第89話 才能VS才能
「【千年公】! 少し宜しいですか?」
ゼウスは『ギリス』陣営に『記録石』の受け取りに赴き、ジャンヌによる謝罪と和解を得て、今後は『星の探索者』への戦闘行為は避ける事を約束した。
そうジャンヌが決めた途端、団員達はゼウスに対して友好的に相談や技術指南を求めた。
薬学、空挺の整備方法、術式の見直し、『アーティファクト』の鑑定などなど。
その全てにゼウスは、順番、順番、と嫌な顔一つせずに的確に対応する。
頼られる事を何よりも嬉しむゼウスは、団員達と仲良くなった事にほくほくで帰路に着いた所だった。
「あら、貴女は――ソーナ二等兵ね」
「あたし……名乗りました?」
「ローが戦闘不能にした子の中に貴女の名前もあったから。もう大丈夫?」
ソーナは馬車道封鎖任務にて、戦闘不能にされた時の事を思い出す。
「それは問題ありません。ありがとうございます」
「耳鳴りがするなら、すぐに
「心遣い、感謝します」
「ふふ。それで、話は何かしら?」
「『記録石』の映像を観ました。それで、一つ教えて欲しいのです」
ソーナは【オールデットワン】や『夢魔法』の事ではなく、ある人物の戦闘スタイルに注目していた。
「“
「エクレアは優秀よ。『雷魔法』だけで言えば、あの子を越える使い手に出会った事は未だに無いわ」
ゼウスの教えた生徒の中でもエクレアは頭一つ抜けていた。
「聞きたいのは【雷心】の動きです。彼女の高速戦闘は『加速』ではありませんでした。『雷魔法』は己の反応速度と身体機能を上げる事は知っていますが、【雷心】は自分の身体を運ぶ様に動いていました」
脚力の強化で踏み込むのではなく、身体そのものが高速で移動していた。しかも方向は変幻自在。三次元で動きつつ【オールデットワン】と切り結んでいる。
「あたしの凡庸な眼ではソレが精一杯でした。よろしければ【雷心】の動きについてご教授を願えませんか?」
「
「構いません。後は……あたしの方で咀嚼します」
「ふふ。わかったわ」
ソーナは中腰で拳を溜める様に構える。
その身体は僅かに帯電し、髪が少し浮き始め、ウォォォォン、と低い音が鳴る。
「『雷閃』――」
チチッ……とソーナの姿が消えると次の間にはカイルの胴体へ拳を叩き込んでいた。
「ガハァ!?」
吹き飛ばされたカイルはぶつかった木をへし折り、さらに後ろの岩にぶつかって停止。
その様を逃さずに確認したソーナは突き出した拳を引いて息を吐く。
「これで解った? あんたじゃあたしには勝てないのよ。カイル・ベルウッド」
剣を手放し、伏すように倒れるカイルへ歩み寄りながら告げる。
スカッとした。所詮は自分の敵ではなかったのだ。こんなヤツにムキになっていたとは……
「死にたくなかったら『ライフリング』で帰ることね。あたしからすれば、あんたはただの通過点よ」
この『バトルロワイヤル』には“眷属”のカグラに【水面剣士】クロエ・ヴォンガルフも居る。【氷剣二席】も厄介――あ、こいつは退場してる。
空に浮かぶ退場者の情報をソーナが見上げていると、伏した状態から肘で起き上がる気配。
「……根性はあるみたいね。でも」
ソーナはふらつきながらも剣を持って立ち上がるカイルへ視線を向ける。足が震えて、剣も落としそうな程に弱々しい。
「バカみたいに剣を振るだけじゃ勝てないわよ」
ソーナは再度、中腰を構える。容赦はしない次の『雷閃』で終わらせる。
『雷閃』の特徴は初動の分かりにくさにあった。
最小限の魔力を己に這わし、移動の瞬間だけ『
敵との間に『
速度+必中の技。
かわせる、見切る、などと考えているヤツに対しては“防御”と言う意識が割り込む間を与えずに攻撃を直撃させる事が出来る。
「これで、終わりよ」
カイルは服に加護があった為に耐えられたのだ。それでも洗練されたソーナの拳によるダメージは甚大。カイルの意識も朦朧としているのがその証拠である。
ソーナは意を定める。『雷閃』が来る。ソーナの身体にチチッ……と電流が纏われて――
「――あ……そっか。少しだけ――」
『
「魔法ってのが何なのか解った気がする」
カイルはソーナの作った『
それは理解しての動きではなく、こうすれば最適解だろう、と言う本能的な動きだ。しかし、
「遅いっ!」
カイルの動きはソーナからすれば予想の範疇だった。敵が『
その場で踏み込み、肘打ちをカイルの胴体へめり込ませる。
カイルは再び、吹き飛ばされて行った。
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