第9話 貴重な部下を失うわよ?
オレはクランマスターから頼まれた紅茶を買い足し、預かり所に荷物を受け取ったカイルと合流した。
馬に荷物を乗せて、手綱は降りて引く。基本は徒歩で、馬は荷物持ちだ。
遺跡都市までは歩いて三日。食料は念のために六日分を用意しての出発である。
ちなみに“霊剣ガラット”はイザコザの原因になる事もあるので、布でくるんでカイルが背中に持つ。
オレは片手に手甲を着けて咄嗟の戦闘にも備える。
「ふむ」
旅路を順調に進んでいると、正面から数台の馬車がやってくる。どうやら定期便の引き上げチームの様だ。
「ども」
道を開けて挨拶をすると、最後尾の馬車が止まる。
「旅人か? 遺跡都市へ行くのか?」
「正確には帰るんだ!」
カイルが答えると業者の男は、
「止めときな。今、この先で『ギリス』の騎士連中が遺跡都市に行く奴らを追い返してる」
「知ってるよ」
「何も問題無いぜ!」
オレとカイルなら実力的に突破は可能だろうが、出来るなら無駄な労力は避けたい。クランマスターが上手く話をつけてくれている事に結構期待してたりする。
「言っておくが遺跡都市に居る『ギリス』の連中はただの騎士じゃない。“死兵”だ」
「マジか……」
「どういう事?」
納得するオレにカイルは疑問詞を浮かべる。
「それでも行くかい?」
「遠路はるばる来たんでね。悪いが引き返す選択はない」
「そうかい。まぁ、頑張んな」
そう言うと業者は馬車を走らせて行った。
「……なるほど。それでこんな所に居るのか」
「おっさん! 一人で納得してないで教えてくれよ!」
「おっと、わりーわりー」
オレは歩きながらカイルに説明を始める。
「簡単に言えば遺跡都市にいる『ギリス』は正式な部隊じゃない」
「偽物って事か?」
「いや……そうでもない」
「じゃあ何なんだよ」
「死兵だよ」
オレは昔の自分が所属していた“部隊”を思い出す。
「何かの手違いで公的に死亡扱いになった奴らの事だ。生きているのに死んでる。故に国の誇りやら騎士道精神やらは全く持ち合わせていない」
統率された部隊が丸ごと死兵となっているのなら、かなり厄介だ。
「基本的にそう言う奴らに話は通じない事が多い。しかも、実力や統率力は並みの強盗団とは比べ物にならん。死兵なら少なくとも戦場で生き残ったハズだからな」
遺跡都市でも一勢力に数えられているのなら、その規模や組織力も相当なモノだと想定できる。
「でも、俺たちなら問題ないだろ?」
歯を見せて笑うカイルの頭を俺はわしゃわしゃと撫でる。
「当たり前だ」
そう、実力的には問題ない。問題があるとすれば交戦したその後だ。
「マスターに期待しよう」
港町を出発して、半日。特に魔物などにも遭遇せず、検問をしている四人の『ギリス』騎士と遭遇した。
「帰れ、お前ら」
「はぁ!? 勝手に道を塞いでてそれかよ!」
カイルが停止を促した騎士に噛みつく。
馬車の中継停留所を簡易拠点にしつつ、遺跡都市へ向かう者を見定めている様だ。
「オレたちは『星の探索者』ってクランのメンバーだ」
「だからどうした?」
「何か話とか来てないか?」
「何も来ていない」
あれー? マスターはしくじったのか? 結構期待できる線だったんだけどな。
「理由くらいは話してくれないか? 引き返すにしても納得できん」
「話すことは何もない」
情報を徹底して相手に与えない。
“死兵”ってのは自暴自棄な兵士も多いハズなのに統率力はかなりのモンだ。ジャンヌ大佐ってのが相当なやり手か。しょうがねぇ。
「じゃあ、力強くで突破するわ」
抜剣。抜き放つと同時にオレは目の前の騎士を仕留めにかかる。
「……我々に剣を向けるとは……お前に生きて帰る選択は失くなった」
騎士は抜剣するとオレの剣筋を反らした。高度な指導の元に完成された剣技だ。寄せ集めの軍隊じゃねぇな。
