第261話 漲るリビドー

「来てますよ」

「数はどんなモンだ?」

「目測で250以上は居ます」

「250? なんだ、楽勝じゃん!」

「……いや、思った以上にヤバイかもしれん」

『何故です?』

「アイツらは『太陽の戦士』の実力を知ってるハズだ。250は少なすぎる」

「こっちはシヴァさんを欠いているとは言え、低く見積もってもこっちを殲滅するには1万は必要になりますか?」

「ああ。こっちの戦士は総数で70。『三陽士』を含める、 前線で安定した戦線を形成出来る戦士は20程だ」

「つまり、どういう事?」

「敵は必勝級の絡め手を持ってる。オレの想定通りなら間違いなくこっちに死人が出る。幾つかのプランは組んでるが……一番槍でどこまで牽制できるかで今後の戦局が大きく変わる」

『それじゃ作戦は――』

「ソニラの婆さんに出て貰う必要があるな。こりゃ」






 『夜軍』。

 出兵兵力数200。

 四貴族……グスリグ卿55。ペルベル卿45。ファルム卿50。ヴォール卿50。

 『ロイヤルガード』……メアリー20(実験体)。ミッド45(統括愚連隊)。ネストーレ30(医療従事者、非戦闘員)。クロエ5(フォース・メン・ナイト)。

 『夜王』……ナイト領兵50(後方補給線護衛)。

 総兵数350(内非戦闘員30)。総戦力・・――






 『夜軍』の進撃は兵士の疲労も考えて低速で行われた。目指すのはナイト領。そこで更に三日の休息を挟み『太陽の大地』へ本格的に侵攻する。


「お待ちしておりました。陛下」


 常に夜明けのような明るさのナイト領。

 ブラッドが王位に就いてからナイト領を管理していたルイスは出迎えると深く礼をしつつ、ブラッドへ頭を垂れる。


「今日までよくぞ、この地を管理してくれた。礼を言う」


 ブラッドは故郷の地を護り続けてくれたルイスに労いをかける。ルイスはルークの孫であり、祖父の死後も代々ナイト家に使えてきた従者だった。


「陛下のその言葉、我々には勿体なさ過ぎます。私は……あの時逃げる事しか出来ませんでした。陛下とアリシア様を護れず……本当に……」


 かつて、アリシアが死去した『太陽の民』の襲撃。あの時、跪いていた者の一人としてルイスは悲劇の全てを見ていた。


「何度も言わせるな。アリシアの件はお前達のせいではない。それどころかお前達はそれからもナイト領を護り続けてくれていた。おかげで、奴らの目と鼻の先に無傷で軍を寄せることが出来た」


 ブラッドはルイスの肩に手を置き、視線の先に見えるトーテムポールを見据える。

 燃え落ちた屋敷は解体され、今この地は更地。だがあのトーテムポールだけはまるで変わらない。


「陛下。我らナイト領兵士50。アリシア様を失った時より片時も練兵を怠った事はありません。『三陽士』さえも仕留めて見せましょう」

「私の命令があるまで後ろを護れ。機を見て共に行くぞ」

「ハッ!!」






「あー、ダメダメ。他とは寄せちゃだめよぉ? この子達に食べられたいなら別に良いけど~」


 『ロイヤルガード』は【夜王】の近辺に天幕を張る。しかし、各々の戦力は別の地点で待機させていた。

 中でもメアリーが追従させていた馬車は全て鉄で作られ、封印の魔法陣が書かれた特別なモノ。牽引する馬も一台六頭を必要とする程に、ナニが入っているのか解らないモノばかりだった。時折、ガタガタと動き、ィィィェェェ……と小さく中身が鳴く。


「お前ら良いか? メア姉の荷物・・には絶対に覗くなよ」


 メアリーの荷物の周りを、ヤベー……ヤベーよ……とミッドの部下達が怖いもの見たさにウロウロしていた。


「ミッドのアニキ。俺たちゃテンションやべぇぜ? 戦争やべー! アドレナリン出っぱなしだ!」

「ボルケス。メア姉に関わると文字通り、生きたまま骨の髄までしゃぶられるからな。マジで止めとけ」

「じゃあ、この漲るリビドーはどうすりゃ良い!? 危険な事をしないと収まらねぇヤツが大半だぜぇ!? クロエ様ならヌいてくれっかな。生で見るとマジでエロー」

「あの女はマジで止めとけ。冗談みたいな事を平然とやる女だ。それよりも、今にも暴走しそうなヤツを何人か連れて丘へ偵察に行ってこい」

「OKアニキ。おい! あの丘を越えるぞ! 参加するヤツは俺に続け! 太陽に向かって走るぞ!」


 ヒャッハー! と危険な事をしなければテンションを抑えきれない半グレの何人かは、ボルケスを先頭に丘へ走って行った。


「ミッド。何をやらせてる?」

「兄貴」


 暴走気味の半グレの行動を見たネストーレが呆れて声をかける。


「父上の作戦をちゃんと伝えたのか?」

「とにかくアドレナリンを出したがる奴らなんだよ。まぁ、しぶとさは一級品だから別に死なねぇって」






「全体的に固いわね」


 クロエは馬に乗り『夜軍』内部を移動しながらその雰囲気を感じ取る。

 各貴族達が精鋭を出兵させ、各々が強力な魔物の討伐実績を持つ強者たちだが、やはり『太陽の戦士』は格が違うらしい。

 物怖じする様子は無いが、必要以上に緊張している様が伝わってくる。しかし、そんな精鋭達とは別の“格”を感じる兵士達がいる。


「……ナイト領の兵士は更に格が違うわね」


 一人一人が『太陽の戦士』の最上位に匹敵する気迫がある。中にはカイルやレイモンドに比肩する気配を持つ者も居た。


「待ちわびた……と言う感じね。強さを引き上げるのは心構え……か」


 ローハンは良いとして、カイルとレイモンドはどれくらい腕を上げてるかしら。


 うぉぉぉぉぉ!!


「ん?」


 その時、丘上へ駆けて行く十数人の集団の声を耳にする。

 侵攻は三日後のハズ。斥候にしては派手過ぎるし威力偵察にしては戦力が少なすぎる。


 うわぁぁぁぁ!!?


 今度は吹き飛ばされているようだった。

 丘を越える半グレを遮る様に現れたソレに『夜軍』全体の意識が向けられる。






「ここより先は【極光壁】。越える事は不可能と知れ」


 近くのトーテムポールから現れたゼフィラは腕を組みながら丘下の『夜軍』を鋭い眼で見下ろした。

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