第225話 私は君の10倍は歳上だ

 崖上までの飛翔を終えると、『グリフォン』はふわっと滞空し丁寧に着地。背に乗せたディーヤが降りやすく少しだけ身を屈める。


「ありがとナ」


 礼の意思を伝える意味でも撫でてあげると心地良さそうに、コルル、と鳴く。


「すっげー! 里が一望できる!」

『違う所から見ても新鮮に見えるねー』

「こっち側はビリジアル密林が近いみたいだね」


 各々で崖上の散策に勤しんでいる様子にディーヤは声をかけながら歩み寄る。


「行くゾ。ディーヤの家ハ、こっちダ」

「おう!」


 ディーヤの後に続くと目視でも目立つ――塔の様な建物の前で三人と一匹の足は止まった。


「塔?」

『近くにトーテムポールもあります』

「ディーヤさん。ご両親の里での役割は――」

「『番人』ダ。ビリジアル密林から里に魔物が入らない様に間引きすル。手に負えない魔物が出たら塔から煙を上げるんダ。そしたら【極光壁】が助けに来ル」


 ディーヤは塔の頂上を見上げた。両親が亡くなってから、その役目は久しく空席のままだった。


「村でおっさんがやってたヤツかー」


 カイルは村でローハンの仕事を手伝った事もある為、ディーヤの両親がやっていた事を即座に理解した。


『ローハンさんって、カイルの村の常駐なの?』

「おう。って、レイモンド。なんだよ、その顔」

「僕はカイルが“間引き”なんて難しい言葉を理解してる事に驚きだよ」

「なんだと、コラ……」


 その時、三人と一匹に影がかかる。髪を揺らす風に塔の頂上を見ると舞い降りたのは一体の『グリフォン』だった。


「うぉ!? なんだアイツ!?」


 反射的に見上げたカイルは、その『グリフォン』の姿を見て驚く。


『翼が……片方義翼?』


 リースは片翼が金属の翼で出来ている『グリフォン』に思わず驚く。

 レイモンドはその『グリフォン』が上空を飛行している様子を何度か見たことがあった。

 義翼は飛んでいてもかなり目立つ。里でもそれなりに有名な『グリフォン』であるらしく、チトラに事情を聞いた所、義翼の整備の為に自身で金品を用意してくるのだとか。


「確か名前は――」

「スカイ」


 ディーヤは見上げながら無意識に名前を呼ぶ。


「…………」


 義翼の『グリフォン』――スカイは傷により色の違う両眼でディーヤ達を見下ろすと、翼を開き、里へ滑空するように去って行った。


「ん? ディーヤ、あの『グリフォン』を知ってるのか?」


 ディーヤが少し気落ちしている様子をレイモンドが察して代わりに説明する。


「カイル、あの『グリフォン』は先代【極光剣】の――」

「ここに居たか」


 と、背後から聞こえたゼフィラの声に振り返る。


「あ! 確か……ゼフィラ!」

「“さん”を付けたまえ。私は君の10倍は歳上だ」

「あ、ごめん……俺はカイル! よろしく!」

『リースです』


 自己紹介がまだだった事を思い出し、改めて名乗る。

 ゼフィラから放たれる威圧感は最初に対峙した時よりもかなり薄れているが、それでも威厳のある喋り方は有無を言わせない圧がある。ディーヤは跪いて俯く。

 カイルの言葉使いを訂正させたゼフィラは、一度咳払いしてから本題に入った。


「カイル、リース。我々の今後の関係の為に君たちには証明してもらう事となった」

「証明?」

『何を……』

「【スケアクロウ】」


 その言葉にディーヤとリースが反応する。


「かの魔獣の討伐を君達へ依頼したい」

『待ってください! 【スケアクロウ】って……あの【スケアクロウ】ですか!?』

「ほう、知っているのか?」

『『永遠の国』の守護者……ですよね?』

「そうだ。リース、君が事情を知っているのなら【スケアクロウ】に関する私からの説明は省く。12時間後に三人で『宮殿』へ来たまえ。『永遠の国』アステスの国境まで送ろう」


 必要な事を告げ終わったのか、ゼフィラの姿はノイズが走る様にブレ始める。


「ゼフィラさん」

「ん?」


 カイルは一つだけ聞いておきたい事があった。


「【スケアクロウ】ってヤツ……強いのか?」

「ああ。我々にとって【スケアクロウ】と対峙し、生き延びた者が『戦士長』の資格を得る」


 そう言い残すとゼフィラの姿は消えた。

 無言で佇むカイル。レイモンドは、そっとカイルを覗き込むと不敵な笑みを浮かべていた。


「レイモンド! 【スケアクロウ】ってヤツ……強いんだと!」

「あー、うん。そうだよねー。興味津々だよねー。君は特に……」


 肩を掴んで興奮気味にガクガク揺らしてくるカイルの様子にブレーキの踏みどころを失っていると感じていた。


「三人って言ってたよな! 俺とおっさんと……レイモンド! 後、ディーヤも行こうぜ!」

「カイル……色々と計算がおかしいよ?」

「それじゃ四人ダ。しかも何故ディーヤも誘ウ?」

「だってディーヤも強いじゃん! 皆、強いヤツと戦りたくないのか?」

「行動原理が90%闘争心で出来てる君と他のヒトは違うって事を覚えてくれないかなぁ」

『私は戦えませんから……一人は空く感じですけども』

「…………」


 ディーヤは断りも肯定もせず、複雑な心境だった。

 カイルは打算など欠片もない様子で、良かれと思って知り得る限りのメンバーで考えている。


「よし! 早速、おっさんと作戦会議だ! ディーヤ、後でおっさんと泊まりに来るからな。ちょっと戻るぜ!」

「ヒトの話を聞きなって」

「おっさんの所でまとめて喋ってくれ!」

「……待テ」


 そのまま、『グリフォン』で飛翔してきた道筋を走って降りようとするカイルをディーヤが呼び止める。


「どうした?」

「……『グリフォン』を使って崖を降りると良イ。そうすれば、時間はかからなイ。カルニカにはディーヤが事情を話しておク」


 本来なら『グリフォン』達の仕事をする範囲は決まっているので、良くない事なのだが、ゼフィラが関わっているとなれば話は別だ。


「おお、サンキュー!」

「助かります。カイルはそのまま飛び降りそうな勢いでしたから」

「俺も落ちたら死ぬ事くらいはわかるぞ! 馬鹿にすんな!」

「どうだか」

『あはは……』

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