第10話 待たない!
村で相手にするのは基本的に魔物だ。
飢えや縄張り意識と言った、理性ではなく本能が行動原理の魔物共に対しては、戦うと言うよりも駆除や追い払うのが主流となる。
だが、人間が相手となると――
「やっぱり、人間相手は昔を思い出すぜ」
全てが死に、全てを殺した……千年の戦争を――
剣を持つのがレスク。
槍を持つのがボルス。
弓を構えてるのがキキア。
そんでもって、あの若い絶壁娘がソーナか。
現場の指揮を執るのはレスクか。ならさっき殺れなかったのはちょっと面倒だな。
大型の魔物がたじろぐ気迫を飛ばしても怯むどころか、僅かにも剣筋が鈍る様子さえも無い。
相当な修羅場を抜けたか、日常的にこのレベルを受けているのか……
「しょうがねぇな」
レスクが陣頭にて斬り込み、ボルスとキキアも各々の射線を確保してる――
「おい」
投げ槍が飛んできた。見ると、ボルスの後ろ腰に持つ3本の投げ槍の一つが減っている。
レクスの近接と投げ槍がほぼ同時に来る。そして、死角に回ったキキアからも殺気が向けられる。
「中々に練度は高いな」
キキアは矢を撃って来ない。弓を引き絞って狙いを定めたままだ。お行儀が良いねぇ。
「!?」
途端にレクスが態勢を崩す。奴の踏み込んだ先の地面を土魔法で僅かに凸らせたのだ。
剣線が乱れたレクスの身体を『雷魔法』で威力を上げた前蹴りで押し返し、投げ槍を掴んで、振り向かずにキキアへ投げる。
「コイツっ!」
キキアは引き絞りを解いて回避。オレはレクスへ王手をかける為に踏み込んだ。
「お前からだ」
態勢は崩している。ボルスは動くが援護が間に合う前にレクスは殺れる。
「――」
風魔法で加速した剣を振り下ろす。しかし、レクスは剣でいなすまでは態勢を整えられた様だ。
「あばよ」
オレは次撃として『雷掌』を構える。狙いは身体。溜める時間があった分、威力はさっきの3倍強。魔法に耐性がある鎧とは言え、落雷レベルを鎧一つで止められるハズはない。
「――」
空気が破れる音と一瞬の閃光がオレとレクスの間で起こった。
「お前――」
「……」
なんとレクスは剣を捨て、両手でオレの腕を掴み直撃を強引に止めていた。
掴んだ腕から帯電し、筋力が落ちたにも関わらず――いや、コイツ……
「貰ったぞ」
『雷魔法』の使い手かい!
レクスはオレからの電位を受けて帯電しつつ、動きが高速化する。餌を与えちまったか!
レクスは腰からナイフを抜くと、逆手に持ち、オレへ突き立てる。
近接の攻防戦。巧みにナイフを持ち変えて向けてくるレクスの攻撃をオレも手甲で受けつつ下がりながら弾いて行く。
「お前は黙ってろ」
背後からの殺気にオレは土魔法にて簡易な壁を形成。矢が面倒なのでコの字に囲む。
「自らで退路を断つか」
下がれないオレをレクスは仕留めにかかった。オレは手を広げる。
「『音破』」
そして、手の平を叩くように打ち付けた。
発生した衝撃波は周囲の壁に反響し効果は倍増。更に全身を鎧で覆うレクスの内部では更に強く反響する。倍の倍。鎧でなければ耐えられただろう。
「かはっ……」
目や耳から血を流し、レクスは倒れると周囲の土壁も崩壊する。
「! レクス隊長!」
「少佐!」
ボルスとキキアは倒れたレクスを見て叫んだ。やられるとは想定してなかった様だな。
「カイル!」
「何!?」
死ねー! と向かってくるソーナに苦戦するカイルにオレは告げる。
「フォルテだ!」
「ちょっ! 待って!」
「待たない!」
「何……アタシを無視してんのよ!」
カイルはソーナを無理やり蹴飛ばして距離を空けると、隙を晒す事も辞さずに耳を塞ぐ。
「嘗めたマネ……してくれるじゃない!」
