第168話 子供扱い
「この~♪ 世界は~♪ 誰もが
『共に世界を巡ろうよー♪』
水着から着替えたオレは『ニーノの公演』の余韻が冷めないカイルとリースが機嫌良く歌う様を後ろから見ながら『石碑』へ向かっていた。
「どうやら、彼女達の中でブームとなってしまったか。いやはや並みならぬ才能が嫉妬されてしまうなぁ」
「…………」
その向かう面子の中にはオレと並んでニーノも混じっている。
「ふふ。何か言いたげだね、ローハン。この僕が君の質問に答えてあげよう」
カイルよりも胸が無ぇクセに、胸を張ってドヤりやがって。『ニーノの公演』は簡単に言えば『幻術』だ。
『音魔法』と『水魔法』を駆使して広域を催眠状態へと飲み込む複合魔法『大公演』はニーノが【呼び水】を使う事で完成した固有魔法だ。
そして、ソレに己の意志を宿している。
無論、魔法に意思を残すなど規格外であるが……ソレが【呼び水】が課せるニーノへの“罪”なのだ。
「聞きたいことは幾つかあるけどな。まずは……」
ニーノの状況はさておき、オレはカイルの腰にある『水剣メルキリウス』を見る。
「なんでカイルが『水剣メルキリウス』を抜けたか、って事だ」
それが今回一番の謎だ。ニーノは『水剣メルキリウス』の前の所持者。何らかの事情を知っている可能性はある。
「それは僕にも分からない」
「…………よし、消えてどうぞ」
『幻術』の発動を維持する魔力の供給を断つと、すぅ……とニーノの姿が薄れていく。
「ま、待ちたまえよ。僕の話を聞いてからでも遅くはないさ」
「……」
仕方ねぇ。もう少しだけ延命してやるか。
「彼女は少し特殊な生い立ちをしている様だね」
ニーノはカイルを見ながら断言する様に告げた。
「彼女のご両親は?」
「戦争に行ったきり、帰って来なかったそうだ」
「他の身内は?」
「祖母が一人いる」
「ふむ。それは少し妙だね」
「何がだ?」
「彼女の輪廻の前後が見えないんだよ」
ニーノは【呼び水】の影響から、あらゆるモノの“本質”を一目で捉える。
ソレは後世や来世、生涯にその者が関わる存在全ての輪廻を観る事が可能らしい。
「つまり、どう言うことだ?」
「世界の定義から外れてるってことさ。彼女は本当に“人”なのかい?」
昔、カイルに両親の事を聞いた事があった。カイルはクルスさんに、戦争に行ってまだ帰ってないと聞かされており、オレもソレをクルスさんから確認している。
第三次千年戦争。ソレに関わったと思い込んだオレは言及する事を止めたのだ。
「……アイツは、オレの弟子。カイル・ベルウッドだ」
「ふふ。それなら大丈夫だね」
何であろうとソレだけは絶対に変わらない。
「そんで、何で『水剣メルキリウス』をカイルが持てたんだ?」
「存在の定義が曖昧だからだよ。彼女は、世界から、強くも弱くも見られてない。だから『水剣メルキリウス』を持てた。曖昧だから一応、触れさせると言った感じかな。まぁ、一太刀振るえば強者として認定されて所持者として離れるだろうけどね」
「…………」
「それに、ここは『遺跡』内部だ。僕も肉体は無いし、上手く君たちの輪廻は探れてないのかもしれない。実際に、ローハンの輪廻も君が幼い頃に見たモノと今は大きく変わってるよ」
「オレも色々あってね」
【オールデットワン】がオレの輪廻に大きな軌道変更を及ぼしている様だ。
『石碑』が見えて来るとニーノの姿が光の軌跡に分解される様に消えていく。
「じゃあね、ローハン。今回、君のおかげで多くの人たちを笑顔に出来た。より“罪”を清算出来たと思う」
「…………最後に一つだけ教えてくれ」
「ん?」
「アンタが死んでから【呼び水】を使って死んだ青年が居た」
オレはクロウの事を問う。ニーノはシルクハットを深く被り、目線を隠した。
「名前はクロウ。アイツは、アンタと同じ様に“罪”を清算しているのか?」
「僕には分からない。けど、【呼び水】に選ばれたのなら“罪”の清算を行える存在だと判断されたんだろうね」
「……アイツは罪人じゃない」
「【呼び水】を使う事そのものが“罪”なんだ。でも、安心したまえ」
ニーノはシルクハットを上げるとドヤって視線を合わせて来た。
「【呼び水】の“罪”は全て僕が清算する。だから機会があればどんどん呼びたまえよ」
「……機会があったらな」
オレは呆れつつも自然と安心した笑みが浮かんでいた。ソレを見たニーノは手を胸に当てて丁寧な所作でお辞儀をすると、その姿は光の軌跡となって完全に消え去った。
「……だから、アンタとは会いたく無いんだよ」
母さんと同じで、一緒にいるとオレを子供扱いしやがるからな。
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