第226話 店長、今行きまーす!

「悪いが、オレはパスだ」

「え!? 何でだよー!」


 宿を探しに行っていたカイル達は、ディーヤの所に泊まる旨と『太陽の民』側からの今後の関係に関する条件を持って帰ってきた。


『……ローハンさん。なんで『千年華』のエプロン着てるんです?』

「…………まさか」


 リースとレイモンドはオレの新たな装備『千年華従業員エプロン』を見て全てを察した様だ。


「怪我の具合もあるし今日は軽い掃除だけだけどな……明日からは本格的な事をやらされる」

「【スケアクロウ】だぜ、おっさん! めっちゃ強いらしい!」

「ああ。それも、さっきゼフィラが来たから知ってるよ」


 現れたゼフィラは、このエプロンと外の掃き掃除をしている様を見て色々と察した上で説明だけをして去って行った。

 店長(千華)は肩書きこそ持たないものの『太陽の民』ではかなりの発言者なのかも。


「だが、よりにもよって【スケアクロウ】か」

『ローハンさんも遭遇した経験が?』

「いや……オレの場合は外の情報だ。後で店長にも聞くが、名称が同じで全く別物の可能性もある」


 もし、オレの知る【スケアクロウ】なら『永遠の国』って所にはエデン婆さんの情報があるのかもしれん。

 『遺跡内部』からの脱出案として『永遠の国』に関する情報も洗ってみるか。


「……ローハンさん。僕の負債もありますよね? 手伝います」


 すると、レイモンドが申し訳なさそうに提案してきた。


「俺も! 皆でやればすぐ終わるだろ!」

『微力ながら……協力します!』


 続々と手を貸してくれる宣言はオレに対する敬意の現れで嬉しい所だが……


「いや……お前達はゼフィラの提案を飲んで【スケアクロウ】と戦れ」

「いいんですか?」

「こっちは気にするな」


 オレは身動きが取れなくなったが、店長(千華)にはこっちの事情は根掘り葉掘り全て話してある。流石に、決戦時までこの状態では無いだろう。


「オレは不足の事態で身動きが取れん。だが、考えようによっては傷を癒す時間とも取れる。お前達は『太陽の民』との摩擦を少しでも無くせる様に動いてくれ」

「わかった!」

「はい」

『頑張ります』


 レイモンドと比較的無害なリースに関しては大丈夫そうだが、オレやカイルに対してはソニカ婆さんからの信頼はまだまだ足りないだろう。


「ローハン、いつまで表の掃除をしているの? 生地の整理がまだよ」

「あ、はーい! 店長、今行きまーす! ってことでそっちは頼んだぞ」


 信頼関係の構築は作戦を提案したオレよりも、純粋に動き回るカイルを中心とした方がより理解されやすいだろう。

 それに……シルバームの動きが妙だ。オレは動きを控えて置く方がヤツの動向に注視出来る。


「ローハン」

「あ、はーい! はーい! 行きまーす!」






 ペコペコしながら店内へ戻るローハンを見送った二人と一匹は、


「……なんか申し訳無いなぁ」

『き、切り替えて行きましょう!』

「でもさー、おっさんがダメかー。 じゃあ、やっぱりディーヤだな!」


 条件は三人。恐らくリースは数に入っていないと仮定しても問題ないだろう。


「……あれ? じゃあ最初から僕も組み込まれてたのかな?」


 レイモンドの素朴な疑問。ゼフィラは最初から三人と言っていた。


「よし、腹も減ってきたし! 取りあえず食料買ってディーヤの所に戻ろうぜ!」

『なんだか、自由なお泊まり会みたいでワクワクしますねー』

「…………」


 次にレイモンドはカイルの行動が少し変だと感じる。

 いつもなら、何かとローハンさんを引っ張り出そうとする行動を取るけど……今回は別の優先順位が上に来ている様にディーヤさんを誘う事に固執している。


「……君も変わりつつあるってことかな」

「レイモンド。何をぶつぶつ言ってるんだ?」

「君がローハンさんをあっさり諦めた事に少し驚いてるんだ」

「確かにおっさんが来れば誰にも負けねぇ! けど……それだと【スケアクロウ】倒されちゃうだろ?」


 少し申し訳なさそうに後頭部を掻くカイル。悪いことを隠す子供のような表情で答えた。


「それにおっさんから与えられた課題! 『共感覚ユニゾン』がどこまで俺を強くしてくれてるのか……知っておく良い機会だしな!」

『『共感覚』? それは何?』

「リースは知らねぇか。ソレは俺の固有魔法で――」


 得意気に自身の能力を説明するカイル。

 ローハンの想定する『ナイトパレス』との決戦は、恐らくこれまで以上に自分の能力を引き出す必要があるだろう。


「まぁ、君としてはただウズウズしてるだけだと思うけどね……」


 カイルの脳筋思考は稀に状況の最適解に触れる。本人がいつも通りな分、自覚は無く、本当にだが。


「僕は夜の方が月を知覚しやすいんだけどね」


 常に昼間の『太陽の大地』では少し意識しずらい。

 とは言え、今の全力を知っておく事はレイモンドとしてもやぶさかではない。それに鍛え上げた能力に精密なコントロールを意識する良い機会だ。


「カイル、今の実力を出すのは良いけど、『シャドウゴースト』の縛りがあるって覚えてる?」

「あ! そうだった……くっそー!」

「それだけは絶対に忘れちゃダメでしょ……」


 その縛りがなかったら、ローハンさんやクロエさんはシヴァさんと一緒に【夜王】を倒してただろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る