ソーナはカイルを仕留めにかかる。
オレは再び『音破』を発動。両手を強く打ち付け、周囲に超音波を拡散させた。
「はい、制圧ー」
「あぁ……くそ……ガンガンする……」
場に立っていたのはオレとカイルの二人。騎士団の四人はモロに『音破』を喰らって気を失って倒れていた。
「鍛え方が足りないぞ、我が弟子よ」
「耳を塞ぐ以外に対策があるのかよ……」
「気合いだよ。気合い」
「うぜー」
オレは馬笛を鳴らすと、戦闘に巻き込まない様に遠くに逃がしていた馬を呼ぶ。すると、トコトコ歩いてきた。
「行くか」
「コイツらは放置で良いのか?」
「奴らの任務はここの封鎖だ。それを放棄して追いかけてくる程、統率は乱れてない」
つまり、ここさえ抜けてしまえば基本的に手は出してこないだろう。
「一人、血を流してビクビクしてる奴いるけど……」
「あぁ、レクス君はオレに近接戦闘を仕掛けると言う愚行を犯したから、身をもって知って貰った」
駄目だぞー。相手が何を持ってるかわからないんだから。次からは音を消せる鎧でも着けて来るんだな。
「まぁ、コイツら数日は三半規管イカれてるから追撃はねぇよ」
「ま、待ちなさいよ!」
と、ソーナちゃんが立ち上がる。
「に、逃がさない……わよ! くっ……」
でも、ふらふらだ。そこでオレは一言、この場に縛り付ける言葉を放つ。
「仲間の手当てしてやれよ。じゃあな」
「おっさん……ちょっと肩貸して」
「ちょっ! 胸! 当たってる!」
「気持ち悪くて吐きそう……うっぷ……」
「止めろ! 吐くな!」
「くっ……こんな奴らに……」
茂みに寄って、カイルの嘔吐を少し手伝っていると、上空に何やら聞き慣れない音が。
「ん?」
「……ジルドレ中佐」
見上げると世にも珍しい六台の空飛ぶ魔道具――『空挺』に乗った騎士がこちらを見下ろしていた。
「あー、それで馬が無かったのか」
馬車道を封鎖していた奴らに移動手段となるモノが何も無かった理由が解った。
ジルドレと呼ばれた中年の騎士は場を一瞥する。降りて来ないのは評価点だな。射程距離に入ったら即座に殺してる。
「ソーナ二等兵」
音魔法。距離があるにも関わらず声が響く。
「他三名は死にましたか?」
ジルドレ中佐は倒れているレクス、ボルス、キキアの安否を聞いてくる。
「いや、気を失ってるだけだ。もっとも、レクス少佐は手当てしないと死ぬかもしれんがな」
代わりにオレが答えた。さーて、もうちょっと降りてこい。特大の『音破』で落としてやるからよ。
と、ジルドレは手を上げ、連れている部下に手を出さない様に合図をした。そして、
「御仁! お名前をお聞きしても!?」
「ローハンだ。こっちは弟子のカイル」
「おぇぇ……」
今は嘔吐で返事してますが、普段は元気な愛弟子です。
「ローハン……それにこの気配……【オールデットワン】か?」
お。懐かしいね。でも今は違う。
「オレの通り名は【霊剣】だぜ! ちなみに『霊剣ガラット』はここにある! まとめて落してやろうか?」
オレは吐いているカイルの背を指差す。カイルはそれどころじゃないが。
「降伏致します!」
そう言って、ジルドレは『空挺』部隊をオレの射程距離まで降下させた。
「我々の要求は部下の治療と回収です」
「おー、そう来るか。じゃあオレからは『空挺』一つと今後、遺跡都市において『星の探索者』に対する攻撃は禁止な」
オレの要求をつきつける。さてさて、ジルドレ中佐の判断やいかに。
「おぇぇぇ……」
そんなに効いたのか、カイルよ。仕方ねぇ。『音魔法』で少し三半規管の乱れを整えてやるか。
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