第224話 馬鹿ヤロウが……
『ここですか?』
リースはディーヤの歩む先が壁面に向かって、一つの大扉で止まった様子に疑問を浮かべた。
しかし、カイルとレイモンドはどことなく察する。
「『ボルカニック』の“アンダー”と同じ感じだな!」
「だね。扉が大きい。思った以上に中に住んでる人は多そうだね」
「説明するよりも見た方が早イ」
ディーヤは大扉の横にある小屋へ足を運ぶと、少し届かない身長を背伸びして顔を出す。
「ラージャニ」
「おう、ディーヤか」
眼鏡をかけて、もじゃもじゃの髭を鼻下に蓄えた中年の男は木彫りの手を止めた。
「家に帰ル。扉を開けても良いカ?」
「ああ、いいぞ。それよりもお前……何日もどこに行ってた? クシも避難所から帰って来ねぇしよ。今も――変な奴らと帰ってきやがって」
ラージャニはカイル達をジロと見るとディーヤに視線を戻す。
「……クシは死んダ……」
「…………馬鹿ヤロウ。この……馬鹿ヤロウが……」
ラージャニは顔を上に向けて、落ち着く様に、馬鹿ヤロウ……と口にする。
「ディーヤ、馬鹿ヤロウな真似は絶対にするなよ? 後を追う事は誰も望んじゃいねぇ」
クシとディーヤの関係を産まれた時から知るラージャニは、釘を刺すように言う。
「……解ってル。クシの分も生きるつもりダ」
「……わかった。さっさと入んな、馬鹿ヤロウ」
ディーヤは大扉を人が通れる隙間だけ開けると二人と一匹を招き入れた。
「おおー! スゲー!」
「これは……いやはや……」
『ふわー』
大扉から中に入ると、そこは天井が吹き抜けた大きなロビーとなっていた。
見上げると、崖上まで円柱にくり貫かれたロビーは太陽の光がふんだんに差し込み、螺旋通路が壁に設置されて、頂上まで続いている。
壁面には数多の扉があり、外から見た100倍は住人が住んでいる様子が伺えた。
「すげーぜ……“アンダー”よりも綺麗だな!」
「“アンダー”は鉱山都市だからね。でもこっちは完全にヒトが住む事を考えられてるよ」
『二人はこう言う家を見たことあるの?』
リースがパタパタと聞いてくる。
「おう! 色んな所を旅してるからな!」
「『太陽の民』は見た目以上に少ないとは思ってたけど……壁の中ならいくらでも住めるのか」
「里の中にある建物ハ、大半が里の皆が利用する施設が主ダ。後ハ、壁面の住居では手狭な家族なんかが住んでるゾ。抽選で選ばれル」
『じゃあ、壁面に住んでる人は独身の方って事?』
「うーム。あまり意識した事は無いガ、言われて見ればそうだナ」
「? でもディーヤは家族と一緒にここに住んでるんだろ?」
「…………好きで住み続ける者も居ル」
と、ディーヤはロビーの隅で餌を食べているグリフォンの宿り木へ向かう。
「カルニカ」
「ん? あらぁ~ディーヤじゃないの~いつ帰ったの~?」
グリフォンの世話をしている『太陽の民』は豊満な胸を持つ女性だった。
「今ダ。グリフォンを借りたイ」
「良いわよ~。後ろのお友達さんも一緒よね?」
「そうダ」
「よろしく! 俺はカイル!」
『リースです』
「…………レイモンドです」
「あら~! レイ君じゃな――」
「す、ストップ! 騒ぎになりますから!」
レイモンドは咄嗟にカルニカの音を魔法でシャットアウトする。
「あらあら。うふふ。どうも、カルニカです。『翼院』のチトラはご存知?」
「おお、知ってるぜ! 友達だ!」
『良いヒトです』
「ふふ。私は母です~。あの子は口下手だけど、仲良くして上げてね~」
「任せてくれ!」
『もちろんです』
一通りの自己紹介の最中でも、レイモンドは辺りをキョロキョロとしてカルニカの他に気づかれてないかビクビクしていた。
「そうね~。一人ずつになるわね~」
「ディーヤ、この鳥で上に行くのか?」
「崖上だからナ。徒歩で上がるのは登山するのと変わらン。後、鳥じゃなくて『グリフォン』ダ」
「コルル」
仕事か。と言いたげに、キリッとした二体の『グリフォン』が前に出た。
「このハーネスを着けて~」
「着けた!」
「この宿り木の下に座って~」
「座った!」
「は~い、三~二~一~」
「うっおっは!?」
『わぁぁぁ!!?』
カルニカの『風魔法』によって発生した瞬間的な上昇気流と、『グリフォン』の羽ばたきによって、カイルとリースは上空へ大きく飛翔して行った。
「ふふふ。新鮮な反応はいつ見ても良いわね~」
「カルニカさん。お願いします」
カチャカチャ、スン、とレイモンドは準備を終えていた。カルニカはそんなレイモンドにトコトコと近づくと、
「は~い、男前~」
「え? あ、ちょっとぉ!」
外套を取り、カウント無しで上昇気流にてレイモンドも上空へ。上から、
“レイモンドじゃねぇか!”
“レイ君ー!”
“神出鬼没だな! 【英雄】よ!”
“レイモンド様~!”
などと通過する際に騒がれながら登って行った。
「カルニカ。ディーヤは上昇気流はいらン」
ディーヤは『グリフォン』を撫でてから背に乗る事に許しをもらい、ハーネス無しで跨がった。
「ディーヤ、クシの事は聞いたわ」
「…………」
「いつでも、ウチにいらっしゃい」
「……ありがとウ」
短い会話後にバサッとディーヤを『グリフォン』が運ぶ。
頂上にあるディーヤの産まれ育った家へ――
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