第94話 来い! 俺が当てる!

「……」


 『海岸』を回れば他の参加者に合えると思っていたクロエは、唐突に襲来した“カグラ”を一撃で斬り捨てた。しかし、剣筋には違和感が残る。


「……消えた。いや、最初から“肉”ではなかったのかしら?」


 袈裟懸けに切り上げて両断した“カグラ”の遺体は形が崩れる様に消失。剣を鞘に収め、音で探っても固形物は何も残っていない。

 確かに刃を通した感覚はあったのだが……

 消失した場に屈むとその地面に触れる。


「これは……」


 今倒した“カグラ”は『ライフリング』を着けていなかった。つまり、先程の彼女は何らかの魔法による分身体だろう。

 能力的はオリジナルの半分ほど。だが、それでも、現在の『バトルロワイヤル』では『ライフリング』を着けてない限り戦闘力2000を越える個体として現れる可能性は十分にある。


 アマテラスの眷属は誰もが、歴戦の武人だと聞いている。少なくとも一人だけ戦闘力が低いなどと言うことは無いだろう。

 ヤマトやスサノオは元より、カグラも相当な実力者のハズ――


「…………これは――糸?」


 それは彼女の正体を示していた。

 昔、養父ファングが世界中を旅して相対した敵の事を話してくれた中に、コレと合致する存在が居たことを思い出す。

 『音魔法』で集中して索敵を入れる。すると、


「孤島全域が“罠”になってる。いや……寧ろこれは……“巣”……かしら?」


 その時、露骨な魔力反応。『市街地』から強く感じ取った。

 明らかな挑発であり、罠。しかしカグラを放置すればカイルやレイモンドが彼女に成す術もなくやられてしまう。

 参加者の中でも明らかに他とはレベルが違う。


「……その誘い、後悔する事になるわよ。“眷属”カグラ」


 慎重にならざる得ないが、こちらまで罠にかかってしまったら意味はない。クロエは『森林』へ入り、なるべく一直線に『市街地』を目指す。






「ハァッ!」

「オラッ!」


 ソーナとカイルは“カグラ”へ同時に攻撃を仕掛けた。


「うん、悪く、ない」


 “カグラ”は同時に向かってくる拳と剣の隙間を縫う様に回避する。

 意図せず息が合う二人の途切れない連撃。しかし“カグラ”は最小限の動きで避け、


「でも、荒、い」


 僅かな間を捉えて攻撃を差し込む。

 ソーナには真下から羽上がる足で下顎を蹴り上げる。カイルへは“縛り”にて動きを停止させた。


「がっふ……」

「動け――」


 “カグラ”は、とんっ、とカイルへ中腰で踏み込むと拳を胸に当て――


「『発、勁』」


 ドォン……と吹き飛ばない分、威力の乗った一撃に意識が飛びそうになる。


「ぐっ……」

「耐え、る? 良い、加護、ね」


 その時、チチ……と静電気を感じ“カグラ”は後ろを見るとソーナが項垂れながらも『雷閃』の初動に入っていた。


「逃が……さない……わよ!!」

「当た、る?」


 『雷経路エレキライン』が出来る瞬間、“カグラ”は横へ飛びロックを外れた。そして、直線状にはカイルが――


「残り、10、秒」


 発動……止められない……コレを外したらもう……時間も――


「来い! 俺が当てる!」


 カイルのその叫びにソーナは、こいつはやっぱり馬鹿だ、と笑う。

 何の根拠があるのか不明だが――


「外すんじゃ無いわよ!!」


 『雷閃』――






 避けた。

 外した。


 “カグラ”とソーナは同時にそう感じた。

 しかし、発動したソーナの『雷閃』は次の瞬きのには“カグラ”の右肩を貫いていた。


「良い。連、携」


 初めて“カグラ”は驚いた様な声を出す。ソーナもまた、別の意味で驚いていた。


「――お前は」


 目の前で“カグラ”の身体は解れた糸のように右肩から形を失っていく。


「『市街、地』。待って、る」


 そして、“カグラ”は崩れて行くとその場にはバラバラの糸の束にだけが残った。

 カイルとソーナの『ライフリング』もその場に落ちる。


「やった……な……」


 拘束が解けたカイルはその場に疲れた様に尻餅を着く。痛てて……とアドレナリンが止まったのか改めてダメージの痛みを感じている。


「…………」


 ソーナは自分とカイルの『ライフリング』を拾い上げた。


「…………ほら。嵌めなさい。失格になるわよ」

「お! サンキュー」


 そして、カイルへ『ライフリング』を投げる。先程まで互いを敵として死闘をしていた様子は微塵もなくカイルは友好的にお礼を良いながら腕に着けた。


「そいつ、死んだのか?」

「さぁね。何らかの分身体……だと思うわ」


 “カグラ”の正体よりも、ソーナとしてはカイルの方が気になっていた。


「……アンタ、『雷経路エレキライン』を敷けたのね」


 “カグラ”を倒した『雷閃』。ソーナの発動した『雷経路』はカイルと繋がった。

 しかし、カイルは回避した“カグラ”の方へ新たに『雷経路』を発動したのだ。

 結果『雷閃』はカイルの目の前でルートを変えて、“カグラ”へ直撃。

 こいつは……こちらの『雷閃』の移動中に的確に『雷経路』を……

 深く連携した者同士ならソレは可能かもしれない。しかし、ソレを土壇場でこちらに合わせるなど――


 カイル・ベルウッド……こいつは……


「エレキらいん? なんだそれ?」


 自分を越える才能を持つ――と思ったがカイルは、キョトン、と首をかしげた。


「……アンタ、今の意図して発動したんじゃないの?」

「? 何となく、こうすればあっちに行く! って感覚でやってみただけだ! もしかして……今、俺は魔法を使ったのか!?」


 こいつ……自分が魔法を使った自覚は無い。感覚で発動してこちらに合わせるなど――


「アンタ、馬鹿じゃないの?」

「んな!? 誰が馬鹿だ! このやろう!」


 一歩間違えば『雷閃』は自分に直撃だった。ほんの少しでも物怖じすれば間違いなく成功しなかったと言うのに本当に――


「アンタ、馬鹿ね」

「馬鹿馬鹿言うな! そういう言うヤツが馬鹿なんだぞ!」


 しかし、カグラ本体を倒すにはカイルとの連携が必要だと言うことも改めて理解した。






 やら、れた。でも、これで、良い。


 『市街地』にて、カイル、ソーナ、クロエ以外の全ての戦士から奪った無数の『ライフリング』が周囲に浮かぶ。

 カグラ本体は近づいてくる二つの突破者が『巣』の中心――自分の目の前に現れるまで待っていた。


「どっち、が、先?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る