第88話 とんだビッチッ!

 キィンッ! と剣と鉄甲がぶつかる度に弾け合う。

 格闘と剣術は間合いが違う。一定の距離によって有利不利が絶えず入れ替わっていた。


「やるじゃん! お前!」

「チッ! 小賢しく動く!」


 ソーナはカイルに攻めて行くが、中々決定打に踏み込めない。

 剣は前に踏み込む事で勢いを生む。ソーナが攻め続ける限り、カイルは攻撃には転じられず武器を破壊される事も懸念し回避に徹していた。


「いい加減――」


 ソーナはカイルへ踏み込みながら両手の平に『雷魔法』を溜める。


 あ、これはヤベーな!


「くたばれ!」


 踏み込み、両手を突き出したソーナは『雷魔法』によって引き上がった衝撃を一定の範囲に流す。

 『雷魔法』『雷波』。電流の走る衝撃波と一瞬の閃光がカイルとソーナの間で弾け、両者の間が大きく開いた。


「…………くっ!」


 しかし、ソーナがよろける。『雷波』を放つタイミングを本能で察知したカイルは大きく後方へ飛び、最大のインパクトが発生する範囲から逃れたのだ。

 対してソーナはレクス程の避雷技量は無い為に、もろに影響を受ける。


「うわ、ビリビリする……でも『雷魔法』ってのもカッコいいよな!」


 自分に宿る適正魔法がどんなモノなのか、他者が魔法を使っている光景を見る度に心躍る。


「……この……能天気女がぁ!」


 ソーナは『雷波』の影響で倒れそうになるも気合いで踏み留まる。


「ゼェ……ゼェ……」

「おいおい、大丈夫かよ? て言うか……なんで俺に怒ってんの?」


 カイルは親の仇のように向かってくるソーナへ、疑問を投げ掛ける。


「そんなの決まってるわ……」


 自傷に近いダメージによって少し冷静になったソーナは一度、息を吐いて応える。


「あんたのその服よ!」


 ビシッ! と人差し指を向け宣言する。


「はぁ!?」

「あたしはね、媚を売る女ってのが一番嫌いなの! 自分の容姿やスタイルに胡座をかいて、男どもにちやほやされる……そんな奴らを見てると虫酸が走るわ!」

「……なに言ってんだ? お前……」

「特にアンタよ! カイル・ベルウッド! 『遺跡都市』に来た当初はそのデカイ胸でも、男っぽい服装だったから気にしなかっけど……今は媚々全開の服装をしやがってよぉ! しかもその服とか完全に煽ってんでしょ!」

「はぁぁぁ!? なんだよソレ! 意味わかんねぇよ!」

「うるさい! 黙れ! 同じくらいの見た目だから……仲良く出来ると思ったのに、とんだビッチッ!」

「ビッチ? そんなに叫ぶならお前も俺みたいな格好をすれば良いじゃん! 何でキレてんだよ!」


 カイルの服からソーナは、ほわほわほわ~とある事が記憶が浮かぶ。


“ソーナ、遺跡で良い装備を見つけた。幾つかの加護が付いている。近接のお前にはうってつけだ。試しに着てみろ”


 試着――


“うーむ。これは……他は良い感じなんだが……”

“フィットしないと加護の効果は無いみたいだな”

“ちょっと二人とも! どこ見てるのよ! ソーナはまだまだ成長期よ!”


「ガァァァア!!」


 部隊の上官であるレクス、ボルス、キキアにも同情された屈辱を思い出し、ソーナは理性を保つ為に叫ぶ。

 唐突に魔物のような叫びを上げるソーナにカイルは、ビクッ! となった。


 その後、仕方無しに質へ流したあの服を今、カイルが着ているのである。


「……同い年のくせに同い年のくせに同い年のくせに同い年のくせに同い年のくせに――」

「な、なんだ!? お前……なんかおかしいぞ……?」


 カイルの今の服はクロエに勧められた物だ。攻撃と回避を主な戦闘スタイルにするカイルへは魔法による防御が出来ない。故に常に加護が発動している衣服の方が良いと言うクロエの心遣いである。

 ちなみに『遺跡内部』“中層”での交戦でボロボロになったが、ゼウスの魔道具『衣類修復君ver.1.2』によって完全再現による修復が施されていた。


「お前を……殺すっ!」


 ソーナは間合いを詰めるワケでもなく、その場で中腰になり、半身をカイルに向けると拳を引き腰に溜める。そして、内側から沸き上がる様に『雷魔法』にて、チチチッと薄く帯電を始めた。


「……何を言ってるのか意味はわかんないけど……」


 カイルはソーナの異常な殺意は理解出来ないが、これから彼女の放つモノがとても“凄い”と言う事は理解した。思わず笑みが浮かぶ。


「お前がスゲーってのは分かる! けどな! 俺はそれを越えてやるぜ!」






「あー、それでソーナちゃんはカイルに固執してんのか」

「ああ。『星の探査者』には迷惑をかけている。すまん」


 レクス少佐から、ソーナちゃんがカイルに過剰な反応を見せる理由を教えてもらった。

 遺跡内部で見つけた加護付きの服をソーナちゃんが着るも、胸が絶望的に足りず仕方なく質屋へ。

 それをクロエに買われてカイルが着る。

 カイルが同い年と知り、その服を着てる様を見る度に沸々と嫉妬が増えていたそうだ。そして、交戦する許可が出された事で感情が決壊したらしい。


「顔を合わせない様に遺跡探索や、外部任務に連れ回していたんだが……」

「ああ、あの時ブッキングしたな」


 詳しくは馬車道突破戦を参照。


「まぁ、こっちは別に気にしてない。愛弟子も楽しそうだし」

「やはり【銀剣】はローハン殿の指導を受けているのだな」

「才能の塊みたいなヤツだ。今もパワーアップの為に『バトルロワイヤル』に放りこんだ」


 とは言え、今のカイルと五分に戦り合えるソーナちゃんも相当な才能だな。胸囲は完全に負けてるが。


「パワーアップか……それならば、ソーナは一歩先に行っているな」

「ほう」

「【千年公】から見せてもらった『記録石』にてソーナは新たな境地に足を踏み入れた。今回はソレを試すために参加している」

「ウチのカイルの動物的勘は並じゃないぜ?」

「勘では遅い。瞬きの間に終わる。故に、格上にも届く」


 カイルが負けると困るんだが……まぁ、そろそろ同い年くらいのヤツから与えられる“負け”の経験も今後の糧になるか。


「そんじゃ、お手並み拝見だな」

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