第140話 二度とゴメンだぜ

「地真、大丈夫か?」


 オレは一通りの葬儀が終わり、カイルも落ち着いたので、龍天の爺さんの灰を受け取っている地真へ声をかけた。

 身内よりも、外から話しかける方が良い時もある。


「ローハン殿。ヤマトの件は世話になった」

「全くだ。二度とゴメンだぜ」


 地真は深々と頭を下げてくる。我ながら、今思えばとんでもない事をしたモンだ。


「『星の探索者』の者も、父に良い時間をくれたそうだな」

「気の良い爺さんだったよ」


 泣いていたカイルや他のクランメンバーにも爺さんの事で、『龍連』の面々はお礼言っていた。

 オレの金貨100枚は……爺さんの葬儀代って事にしておくぜ。


「それで、今後の『龍連』はお前が率いるのか?」

「当然そうなる。先代の作った絆を俺は近くで見てきた。統率の仕方もな。だが……それでも【空を落とす龍】の“威”は替えが効かない。しばらくは暗黒社会も荒れるだろう」

「問題は無いんだろ?」


 オレの質問に地真は、頭目ぅぅ! と未だ泣いている部下達を見て微笑む。


「ああ。何も問題はない。俺は【大地を食らう龍】王地真だ」

「それなら別に良いが。『エンジェル教団』は敵に回すと面倒だぞ?」

「ああ。解っている」


 世界中に信者が居り、多くの有権者からも支持されている『エンジェル教団』。世界規模の組織との抗争は後の『龍連』にとってはマイナスな状況だろう。早速、腕の見せ所だな。





 あの後、『エンジェル教団』と『龍連』は代表であるキングと地真の話し合いが行われた。


 『龍連』の頭目――王地真は『エンジェル教団』に対して和解を求めた。

 対する『エンジェル教団』の遺跡都市支部の臨時責任者であるキングは、龍天の崇高な行いを高く評価し、『龍連』の差し出す手を無条件で受け入れた。

 龍天の爺さんは、身内だけを甦らせる事も選べたハズなのに、死した者すべての復活を望んだのだ。その事をキングは考慮しての事だ。

 しかし、信者達全てが納得したワケではなく、『龍連』は遺跡都市を撤退する事を選択。

 『龍連』は暗黒社会に戻り、『エンジェル教団』とは“同盟”と言う形で今後は関わっていくそうだ。


 “同盟”の証人として立ち会ったマスターからその様な話を聞いて、ようやく“珠”を巡る話しは終わった――と言うよりもまだ少しだけ余談が残っている。






「はい、ジャンヌ」


 『ギリス』陣営に効力を失った“願いを叶える三つの珠”をゼウスは届けていた。

 場所はジャンヌの司令部テント。やっほー、と不意に現れたゼウスに部下たちは驚くがジャンヌは、やれやれ、と“珠”を受け取った。そのまま遺跡都市の勢力図を表す戦略テーブルに置く。


「約束通り、“願いを叶える珠”は譲るわ。これで、貴女たちも帰れるのでしょう?」


 願いはもう叶える事が出来ない。

 今の“珠”は僅かに魔力を感じるが、脱け殻の様に色と光を失っていた。


「…………ああ。礼を言う」


 ジャンヌの目的は“願いを叶える三つの珠”を手に入れる事。別に願いを叶える事じゃない。


「【千年公】。興味本位で一つよろしいでしょうか?」

「なにかしら? ジルドレ」


 ジャンヌと共に立ち会っているジルドレはゼウスに素朴な疑問を投げ掛ける。


「“願いを叶える珠”は何故、遺跡都市から持ち出されないのでしょうか? 遺跡都市の外で、その様な珠を所持していたと言う話は全く聞きません」

「そうね。その“探索”はもうまとめたから、貴方達には話しましょうか」


 ゼウスは『遺跡』と『願いを叶える珠』の関連性について語る。


「もちろん、“珠”はアーティファクトよ。『遺跡内部』から手に入れる以外に入手する事は出来ないわ。そして、“珠”は遺跡内部で作られてる。ここまでは良い?」

「基本的な情報だ」


 ジャンヌはテーブルに寄りかかる様にゼウスの言葉に集中する。


「今回の調査で解ったのは『遺跡』は装置であり、そして祭壇でもあるの」

「祭壇?」

「『遺跡』の層は各々の生態系に分かれた世界へと繋がっている。その層一つ一つからエネルギーを得て『遺跡』は世界と世界を繋ぐ中継地として機能している」

「途方も無い話だな」

「そうね。空挺があるでしょう? アレは最初は『遺跡都市』周辺しか起動しなかった。何故だと思う?」

「……『遺跡』が他の世界から得たエネルギーを利用していたのか?」

「ええ。わたくしが改良して動力源魔力に変える事で遺跡都市の外でも機能する様になった」

「つまり、『遺跡』には他世界のエネルギーが溜め込まれていると?」

「そうよ。そして、溜め込み過ぎればいずれ許容量を超えて爆発してしまう。故に“願いを叶える珠”が生まれた。そして、“珠”は『遺跡』近辺で使用しないと意味がないの」


 一部の事象を書き換える程の力。ソレを万象に作用させる為のエネルギーは数値で表すことは不可能だろう。


「……人の“願い”とは、安いモノではないと言うことか」

「貴女達が国へ還る。それは貴女たちにとっては何よりも価値のある願いのハズでしょう?」


 世界に対して己の“願い”を通す。

 人はそれだけの為に生涯を費やす者も山ほどいる。


「ゼウス、私からも一つだけ教えてくれ」

「どうぞ」

「もしも、“珠”への願いが『誰かを殺したい』と言うモノだったらどうなる? 狙われた奴は有無を言わさずに死ぬのか?」

「あくまで、“珠”が効果を及ぼす事象は『遺跡』近辺に限るわ。範囲としては遺跡都市くらいね。もし、それよりも外に対する事象は基本的には起こらない」

「限界はある、か」

「けれど“願い”は叶うわ。『遺跡』の溜め込んだエネルギーを全て抱えた“不明物アンノウン”が現れ、ソレを成就するでしょうね」

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