第93話 でも、二人とも、嫌い、じゃない

「火は、明るい。明るいは、大事」

「どうしたのです? カグラ」

「姫様、最近、退屈?」

「そうですね。退屈です」

「カグラ、満たす、眷属、勤め」

「あら。カグラは何か素晴らしい“物語”を持っているのですか?」

「これから、作る。待ってて、姫様」


 お土産物語を、持って、くる――






 レイモンドとの一戦を終えてカグラが参加者全員に仕掛けた。

 範囲は島内全域。まだ残る戦士達の前に現れた“カグラ”は全員が同じ言葉を同時に告げる。


“もう、戦いは、終わり”


 と――


「!!」

「なんっ!?」


 カイルとソーナの間に割り込むように現れたカグラは、とんっ、と一度地面を蹴ると瞬時にカイルへ間合いを詰める。その勢いのままカイルを蹴り飛ばした。


 こいつっ!


 逆手に構えていた剣の刃を立てつつ蹴りを受けたが、カグラにダメージが入る事はなく近くの岩に叩きつけられる。


 かはっ……硬い物を斬りつけた感触じゃない……?


「ストッ、プ」

「!? バカな!」


 カイルがやられている隙にソーナは『雷閃』を放つ。

 しかし、その拳はカグラへは僅かに届かず、停止していた。何かが前に進む事を妨害した様に途端に減速したのである。


 困惑するソーナへカグラは向き直るとその身体に身を寄せる様に、とん、と手の平を添える。

 何か……来る!? 後退――

 後ろに下がるが、ギシ……とその場に固定された様に動けなかった。


「『鎧、通し』」


 ドンッ! と重い音が響き、ソーナの内部を衝撃が貫く。

 かはっ……と吐血すると意識が飛ぶ。動かない身体はその場に、だらん、と佇んだ。


「ダメ、あなた達、物語、ならない」






「弱い、弱い、弱い、弱い――」


 『市街地』のカグラは島内に散った“カグラ達”から戦いの情報を受け取っていた。

 『ライフリング』を回収。次々に上空の生存者リストの表示は消えていく。


 誰も彼もがあっさりと倒れる。まるで成っていない。皆、“自分自身の使い方”を何も理解してない。


「あなた、達は、強い、のに」


 カグラなんか、よりも、ずっと、ずっと、強い、ハズなのに。そうじゃ、なきゃ、姫様は、あなた達に、物語を、求め、ない。


 その時、『海岸』の“カグラ”が斬られた。斬撃耐性は十分にあるのだが、それを越える一刀にて倒された様だ。


「じゃあ、あなた、だけ。クロ、エ、ヴォン、ガルフ」


 カグラとの、素晴らしい、闘い物語を作、ろ?


 カグラは魔力を強めると自分が『市街地』に居ることをあえて教えた。






 身体が動かない……

 まるで自分の身体じゃないみたいだ……


“なんだカイル。もうへばったのか?”


 おっさん……


 カグラはソーナとカイルの腕にある『ライフリング』を離れた位置から奪うと、その場を去ろうとした所で、


「まだ、立つ?」

「――――」


 立ち上がったカイルへ視線を向ける。






 何が起こったのか……

 何が起こっているのか……

 あたしには理解出来ない……

 けど……その考えを無くす為に強く……部隊の皆に背負われるだけの……兵士には成らないって――


「決めたのよ! あたしは!」

「!?」


 ソーナは『雷魔法』を自身に帯電させると、“カグラ”は咄嗟に距離を取った。

 ソーナの周囲に火の粉が舞い、拘束が解ける。やはり……魔法的な縛りではなく……物理的な“拘束”か……


「自分を、ビリビリ、ばか。ボロボロ、起き上がる、頭、おかしい。でも、二人とも、嫌い、じゃない」


 ファイターズ・ハイ。

 消耗していた二人は現在アドレナリンや脳内麻薬によって最も力を発揮できる状態にあった。


「いい、よ」


 “カグラ”は自分の手首にソーナとカイルの『ライフリング』をはめる。倒さなければ負け、と言わんばかりだ。


「カイル・ベルウッド……あんたは引っ込んでなさい、このガキはあたしが――」

「なに言ってんだよ……お前こそ、引っ込んでろ……俺が――」


「斬る!」「殺る!」


 カイルは斬り込み、ソーナは踏み込んだ。

 『ライフリング』を外した事による二人が失格(強制転移)まで、後45秒――






「ありゃ、次からは出禁だな」


 オレはカグラが好き放題やってる場面をモニターで高みの見物しつつ、良いエンタメとして酒を飲む。

 そして、一つだけカグラはミス……と言うワザと敵に塩を送っていた。


「『ライフリング』は完全に動きを止めてから奪うべきだった」


 レクス少佐は気づいていた。

 本気で二人の退場を狙うなら何も出来ない“詰み”にしてから奪えば良い。

 『ライフリング』は能力を制限し失格を決める重要なキーアイテムだ。

 破壊されたら即時退場だが、奪われた場合は一分の猶予がある。つまり――


「一分間、二人は能力による制限が無くなる」


 スサノオは、カグラがあえてそうしていることを察していた。

 カグラの目的はアマテラスに伝える“物語”を得る事。圧倒して優勝する為じゃない。


「ここで引き出さなきゃ負けるぜ? カイル」


 まだ、カグラの方が格上だ。

 しかし、お膳立ては全部整ってるぞ愛弟子よ。後はお前に眠ってる“適正魔法”を引き出すだけだ。

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