラッド・ナイトを討てば全てが解決する。

 問題があるとすれば――


「ローハン殿、次は貴方の会見をお願い。【夜王】の“不死”に関して」


 婆さんの言う通り、【夜王】の“不死”の件が相当なネックになってくる。


「そうだな。細かいカテゴリーに分けるなら、不死の中でも奴は『肩代わり型』だな」

「? ごめんなさいね。専門的な事には明るくないもので……不死には種類があるのかしら?」

「ああ。自身の魔力やエネルギーがあるかぎり不滅である『個人型』や自分と全く同じ人形を作って記憶だけを引き継ぐ『人形型』とかな」


 ちなみに【オールデットワン】は『個人型』に分類される不死だ。


「中でも『肩代わり型』の不死は特に厄介な部類でな。奴は自分が死んだら別の“ストック”に死を移す事で自身の死を覆す事が出来る」

「――そんな事が可能なの?」

「だから“不死”なんだ。殺し続ければ死ぬ。それは不死の攻略法の一種だが、当人の実力が桁外れならジリ貧だ」


 本来の実力にプラスして『不死』のおまけ付きだ。正面から戦うモンじゃない。


「……しかし、そう簡単に死を肩代わり出来るの?」

「手間はある。だが……奴はソレを悟られたくないだろう」

「何故?」

「『肩代わり型』の肩代わり対象は、自分の命が他人のモノになってるなんて気づかないからだ」


 『肩代わり型』の不死性はかなり強力な部類だが、問題は肩代わり先が容易に確保できない点にある。


「普通は嫌だぜ。自分の命がいつ消えるか解らない他人の為にあるなんてよ」

「……ブラッドは圧政を敷いているのではなくて? 民は強要されているのかも」

「いや、『ナイトパレス』の首都に行った時はそんな様子は無かった」


 市民は普段通り生活し、パーティー会場の貴族達もブラッドの演説を聞いて純粋に称えていた。


「恐らく、ブラッドは誰にも悟られずに不死の肩代わり対象を指定している可能性が高い。恐らくは首都に住むヒト全てだろう」

「何と言うこと……。つまり……ブラッドを討つには首都市民の数だけ倒さねばならぬと言う事?」

「いや、違う。あの『ナイトメア』が発生させる“夜”の下にいる奴ら全員の命だ」


 首都を脱出する時に王城より広がった“濃い夜”。アレに飲まれる事が対象として指定される条件だろう。

 思った以上に最悪の事態。『太陽の民』のみならず、夜が広がればそれだけブラッドは不滅の存在となり、“己”を人質に取られる。

 結果……誰もブラッドを殺す事が出来なくなる。


「正直な所オレもビビってる。まさか、“復習”がこんな形で生きる事になるなんてな」

「! ローハン殿。貴方は――」

「『肩代わり型』は既に経験済みだ。そんでもって、オレはソイツを倒してる」


 ソニラ婆さんの様子が変わった。


「やはり、殺し尽くしたの?」

「…………」


“余を斬るか!? ソレは汝の命を斬る事と同意だぞ! それでも……ガラットを振り下ろすか!?”

“うるせえ、いい加減死ね。クソ老害が”


「いいや。その時は少しインチキしただけだ。安心してくれ。別のアプローチで不死を攻略する確実な方法を見つけて“復習”してきた。無論、アンタらの協力が必須だがな」


 オレとクロエは『死の国』での経験を得て、マスター共同の下『肩代わり』に対する耐性を練り上げた。

 ソレはクランメンバー全員に知らず内に付与されているので、オレらを『肩代わり』の対象にすることは出来ない。


「巫女様、一つ彼に質問を宜しいですか?」


 するとゼフィラが声を上げた。ソニラ婆さんは、ええ、と発言を促す。


「『戦士長』シヴァはどうなった? 何故、彼と共に帰還して来なかった?」


 ここまでシヴァの話が一切出てこない様子をゼフィラは気にかけていたようだ。


「ソレを込みで【夜王】ブラッドを倒す為の具体的なプランがある。シヴァがここに居ないのは、アイツがソレに乗ったからだ。一通り聞いてから協力するかどうか決断してくれ」






「ローハン、それが【夜王】の不死のカラクリか?」

「ああ。恐らく範囲は夜だ。だが……まだ完全じゃない」

「そうか……なら、ワシが行って今ならまだ間に合うんじゃろう?」

「おいおい。改めて確認するが……出会って三十分も経ってない奴の話を『太陽の戦士』のトップが本当に鵜呑みにしても良いのか?」

「嘘か本当か。敵か味方か。そんなモン、正面に立てば解るわい。お主は嘘をついておらんし、今の事態を深刻な事と認識しとる。過去に大切な者でも巻き込まれたんか?」

「……そこまで関係の深い奴らじゃなかったけどな。その時……ソイツらはオレとクロエの為に命をかけて情報を伝えてくれた。その結果、オレ達は今でも生きてる」

「お主は律儀じゃのう。知っているなら自分等だけ逃げりゃええ」

「オレは、生かして貰った命は報いる為にあると思ってる。それがオレなりの死者への礼儀だ」

「……ローハン、今話してくれたお主の作戦、プランBとやらで皆を救えるのか?」

「土壇場でイレギュラーは発生するだろう。想定外の事態もな。だが、そう言うのを越えるのは得意でね」

「そうか。ならワシが負けた時、後を任せる」

「断る」

「そこは承諾する流れじゃないんか?」

「オレはどこまで行っても『太陽の民』の絆には割り込めない。だから、やるのはプランニングだけだ。断られたら適当にバックレるからな」

「『太陽の民』は全員がワシと同じ考えじゃからな。その事は気にする必要はなさそうじゃ」

「まったく……王城待機するなら、お前には勝利の他にもう一つの選択肢がある」

「聞こう」

「言っておくが……こっちの選択肢は最悪だからな。現時点では情報が無さすぎて最後まで繋がる可能性は限りなく低い。下手すりゃ永遠に――」

「心配しとらん。『太陽の戦士』を導くのはワシの役目じゃからのぅ。必ず“虹光”が【夜王】の前に立つ」


 『太陽の民』が窮地に陥った時、虹色の光が敵を討つ。

 それが『太陽の民』に伝わる伝説らしい。

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