「!」
その後ろから槍を持った騎士が踏み込んで来る。咄嗟に身を反らして避けるが、服を掠めた。こちらも洗練された槍術だ。
「やれやれ。厄介な――」
僅かに槍の騎士の背後に視線が見える。弓を構えている騎士が目に映った。
「面倒だな! ホントよぉ!」
飛来する矢をかわす。そこへ剣の騎士が間を繋ぐ様に斬り込んで来たので――
「『雷掌』」
手甲を着けてる手に雷魔法を纏い、押し返す様にぶつけた。
剣の騎士も手甲を間に入れて『雷掌』を受けきる。防護魔法が付与された鎧か。魔法ダメージは殆んどねぇな。しかも、射線を確保した弓と槍による繋ぎの連携が止まない。
「『閃光』」
カッ! とオレは一瞬だけ『雷魔法』の出力を上げて即席の閃光を発生させる。
こっちを注視していた事もあってモロに受けたハズ。オレは一旦距離を取る。
「……雷魔法を主体か。面倒だな」
連続攻撃は止まったが、敵にはノーダメーシ。こいつら、咄嗟に眼を閉じやがった。場数の経験値も相当に持ってやがる。
「ボルス! キキア! コイツは確実に仕留める!」
「了解、レクス少佐」
「射線被らない様に動いてよ?」
前哨戦は終わりか。まぁ負ける要素は1ミリも無いがな。
「カイル! 間をカバーしろ!」
「うお!?」
すると背後で愛弟子の声。見ると、四人目の若い男とカイルは交戦していた。
「ソーナ! 単独は慎め! 連携を――」
「そのおっさんは三人で行けるでしょ! こっちは……コイツを殺る!」
最後の一人は手甲で殴りかかる素手スタイルか。にしても、スゲー殺気だな。カイルに個人的な恨みでもあるのか?
「なんだお前! 俺に何か恨みでもあるのかよ!」
面識は無い様だ。知らずうちに因縁をつけられたパターンか。ウチの愛弟子は外では色々とアグレッシブなのか?
「あるわ……そんなバカみたいにデカイ胸ぶら下げて! ふざけんじゃ無いわよ!」
「はぁ!? なに言ってんだよ! お前!」
あぁ、ソーナ君じゃなくて、ソーナちゃんか。絶壁だから男だと思ってたぜ。
「アンタ同い年でしょ! ここで死ね!」
「意味わかんねぇよ!」
遺伝子の悪戯って恐ろしいね。ほら、レクス少佐も呆れて額に手を当ててる。
「カイルー」
「なにおっさん! コイツ強くて手が離せないんだけどっ!」
「じゃあ、そっちは任せるわ。オレは――」
オレの戦意を察したのか三人は再び臨戦態勢に入る。
「コイツらを殺る」
マスターに紅茶を持っていかなきゃならないんでね。悪いが死んでくれ。
「こんにちは。ジャンヌ大佐」
遺跡都市に展開された『ギリス』本陣のジャンヌの目の前に、唐突に現れたゼウスに対して全員が臨戦態勢に入った。
「なんだ?! このガキ!」
「一体どこから!?」
「外の奴らは何をしてる!」
降って湧いた様なゼウスの出現。
一人一人が達人レベルの騎士団全員が見逃す事は天地がひっくり返らない限りはあり得ない事だった。
「『星の探索者』のゼウスだな?」
「自己紹介は要らないわね」
「総員、持ち場に戻れ!」
ジャンヌの一声に全員が、ゼウスは客であると下されて殺気や武器を納める。
「窮屈そうね」
「【千年公】ゼウス・オリン。お前の噂は遺跡都市ならず、『ギリス』の歴史でも度々目に入る」
「なら話を急ぎましょう。遺跡都市を封鎖してる部隊に連絡して通して欲しい子達が居るの」
「……」
「元々無理な封鎖だし、割に合わないと思うわ」
「どういう意味だ?」
「貴重な部下を失うわよ?」
ゼウスの言葉にジャンヌは断言する様に次の命令を出す。
「ジルドレ!」
「はい、大佐」
細身で糸目の中年が現れる。
「『空挺』を使い、部隊を率いて封鎖部隊と合流しろ! 誰も通すな!」
「了解です」
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