第90話 もう、戦いは、終わり
『【銀剣】、吹っ飛んだぁぁ! ギルスの少女兵士の一撃を受け、反撃に転じるも更なる追撃ぃ! 【銀剣】立てるかぁ!?』
「おー、派手にやられたな」
あの若さで『雷閃』を使うか。あの魔法はロジックが複雑で習得難易度は相当高いんだけどな。
『雷閃』は【雷心】エクレア・ギッシュが考案した戦闘法の一つである。初見ならばほぼ必中の技で、知っていても初動を潰さなければ止められない。
人は攻撃が来るとわかれば迎え撃つ為に意識を定める。ソレが整う前に距離を潰して攻撃を叩き込まれるモノだから防御が間に合わないのだ。
踏み込み前に発生する『
ソレを本能で察知して間を潰したカイルの動きは称賛に値するモノだが、ソーナちゃんはきちんと対策して来たな。
「カイルの悪いトコが出たか」
何かと戦いを楽しむのはカイルの長所であり短所だ。とは言っても、理詰めが苦手なカイルにとっては一定のテンションを上げた方が実力を出せるのも事実。
今の攻防を見る限りではソーナちゃんは完全にカイルを読みきってる。
『霊剣ガラット』も手元に無い以上、一発逆転も無い。
「【銀剣】は安定しないな。噂では『霊剣ガラット』の使い手と言われる程の様だが」
「ま、そのムラが弱点でね」
レクス少佐はカイルの評価を少しだけ下げた様子だ。
ソーナちゃんは軍人だけあって自分の実力を存分にコントロール出来ている。規律のある軍隊での手堅い実力者と言う感じで理想的な仕上がりと言えるだろう。
一方、『星の探索者』での育成は自由奔放な“皆頑張れー”スタイル。まぁ、本来は戦闘目的なクランじゃないってのもある。
しかし、ソーナちゃんはカイルと同等の素質を持ち、伸び代があるトコを見るとレクス少佐の言う“一歩先”と言う言葉も的を射ている。
「二人ともいい戦士だな。よき闘争だ」
スサノオはモニターを観つつ酒を飲む。よく見ると結構飲んでんな、お前。
『立ったぞぉ! 【銀剣】が立った! 他の参加者による横槍も考えられる故に、勝敗はわからないぞ!』
実況はソーナちゃんとカイルの戦いに注目している。
「ま、ウチの愛弟子はここからだけどな」
吹き飛んだカイルは弱々しくも剣を確かに握り、起き上がった。
村で稽古を着けてた時から何度ボコボコにしても、何度も立ち上がって、最後にはこっちが息切れするくらいのゾンビムーヴかましてくるのが愛弟子だ。それに、
「カイルのヤツ、魔法の輪片を掴みかけてるな」
痛って……
ただの打撃じゃない。身体の中が裏返りそうな一撃だ。
それだけでも解る。コイツは……意味不明に怒ってたけど……それ以上に強いって事が。けど――
「おっさんよりは強くない」
立ち上がれる。何より――
「なんか……掴めそうな気がする」
さっき、不自然に間合いを詰めた時、自分の内側から湧いたナニかを感じた。
あれが俺の“魔法”なのか?
「あっ」
拳――
ソーナは立ち上がったカイルへ対して『雷閃』を容赦なく叩き込む。
今度は顔面に一撃。伸びきった腕が完璧にカイルの顔を凹ます。
「――コイツ」
「うわ、危ねっ!」
向かってくる拳はカイルの鼻先で止まっていた。
ソーナが間合いを違えたのではない。カイルはソーナの肩に手を置いて拳を顔面に届くギリギリの距離で停止させたのだ。
最初は速さとソーナの機転に翻弄されたカイルだったが、何度も見せられれば眼で追うことは出来る。
それでも、同時に反撃に至る所までは行かないが。
「ふー……」
それでもソーナに同様はない。突き出した拳を解き、カイルの襟首を掴むと、もう片腕でガードの意識が薄い脇腹を狙う。
「おらっ!」
しかし、先にカイルの膝打ちがソーナの身体に入った。身体強化の一撃に鎧が凹み身体が浮く。魔法防御に特化してる鎧である為、打撃には標準的な硬度しかないのだ。
「かはっ……」
「お、やっと入ったな!」
凹んだ鎧によって胸部を圧迫され呼吸が妨げられるソーナは思わず掴んだ襟首を離した。カイルは剣の間合いまで一旦、バックステップを取る。
「『雷閃』!」
「!!? ガハァ!?」
ソーナの意地の『雷閃』にカイルは吹き飛ばされる。同時にソーナも倒れた。変形した鎧の紐を切り、圧迫から解放される。
「ハァ……ハァ……クソ、馬鹿力がっ!」
仰向けに転がるカイルへ悪態を突くと立ち上がる。
するとカイルも立ち上がった。
「ふっ……あはは。お前強いな……」
よろよろとしつつも、笑うカイル。ソーナはイラッとするが先ほど『雷閃』を数ミリで止められた事を思い出して冷静になる。
計三発を直撃させた。服の加護を越える一撃で防御をした様子もないのに立ち上がれるとは……
おそらく……コイツは痛みに鈍いタイプだ。中でも自分のダメージも自分で把握できていない馬鹿の類いだろう。こう言うのは総じて、動けなくなるまで立ち上がり続けるがふとした事で電池が切れる。
それなら、こちらはヒット&アウェイで戦えば良い。
「死ぬまで殴るわ。だから、さっさと死んで」
「――はは! 俺は死ぬ気は無いし、負ける気も無い!」
カイルは剣を逆手に持ち直す。ソーナとの攻防から本能が適した剣の扱いを選んだのだ。
「――」
「――」
じり……と両者の間に緊張感が漂う。
ソーナは理を持って、カイルは本能で攻めのタイミングを計り合う。
「もう、戦いは、終わり」
「は?」
「え?」
その緊張感に横槍を入れる様に現れたのは、“眷属”のカグラだった。
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