第227話 永遠に動キ、永遠に戦ウ

「てなワケでさ! ディーヤ、一緒に【スケアクロウ】を倒しに行こうぜ!」


 食料を抱えて崖上の塔(ディーヤの家)に戻ったカイルは、歯を見せて笑いながら彼女をメンバーに誘った。


「……今回の件はお前タチを巫女様が見定める為の依頼ダ。ディーヤを誘う意味無いだロ」

「そうなのか? うーん。俺はよく分かんないけどさ。三人必要なんだ!」

「…………肉ばっかり買ってきたナ」


 ディーヤは否定も肯定もせずに無理やり話題を切ると、カイルが『グリフォン』と共に戻った食材を見る。

 それらは里の市場で安くて多く手に入る肉ばかりだった。とにかく、量を買ってきたという感じだ。


「世話になった『グリフォン』にも食わせようと思ってさ」

「コルル!」

「コカカ!」


 カイルの意図を理解している『グリフォン』二体はカルニカに所へ戻らず、翼を広げてアピールする。


「適当に焼くカ……」


 ディーヤは食事の準備として焼き網を設置する為の煉瓦を積み始める。カイルも使えそうな形の煉瓦を選んでディーヤの近くに運んだ。


「【スケアクロウ】って強いんだろ? リースもさっき驚いてたし、がっつり食って、備えないとな!」

「じゃあ、肉を細かく切ってくレ」

「おう!」


 ちなみにレイモンドは千華から借りた頭巾をカルニカへ返して貰いに行っていた。


「【スケアクロウ】……一体、どんなヤツ何だろうなー」

『【スケアクロウ】は不落の番人なのよ』


 パタパタと1個ずつ煉瓦を積む手伝いをするリースは【スケアクロウ】の説明を始める。





 ビリジアル密林を北東に進むと知らず内に開けた空間と金属の壁に辿り着く。


 『永遠の国』アステス。

 それが、壁の向こうにある国の名前だった。

 かの国の内情は誰も知らず、その国からは誰も出てこなかった。

 他国からの商人さえも寄せ付けず、特産品を何も出さない事からも謎多き国であるが、とある噂が囁かれた。


 アステスは“不老不死”の女王が国を統治している。


 嘘か真か。ソレを確かめる、又は求める者が入国を願い出たが、アステスへは是も非もなく、しばらく国境付近で待機すると、壁の向こうから【スケアクロウ】が現れるのだ。

 現れた一体の・・・【スケアクロウ】は問答無用で国境付近にいる異物の排除を始める。

 ソレは一国の軍隊でさえ退ける程の強さを持ち、いつしかアステスには近づいてはならないと言う了解が各国に囁かれ、不可侵の国として周辺諸国からは認知された。






『魔獣【スケアクロウ】と『永遠の国』アステスは、世界でも最も全容の知れない国として有名なの。過去には数万の軍隊でアステスへ侵攻しようとした国もあったらしいけど、【スケアクロウ】一体に退却させられたみたい』

「へー! そんな『オールデットワン』みたいなヤツがいるのか!」


 聞けば聞くほどカイルは戦意が増していく。一体どれくらい強いのか想像がつかない。


「言っとくがナ。【スケアクロウ】には誰も勝てなイ」


 カチッ、とディーヤは煉瓦を積み終わると中に炭を入れて太陽の光を細く集めると、ジジジ……と火をつける。


「ヤツは生物としての欠落が何も無イ。永遠に動キ、永遠に戦ウ。こっちが死ぬまデ」


 炭が程よく熱を帯び始めた様子に上から網を置く。

 【スケアクロウ】に触れる事は『太陽の民』でもタブーの一つだ。故に『戦士長』候補以外では決して近づいてはならない。


「でも、例外はありますよね?」


 すると、レイモンドが場にやってきた。頭巾を取り戻したらしく、被っての登場である。


「例外?」

「シヴァさんは【スケアクロウ】を撃退したと聞いています。それで『戦士長』に選ばれたと」

「おお! シヴァのおっさん、そんなに強かったのか!」


 【極光波】を持つシヴァが『太陽の里』へ侵攻してきた【スケアクロウ】を撃退した。

 その件は『太陽の民』の間でもかなりの話題になり、シヴァの『戦士長』就任は即決まりだったとのこと。


「それでも『戦士長』はかなりの深手を負ったがナ」


 シヴァは、こっちから仕掛けない限りは絶対に向こうからは手を出して来ないと確信した様子でソニカへ報告した。

 そして、【スケアクロウ】と戦うにはリスクが高過ぎると言う事も。


「…………」


 故に、今回カイル達へ【スケアクロウ】との対峙が承認された事はディーヤとしても理解出来なかった。

 彼女達を信頼出来ないのは理解できる。だが……信頼関係を構築する方法は他にもあるハズだ。

 それがよりにもよって【スケアクロウ】の相手をさせるなど……巫女様の判断にしては少し妙だ。


「…………」


 このざわつく感じは覚えがある。

 過去にアシュカ先生が【夜王】を倒すと言って家を出て行って……帰らなかったあの時と……同じ――






「お前の意図を話せ。シルバーム」


 ゼフィラはチトラの所から『グリフォン』の雛を買って自宅で飼育を始めたシルバームに追求しに来ていた。


「急になんだよ。質問の主旨が抜けてるぞ」

「アイツらを【スケアクロウ】とぶつける意味だ」

「ソレだよ」

「なに?」


 ゼフィラにそう告げるとシルバームは、問いに答える。


「これから俺たちは命を預け合う。だが、逃げ場の無い『太陽の民』と違って、ローハン達はいつでも脱出できるだろ?」

「…………」

「そんな事はしない。と、保証してくれるヤツなんざ世界のどこにもいねぇのさ。他人は他人。俺たちはアイツらの事を何も知らねぇしな」

「シヴァは認めたぞ」

「状況からしてシヴァは少し冷静じゃ無かったハズだ。当初はディーヤを助けて帰る予定だったしな。奴らは変に実力もある以上、下手な依頼でも戦士たちが命を預けるに値する、と納得するかも怪しい」

「だから、【スケアクロウ】か?」

「文句はねぇだろ? 上手く行けば、シヴァの穴も埋められて全てが一つにまとまる」


 シルバームはゼフィラに視線を向けて告げる。


「上手く行けば……な?」

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