第215話 ヤマトも立派になったモノだわ

“カイル、お前は服をなんとかしてこい。リース、レイモンド、付き添ってやってくれ。こっちはオレ一人の方が動きやすい”


「なんか仲間外れにされたみたいだ……」

『いつまでもローハンさんの上着を腰に巻いてるわけにも行かないわよ』

「君はもう少し、自分の見た目を整える所から始めた方がいいよ」


 ローハンに言われて『太陽の里』を移動するカイルはリースを肩に乗せてレイモンド先導の下、お勧めの服屋に向かっていた。


「別に動きやすければ問題ないだろ?」

「地域の文化みたいなモノもあるんだから、キチッとしないとローハンさんにも迷惑がかかるよ」


 カイルとリースは里の中を歩いているだけでそれなりに注目を集める。服装や肌の白さは、褐色を見慣れた『太陽の民』の中でもそれなりに目立つ存在だった。


「そう言うなら、レイモンドも頭巾外せよー。なんかコソコソしてる感じで辺りも気にしてさー」

「あ、ちょっと! 僕の場合は頭巾がないと――」


 カイルに頭巾を取られて、その中からトレードマークの長耳が、ピヨン、と飛び出す。


「よし、これでこそ、レイモンドだ!」

「カイル! 頭巾返し――」

「レイモンドだぁ!」


 唐突に誰かが叫んだ。


「な、なんだ!?」

『なんだか……皆さん注目してる?』

「まずい……」


 次にどどど! と押し寄せた人波にカイルはぺっ、と弾かれてレイモンドは飲み込まれる。


「なんだよ! 帰ってきてたのかよ、【英雄】!」

「里で顔が見えないから心配してたんだぞ!」

「レイモンド様! 私は毎日レイモンド様の無事を巫女様へお願いしておりました!」

「ちょっと! レイモンド様が困ってるでしょ! あんた離れなさいよ!」

「いや、貴女が離れなさいよ!」

「わっ! ちょっと! 皆さん離れて――」


 レイモンド! レイモンド!

 と、モテはやされるレイモンドを見てカイルは起き上がりながら眼を丸くする。


「な、なんだ? なんだこれ?」

『カイル、レイモンドさんってとても有名な方なの?』

「うーん。まだまだ、これからって感じだぜ? でもアイツの二つ名って【黒蹴球】だ。【英雄】って……」

「それはね、レイモンドが『大瀑布』を倒したからよ」

「わぁ!?」

『きゃっ!?』


 唐突に声をかけられて、カイルとリースの関心は背後へ向けられる。

 そこにはカイルも同じくらいの身長をした小柄な女が立ってた。


「だ、誰だ!? って……『土蜘蛛』!?」


 カイルは、女の顔にある六つの目を見て即座に当てはまる『妖魔族』の名前を叫んだ。


「あら。初対面で私の種族が出るって事は……貴女、レイモンドと同じで“外”の人間ね」


 『土蜘蛛』の女は半目で、カイルをじっと見ると上から下まで視線を巡らせる。


「服がかなり劣化してるわね。本来の加護が殆んど失われている……貴女、服のケアはちゃんとしてる?」

「え? な、なに? 服のケア?」

「そうよ。脱いだ後は? その場に捨て置かないでハンガーにかけてその下に魔石を置いてる? 加護に必要な魔力をそのに補充はさせてる?」

「いやー、ずっと旅をし続けてるからさー。着っぱなしだ!」

『『シーモール』から安心して休める場所に辿り着かないよね』


 カイルとリースの話を冷静に聞いた『土蜘蛛』の女は、少し冷ややかに半目で見据え、


「貴女、このままだと死ぬわよ」


 と、躊躇いなく言い放った。


「え? リース、俺死ぬの?」

『ええ!? と、唐突に何ですか!?』

「嘘や冗談で言ってるワケじゃないの。私は他人の着ている服を見れば、その人物の生き様が解る。細かい理由を省いて結論だけ言えば、このまま旅をすると近い将来、貴女は確実に死ぬわ」

「大丈夫! 俺はおっさんよりも強くなるから、それまで死なねぇ!」

「根性論も嫌いじゃないけど、世の中はそれだけじゃどうにもならない事がある。服もその内の一つよ」


 芯の通った発言は、ゼウスやローハンから言われた様にカイルへ刺さる。


「確かに……おっさんにも少しは考えろって言われるけどさ……でも服一つで変わるモンなのか?」

「ええ。服はヒトの理性を確立する為に必要不可欠な要素ファクターなの。場面によって装いを変えるように……その質を上げるだけで物事が大きく変わる」

『服の話なのに……なんだか凄い広大な話ですね……』

「……って事は……俺がマホーを上手く使えないのも! 『ガラット』を自在に抜けないのも!」

「服が原因よ」

「そ、そうだったのか!」

『…………』


 断言する様に言い切る『土蜘蛛』の女にカイルは納得する。

 それは違うんじゃないかなぁ。とリースは思ったが、確信が持てないのでツッコミは取りあえず見送った。


「服はヒトの本質を構築する基盤。貴女さえ良ければ、私が仕立ててあげるわよ?」

「マジ!? 丁度良かった! おっさんに服を買い換える様に言われててさ!」

「見たら解るわ。私からすれば、良くそんなナリで里を歩けたわね」

「一応は動けるぜ!」

「……私の名前は千華せんかよ」


 『土蜘蛛』の女――千華はカイルとの問答が一方的なモノになってきたのでさっさと切り上げる為に名を名乗る。


「俺はカイル! こっちはリースだ!」

『よろしくお願いします』

「よろしく、カイル、リース」






「そう言えば、千華って何歳なんだ? 身長は俺と同じぐらいだから若い――」

「4000歳以上。さんを着けなさい」

「…………マジ?」

「マジ。外じゃ私と一人を除いて『土蜘蛛』は全滅みたいね。文化に寄り添う気質じゃなかったからいずれは、バカやって全滅するとは思ってたけど。あの、素振りばかりしてたヤマトも立派になったモノだわ」

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