第123話 アンタがヤマトっスか!?
「列を、乱さ、ない、で」
カグラは主に徒歩での移動になる『エンジェル教団』の信者達を迎えが来ているポイントまで護衛していた。
老若男女の信者達は歩幅や体力が違う為、想定よりもだいぶ遅れている。しかし、重要なのは全員無事に進む事だ。
今現在、信者たちは山道を歩いており、森の中から魔物に襲われる危険も多々ある事から日が高い内に抜けたいのがカグラの本音だった。
「…………」
周囲の木々に『縄張糸』を展開。近づこうとする魔物はそれで牽制し、越えて来ようとした場合は『糸分身』で排除する。
数多の『糸分身』が長蛇の列を護衛し整理する。時折、カグラ本体も列の中腹から声をかけつつ周囲の安全と列の様子を常に気にかけていた。他にも護衛の者は居るが、七割はカグラの能力で危機を回避している。
その時、
「――――」
「もうじき森を抜けます。カグラ様のおかげで安全に――カグラ様?」
「この、まま、進ん、で」
安全の確認のために先行している『糸分身』が倒された。
ここは『バトルロワイヤル』ではない。制限の無い『糸分身』は本来のカグラの三割程の能力しか持たないが、この辺りの魔物は圧倒できる実力はある。
「どうしたのですか?」
「様子、を見、てく、る」
それが足止めさえも出来ずに一方的に散らされた。他の『糸分身』を寄せる? いや……列の全体の安全に関わる。
故にカグラは自分が本体が動く事が最良と判断。様子を見に最前列の更に先――山道を抜けた平地へ飛び出すと、
「うわ!? また出た!?」
手足の光る女がカグラを見て驚いた。女の足下には『糸分身』の残骸が残っている。
「貴女、はカグラ、の敵?」
「え? 違うッスよ?」
「…………一応、捕縛」
『糸分身』は散った際に対象に糸を付着させる。女の身体にも肉眼では捉えられない糸が付着しているので魔力を込めて『縄張糸』を発動。拘束する。
「うわっ!? 何スか!?」
「動か、ない、で。確認、する」
「んがっ!」
すると、女の四肢の光が強くなると力強くで『縄張糸』を引きちぎった。
「お嬢ちゃん! 何かやってるッスね!?」
「拘束、甘か、った、反省」
次は、関節、部を抑え、て力を入、れられ、ない様に、捕縛す、る。
一本で大型船を牽引出来る『糸』を力強くで外すなど、警戒するなと言う方が無理な話だ。
カグラは本気で女を捉えようと――
「セルギ、止まりなさい」
その後ろから女を制する声が場に通った。現れたのは冷ややかな眼を持つシスターである。
「彼女、アマテラスの眷属よ」
「え!? あの噂の!?」
「……」
カグラは新たに現れたシスターと目線を合わせる。
この人、雰囲、気が、暗く、て冷、たい。多分、殺し、屋?
「じゃあ、アンタがヤマトっスか!? 滅茶苦茶強いって噂の!」
「いや……セルギ、違うでしょ。ヤマトは――」
「ヤマト様は男性です」
更にその後ろから包容力のある女性が現れ、歩んでくると二人を追い抜き、一番前に出てくる。
「初めまして、カグラ様。私の名前はマリア。あちらの二人はセルギとソイフォンです。お迎えに上がりました」
キングの要請で本部からの迎えに派遣されたのは『トライシスター』の三人だった。
『遺跡都市』――『エンジェル教団』の敷地は閑散としていた。
普段は祈りや仕事に配給を受ける信者が往来しているが、現在は多くが本部へ向けて避難している。
残っているのは、志願者の中でも腕の立つ者達をキングが選定して残していた。
「…………」
敷地にある大聖堂ではキングがステンドグラスの光に照らされる“願いを叶える珠”を見ていた。
「良いのか? 保管庫に入れて厳重に固めなくて」
開いた扉から、ヒュオッとそよ風が吹くと同時に、スサノオが列席に座っていた。
「この場所は主が我々を見ています。その眼下こそ、最も尊くあり、そして護らねばならぬ場所なのです」
キングにとって、最も力を発揮できる場所は多くの信者達が祈りを捧げ、“主”が見ているとされる大聖堂の
「スサノオ殿。貴殿方が『エンジェル教団』へ入団した意味はこの瞬間に証明されるでしょう」
「正直な所、“我が君”は『的当て』で最初に所属する組織を決めたんだ。だからあんまり深く考えない方が良いぞ」
「それで『エンジェル教団』が当たったのは主のお導きでしょう」
「ものは考え様だなぁ……」
まぁ、キングが納得してるならそれで良いか。
「キング司祭。俺は声をかけてくれた事を光栄に思いますよ」
そう言いつつ大聖堂の扉から入ってきたのは【氷剣二席】クァン・タール。彼は戦力増強として『エンジェル教団』の陣営に雇われていた。
「クァン殿。我々の
「気にしないでくれ。より高みへと研鑽するには茨の道ではなく、崖を歩かなくては」
クロエの実力を目の当たりにしたことでクァンは己の未熟を強く恥じた。そして、生半可な鍛練では到底追いつけない事を悟り、戦地に身を投じる事にしたのだ。
「キング殿ぉ! なぜ、拙者にも声を掛けてくださらないぃ!?」
大聖堂に響く程の声を放つのは、着物に袴を履き、背に長刀を持つ若い侍だった。
「
「信者の護衛はカグラ殿と他の戦士達で十分でござろう! 拙者は、我が師……ヤマト殿と共にキング殿を護りますぞ!」
「同郷か。また、うるさいヤツが来たな」
「ややっ! これはスサノオ殿! ジパングでの貴殿方の活躍は『百鬼夜行』で存じておりますぞ! あの時、拙者は10にも満たぬ童子だった故……しかし! 今回は違いまする! 是非刮目を!」
「あー、分かった分かった」
スサノオは耳を塞ぎながら声量の大きい鋼次郎の声に答える。
「残った戦士の方々はこれだけですか?」
「…………」
そこへアマテラスとヤマトが現れ、場の空気が一気に変わった。
「――彼女が【天光】アマテラス……『始まりの火』か」
クァンはアマテラスの姿を見て、自分達とは別のモノである事を肌で感じとった。
「ガリア様と同じ雰囲気。偽り無き『創世の神秘』の様だな」
「天光様ァ! まさか……異国の地で貴女様を拝む事が出来ようとは! そして、我が師ヤマト殿! お二方! 拙者の活躍を見ていてくだされ!」
「ヤマト、いつの間に弟子を?」
「……知らん。勝手にこの男がそう名乗っているだけだ」
「あらあら、そうですか」
キングは“願いを叶える珠”から大聖堂に集まった面子へ向き直る。
「今日、『龍連』は攻めてくる」
「確かか? キング」
「【トライシスター】を要請したのです、ヤマト殿。カグラ殿がこちらへ戻れる様に。そして、その情報を然り気無く“流し”ました」
カグラが居るだけで防御力の桁が羽根上がる。故に『龍連』にとって絶好の機会を
「最も犠牲を出さずに終らせる。各々は事前に話した通りに動いて欲しい」
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