第78話 あたしをマスターの“眷属”にしてくれない?

「と言う感じなの。その後、ベルファストに行ったらローが現実を見て病んじゃって、それで『星の探索者』を創ったの」


 マスターは一通り話を終えると質問コーナーな意味で皆にココアを淹れる。ただし、ボルックはココアをどう処理して良いか少し困ってるな。


「色々と聞きたいことはありますが『夢界ドリームバース』とは一体何なのですか?」

「カテゴリーは『夢魔法』ね」

「『夢魔法』……」


 レイモンドは数多の情報も流通する『ターミナル』の出身だ。『夢魔法』など初めて聞いただろうし、疑問に思うのも無理はない。

 正直な所、無茶苦茶な魔法なのだ。攻撃系でもなく強化系、付与系、妨害系でもないマスターのオリジナルと言う事もあるが。


「マスターのオリジナルだよ。干渉するのは世界だと言われてる」


 眷属であるオレが補足する。


わたくしって皆に比べて小さいでしょう? だから大切な人たちを護れる魔法を創ったの」


 しれっと新たな魔法を創っちゃうんだよなぁ。


「じゃあ、前に『エンジェル教団』に行った時も――」

「アレは『夢歩ドリームウォーカー』ね。世界の認識から対象物を外す効果があるわ」

「それなら、前におっさんと寝た時に現れた時も?」


 娼館に一晩泊まった時の事をカイルは思い出す。すると、サリアとクロエが顔を向けて来た。


「師弟のスキンシップだ。勘違いすんな」


 とは言え……アレはヤバかったけどな。マスターが『夢魔法』を使わなかったら間違いなく一線越えてたぜ……


「アレは『夢人ドリーマー』。身内の夢に入る魔法で、発動したら対象者は眠りにつくの」

「へー。凄いけど『夢魔法』って強くなさそうだ!」


 脳筋カイルには『夢魔法』のヤバさが理解出来ないか……

 そんなカイルの反応にマスターはコロン、と嬉しそうに微笑む。


「そうね。『夢魔法』は誰かを傷つける為に生まれたワケじゃないの。世界の歪みから生まれる“理不尽”を覆す魔法なのよ」

『良くも悪くも、マスターの慈愛精神がそのまま形に成ったと言う所でしょうか?』

「ふふ。ありがとう、ボルック」

『いえ』

「それならさ! おっさんとゼウスさんって世界中の魔法が使えるのか?」

「お、何でそう思った?」

「だって【原始の木】ってめっちゃ頭良いんだろ? ソレを使えるゼウスさんとおっさんだったら、何でも魔法使えるじゃん!」


 脳筋愛弟子が魔法に関して興味を示し出すのは良い事だが、マスター=【原始の木】と言うところまでは追い付いていないか。


「それは無理ね」

「え? そうなの?」


 ゼウスはキランッ、と顎に手を当てて否定する。オレも少し補足を入れた。


「言うなれば【原始の木】はデカイ本棚みたいなモノだ。大量の知識が目の前にあってもどれを取れば適切なのかは当人の資質による」

「いくら天才でも全ての知識を修める事は出来ないわ。人には適した知識があるの。魔法も同じね」

「うーん……よく解んないなぁ」

「つまり、オレ達がいくら“飛べる知識”を持ってたとしても翼が生えて鳥みたいに飛べるワケじゃないって事だ」


 知識とはあくまで生きていく為の下地なのだ。


「でも、ローは皆の真似が得意よ」

「全部劣化コピーみたいなモンですけどね」

『他の【創世の神秘】が使う魔法の事か?』


 ボルックはオレが使用する中で桁の違う魔法の事を上げた。


「あー、アレな。あんまり効率は良くないんだ。一日、一発打てれば良い程度だし」


 アレを一撃見舞うなら、他の魔法を小出しに搦め手を増やした方がやり易い。


「それでも再現出来る所が頭おかしいのよ」


 サリアの毒が飛んできたな。


「ふふ。ローの才能ね。わたくしには他の【創世の神秘】が編み出した魔法は使えないから」

「そうなの? マスター」


 クロエが意外だと言わんばかりに告げる。


「ええ。これに関しては少し複雑なの。説明も……難しいわ」


 世界を形作る【創世の神秘】の正体を理解すれば納得できるのだが、眷属以外にソレを“認識”するのは難しいのだ。


「簡単に言えば、手から声は出せないって所ですかね?」

「うーん。もう少し砕いた解釈ができそうだけれど……」

「……マスター、お願いがあるんだけど聞いてくれる?」


 と、『反省中』のサリアが神妙な表情でオレとマスターを見る。ちょっとウケるな。


「あたしをマスターの“眷属”にしてくれない?」






 これまで、マスターが自分の事を深く話さなかった理由は幾つかあるが、一番懸念しているのは“眷属”の問題だった。

 

「あたしをマスターの“眷属”にしてくれない?」


 そして、サリアの様にマスターを敬愛し、更に深い関係になって生涯尽くしたいと思う存在が現れるのは必然的だろう。しかし、


「サリア、それは出来ないわ」

「! なんで!?」


 ま、当然理解出来ないわな。コレは“眷属”にならなければ解らない話だ。


「……あたしがマスターの命を狙った『エルフ』だから?」


 『エルフ』はマスターとは切っても切れない宿業のような存在かもしれないが、そう言う事ではない。


「違うわ、サリア。【原始の木わたくし】だけじゃないの。【創世の神秘】全ての“眷属”に言える事なの」

「“眷属”ってのは端から見れば【創世の神秘】から最も近くで加護を受けられる存在に見られているが、実際は少し違うんだ」


 【創世の神秘】は各々で役割は違う。

 【創生の土】は森羅を調整する主君と配下。

 【星の金属】は武を極める師と弟子。

 【始まりの火】は物語の先導者と抑制者。

 【呼び水】は罪人と審判官。

 【原始の木】は知識の管理者と利用者。

 中でも、“眷属”として最も自分・・が失われてしまうのは――


「【原始の木】の“眷属”は人の持つ個性を失うの」

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