第37話 ネイチャーからの依頼
「遺跡に入る前に【千年公】から内部の“冬”に『炎剣イフリート』があるって話を聞いてさ」
「え? ゼウスさんから?」
ここまでの経緯を語り出した冒険者の一人にカイルが問う。
クランマスターは、遺跡の中にある出店にはちょくちょく顔を出しており、良く出入りする冒険者とは、それなりに顔見知りらしい。
「なんか不機嫌にぷんすかしてたから、事情を聞いたら『炎剣イフリート』を見つけたって教えてもらったんだ」
あー、多分、エロジジィに尻を触られて『雷霆』ぶっぱなしたんだろう。そのままシャドウゴーストに遺跡から追い出された帰りか。
「飴をあげたら【千年公】も色々と情報をくれてさ。炎を操れるヤツを連れて行った方が良いとか、現地のイエティは良いヤツらとか」
飴で機嫌も治って情報もあげるとは、ホントに楽しそうだこと。
ちなみに勘違いされがちだが『炎剣イフリート』に最も効果的なのは炎魔法の使い手なのだ。炎を消す方面で考えると、魔法ごと消し飛ばされる。まだ、炎のコントロールに長けた者が相手をする方が勝算は高い。
「持って帰ってきたら鑑定もしてくれるって約束もしてさ」
「それで炎系の魔法を使える二人を探して、なんとか手を組んで、遺跡にもぐったんだ」
「なにせ『七界剣』だぜ! 孫の代まで遊んで暮らせる金を手に入れるチャンスが目の前にあるなら、アーティファクトをチビチビ集めるのは馬鹿らしくなるだろ?」
「わかる」
そこんとこは共感出来る。オレは、ガシッ! とそいつと握手した。
「他のヤツに情報を握られる前に遺跡に潜ったんだが……冬の季節に当たらなくてな。下層まで目指したんだけど、結局、夏夏春だったよ」
「そんで中層でこの本のアーティファクトを見つけたから、せめて他のアーティファクトでも探そうと思ってよ」
遺跡内部は、下層に行くほど難易度が上がるワケではない。ただ、“願いを叶える珠”が下層にしかないと言う噂が強い為、皆下層を目指すのだ。
『だが、この場所ではアーティファクトは望めないな』
ボルックが彼らの心境を口にする。
この下層は鬱蒼とした森林世界だ。
オレらがやってきた塔のような人工物はあるようだが、殆んど機能していないだろう。
「そうなんだよ。三日くらい探して回って収穫ゼロ。そろそろ帰ろうかと思ったらネイチャーが現れてさ」
「最初はガチでビビったよな」
「俺はちびった」
遭遇したと言うよりも向こうから接触するように現れたらしい。
「滅茶苦茶ワケわかんない言葉で話しかけて来けど、このアーティファクトで何とか言いたい事がわかったんだ」
「この本、声をそのまま文字にして表示するみたいでな」
「最初はハズレかと思ったけど、意外と役に立ったぜ。ページ制限はあるけどな!」
『見せてもらえるか?』
「おっと、そいつはタダじゃ無理だな」
チッ、ちゃっかりしてやがるな。まぁ、逆にそれくらいの警戒心があった方が信用できる話か。しかたねぇ、少しつついて見るか。
「おいおい。こっちはお前らのアーティファクトの鑑定をマスターが優先してくれるんだぜ? それに、『炎剣イフリート』の情報を一番に教えたのもマスターだったよな? その見返りくらいは返しても良いんじゃねぇか?」
「ぐっ……」
「ソレを言われると……なぁ」
「け、けどよ! この情報は……マジで釣り合うモノが無いんだって! そっちも何か提供してくれよ!」
正直な所、ネイチャーが何を言ったのかはクロエの救出に左右する情報だ。
少なくともヤツは『人樹』を指差してたワケだし、重要な事を言った可能性も否めない。
「うーん。俺は提供できる情報……情報……特にないなぁ」
「そう言うのって、基本的にスメラギさんとかマスターが専売特許ですからね……」
『ふむ。ベースキャンプの端末に接続できれば交渉の材料に出来そうな情報は検索できるのだが』
流石にこの場でコイツらが交渉に乗る情報は提示できないか。仕方ねぇな……
「コイツと交換と行かないか?」
オレは背に持って来た『炎剣イフリート』を三人の前に差し出す。
「ん? なんだ、その剣」
「『炎剣イフリート』だ」
オレがそう言うと、三人は顔を見合わせて、HAHAHAと笑った。
「そんな、都合よく持ってるわけねぇだろ?」
「俺らを馬鹿にするのも大概にしろよ?」
「【銀剣】のスリーサイズを教えてくれたら考えても良いぜ!」
こいつら……しれっとカイルに目線向けやがって。胸見んな。殺すぞ。
「ボルック、あのジジィとの映像出せねぇか?」
『一部分ならメモリーに残っている』
「こいつらに見せてやってくれ」
「こ、これ……マジか……」
「ま、まさか……【霊剣】が【千年公】並みに強いってのはガチだったのか……」
「これで……シャドウゴースト出てないのマジ?」
「マジだ、コラ。そんなに疑うなら、コイツを抜いて見ろよ。燃えるか、所持者になるかの二択だ。分かりやすい証明になるだろ?」
ほらよ、とオレは『炎剣イフリート』の柄を三人に差し出す。
「い、いや! 信じるよ!」
「流石にコレを見せられたらな!」
「今後とも仲良くしてくれ!」
やれやれ。そして『炎剣イフリート』をポイッと投げると冒険者どもはキャッチ。代わりに『本のアーティファクト』を差し出した。
「ネイチャーとの会話は一番後ろのページだ。この『炎剣イフリート』とつり合う情報なハズだぜ」
「そうかい」
オレらはページを開いてソレを読む。
“我はネイチャー。父の言葉により自然の管理を引き受ける万象である。諸君らにはあの『人樹』を攻略してもらいたい。我は彼らには手を出せぬのでな。アレは我が植えたのだが、扉は外から来た者にしか開かぬ。無論、報酬を払おう。前金としてこの森で火を炊く事を許す。後金としては下層にて見つけたこの“願いを叶える珠”をやろう”
「ネイチャーって結構まともな事言ってたんだな」
「色々と情報が多いですが……」
『我々と遭遇した時の状況からして、同じことを言ってきた可能性が高い』
「クライブよりも紳士でウケるわ」
つまり、冒険者たちへの前金は火を炊く事で、オレらの場合は……カイルが食べてた果実か。そんでもって最終的な報酬は“願いを叶える珠”と。
ネイチャーからの依頼かよ。状況に遭遇しなけりゃ、誰も信じねぇぞ。
「完全に棚からぼた餅だったぜ!」
「何せ、“願いを叶える珠”だ!」
「【千年公】に鑑定してもらって、オークションに出せば孫の孫の代まで遊んで暮らせる!」
今、遺跡都市では“願いを叶える三つの珠”はかなり注目されている。三人の見立ては間違いではない。
『だが、ネイチャーの言う“『人樹』の攻略”と言う具体的な内容が記載されていない』
ボルックの指摘はもっともだ。
ネイチャーのやって欲しい事と報酬はわかったが……どのような結果を望んでいるのかが未だに分からない。
「いや、オレらもさ。ネイチャーが去ってからこのアーティファクトの効果に気づいてよ」
「そもそも、聞き返す度胸なんて無かったし」
「焚き火をつけた所に現れたもんなぁ、マジで漏らしたぜ」
さっきから漏らした事を強調してくるヤツは置いといて、もっと情報が欲しい所だ。
「そんでよ、取りあえず『人樹』にアタックしてみたんだ」
「結果は?」
カイルが尋ねる。冒険者三人は『炎剣イフリート』を手に入れたからか、情報は全部話してくれた。
「惨敗」
「なんか滅茶苦茶強い、女型の『枝人』がいてよ」
「水の付与魔法を使っててさ。プシロンとバーンも殺られたんだ」
「バーン? 【炎の魔術師】の?」
おいおい。結構名のある魔術師が来てたのかよ。しかもプシロンも……大枚叩いたな、コイツら。
「え? 誰だ?」
『バーンは『魔法連盟』でも名のある魔術師だ』
「プシロンは『剣陣会』でも“炎剣”の六席だよ」
強さと自分の回りにしか興味の無いカイルにボルックとレイモンドが捕捉する。
プシロンも上から数えた方が早い。二人とも、あっさり殺られる様な奴らではないが……火が弱点の『人樹』って事で油断したんだろうな。それよりも……
『ローハン』
「ああ、分かってる」
水付与を使う女型の『枝人』……クロエはまだ生きてるな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます