第200話2 BULLET 中編(200話記念外伝)

 お前の名前は?

「さりあ……」

 俺の名前はエルガン。サリア、今日から俺がお前に技術を与える。お前の存在意義となる技術だ。

「……こわいものですか?」

 怖くはない。敵と向かい合う必要もない。的を撃つ。ただそれだけだ。

「……がんばります」


 “親無し”の中であたしを選んだ師匠は優しい言葉や褒めてくれた事は一度もなかった。






「患部除去! けど血液が酸化を始めてる!」

「ロー! 聖水を点滴して!」

「血管に流すモンじゃない! 死ぬって!」

「バジリスクの溶解毒もそうよ! 相殺できるの!」

「あぁ……もう、マジで知らないからね!」

「同時に血液洗浄をするわ! 簡易循環液に増血薬も同時に投与!」

「投与量の微調整が神業レベルで必要なんだけど!?」

わたくしが指示するから、その通りにやれば大丈夫!」


 貴女の事をわたくし達の何も知らない。

 けど、その命はわたくし達となんら変わらない、尊いモノだから――どんな理由があっても自ら死を選ぶ様な真似はしないで……生きる事を諦めないで!






「…………」


 サリアは目を覚ました。しかし意識はまだ混濁しており、ぼーっと視線をテントの天井を見つめる。

 喉には管が通っており、それが空気を肺に送っている。全身が自分の身体でない様に動かない。


 ここは……どこだ? あたしは――


 記憶が一気に甦る。

 クロウによりゼウスの狙撃に失敗。ローハンの襲撃を受け、クロエに両腕を落とされた。そして……奥歯に仕込んでいたバジリスクの溶解毒を飲み、全身の体液が酸になって溶けて死――


「すー……すー……」


 小さな寝息に唯一動く首を動かすと、標的ゼウスが寄りかかる様に眠っていた。

 

「動けねぇだろ? 全身麻酔だ」


 第三者の声に目線をゼウスの後ろに立つローハンへ向ける。


「『バジリスクの溶解毒』なんぞ飲みやがって。患部を切除して血液クリーンまでしたんだ。マスターが助けるなんて言わなかったら溶けるまで放置してたからな」

「…………」


 サリアは腕を見る。クロエに切断された両腕は綺麗に結合されていた。すると、ローハンは空気を送る管を握る。


「一つだけ答えろ」


 唐突に息が出来なくなるが、それでも身体は動かない。サリアは空気を求めて荒く呼吸し、覗き込むローハンを見つめ返す事しか出来ない。


「お前は一人か?」

「…………」


 心臓が早鳴る。息苦しさが徐々に迫る死を感じさせた。


「Yesなら首を縦に触れ。NOなら横だ」

「ハッ……ハッ……フッ……フッ……」


 サリアは首を動かさない。元より死ぬつもりだったのだ。ここで死ぬのは怖く――


 生きる事を諦めないで!


「――――」


 サリアがゆっくり首を縦に振った。その様子にローハンは管から手を離す。


「ハー……ハー……ハー」


 呼吸が戻り、肺が必死に酸素を取り込む。


「う……うーん……」


 そのやり取りにゼウスは目を覚ました。そして、サリアを見る。


「あ、目を覚ましたのね。もう大丈夫よ。全身麻酔で身体は動かないだろうけど、半日もすれば身体は起こせる様になるわ。腕も綺麗にくっつけたから、リハビリすれば元通りに動かせるようになるからね」


 ゼウスは、頑張ったわね、とサリアを撫でた。サリアは驚いた様子でゼウスを見つめると、疲れたのか目を閉じる。


「…………」

「……マスター、オレは寝るよ。生活リズムが乱れてるんでね」

「ええ。ロー、ありがとう。わたくしは彼女を診ておくわ」


 ローハンは欠伸をしながら片手を上げつつテントから出た。






 半日間、体内に入った『バジリスクの溶解毒』を除去すると言う、医療従事者が聞いたら死体を触るに等しい行為を延々と続けて『エルフ』の女を助けた。

 オレはテントから出ると外は良い感じに深夜になっている。

 海岸に作ったベースキャンプの回りには『土壁』を形成して即席の壁で囲って更なる襲撃に備えていたが、杞憂に終わったようだ。


「ローハンさん」

「クロウ、まだ起きてたのか」


 ベースキャンプの中心で焚き火を見ていたクロウは少し神妙な様子でクロエと共にいた。すると水を差し出してくる。


「さっきまで寝てました! 『エルフ』の人は……」

「助かったよ。マスターが執刀しなかったら間違いなく死んでたけどな」

「ローハン、彼女について何か解った?」


 オレは水を飲みながら周囲の状況を見る。クロエは何も言わずに見張りをやっててくれたみたいだな。


「情報は拾えた。あの女が飲んだのは『バジリスクの溶解毒』だ」


 『荒地の底無し沼アンダーダスト』。そこに住む『泥蛇竜バジリスク』は獲物を確実に仕留める為に強力な“溶解毒”を体内に持つ。それを使い、獲物の手足を溶かして動きを封じて丸のみするのだ。

 ちなみに溶解毒で骨まで溶かすのでその排泄物は程よい養分にもなるらしく、『荒地の掃除屋』とも言われている。


「『バジリスクの溶解毒』はアスラが採取しなきゃ市場には出回らない」


 そもそも『バジリスクの溶解毒』なんて人体に入れるモノじゃない。アレは侵攻毒の一種で、入手も保存も扱いが難しいのだ。

 一般的には錬金術の材料として少量だけ使われる。(その稀少性から相当に値が張る)


「結論は?」


 クロエは余計な推測よりも、状況のまとめを求めてきた。


「高度な技術を持つ組織が背後にいる。その狙撃銃やあの女の装備を見る限り、まぁ種族的にも『エルフ』だろうな」

「『エルフ』……」


 クロエは神妙な様子で情報を噛みしめる。そりゃそうか。大丈夫だと思っていたクランで最愛の家族の命が危機に晒されたのだ。


「お前が両腕を切り落としたのは訓練も十分に受けた熟練兵士だ。任務に失敗したら即座に命を立つ事に躊躇いがない点も含めてな」


 オレは近くの椅子代わりに寄せた流木に座ると空になったコップを近くのテーブルに置く。


「クロエ、クロウ。別にクランを脱退してもいいぞ。マスターと『エルフ』は切っても切れない因縁がある。見ての通り、奴らは現代では対応出来ない技術を使ってくるし、今回の件で失敗したとなれば矢継ぎ早に次の刺客が来る」

「…………」

「だから、巻き込まれる前にクランを去ることをお勧めするよ」


 しかも、その当事者を助けたのだ。クロエからすれば理解に苦しむ状況だろう。


「彼女は相方か、もしくは何かしらの支援と共に来ているの?」

「いや、一人だそうだ」

「そう答えたの?」

「まぁな」

「信じれる?」

「……嘘なら殺すまでだ」


 オレは【オールデットワン】が湧き出そうになる。クロウも少し怯えた様子から相当な殺気が出てただろう。

 オレは、パッといつもの調子に雰囲気を戻す。


「……何にせよ、クランの脱退はマスターも止めないだろう。仕方のない状況だ」

「貴方達はこれからどうするの?」

「あの女の回復を待ちつつ情報を集める。今回の一件ではっきりした。『エルフ』はマスターの命――と言うよりは『知識』を狙ってる。情報を集めたらマスターが止めようともオレが全部片付けに行く」


 こんな状況でもマスターは自分からは手を出さないだろう。だからオレがやるのだ。


「そんな。それじゃ『星の探索者』は……」

「実質解散だな」


 クロエとクロウが去り、オレが単独で『エルフ』を片付けに動けば『星の探索者』は成り立たなくなる。


「ローハン、貴方はそれでいいの?」

「仕方ねぇだろ。マスターがこれから狙われ続ける方が問題だ。それに……オレ達の存在がマスターの弱点になる可能性もある」


 だから的を分散させる。そうすれば相手の戦力と意識を分ける事ができ、マスターだけなら襲撃者へはいくらでも対応できるだろうからな。


「…………僕は――」

「私は残るわ、ローハン」


 クロウが何かを言う前にクロエが割って入る。


「『星の探索者』はクロウが身を置くには二つと無いクランなの。人手が要れば解決できるのであれば手を貸すわよ」

「姉ちゃん……。ローハンさん! 僕もゼウス先生とローハンさんと別れるなんて嫌です! 何か手伝わせてください!」

「お前ら本気か? 『エルフ』の女の装備を見ただろ? 『エルフ』は時代が違う兵器を持ってるんだ。どうやっても一歩出遅れる。クロエ、殺し合いでそれが致命的だとお前は解るだろ? それにクロウ、お前死にかけたんだぞ」


 その事実は変わらない。これからも同じ様な事が起こる可能性は十分にあるのだ。


「でも、今は生きてます!」

「ローハン。貴方はクロウに“どこまでも連れて行く”と約束した。その言葉を嘘にするのかしら?」

「……お前らな……揚げ足取る様な事ばっかり言いやがって」


 クロエとクロウは『星の探索者』を去るつもりは無いらしい。

 これはマスターが作った絆なのか。

 それともオレ達の中では利害で割り切れる様な関係では無くなったのか。

 どっちにせよ、【オールデットワン】一人で戦ってた時よりもずっといいな。


「解ったよ。取りあえず指示を出す。そんでもってオレは眠るから細かい話は起きてから詰めよう」

「はい!」

「ええ」


 現状できる最低限の防御策を取って……一旦寝よ。


 




「エルガン。首尾はどうだ?」

「連絡がない。失敗し、死んだ」

「なんだと……【魔弾】は我々が1世紀半かけて作り上げた“弾丸”だったハズだ! お前の指導も実戦経験でもあらゆるシュミレーションで……100%の成功が出ていたのだぞ!?」

「その計算が間違っていたのだろう。族長には前々からゼウス周りの要素も不確定要素として計算に入れるべきだと俺は進言していたぞ」

「……族長は『叡智ゼウス』以外は恐れるに足らないと考えていた。まさか……」

「クロウ・ヴォンガルフが偶然・・射線と重なり【星の金属】の義足に付与されていた防護魔法が弾丸の貫通を弾いた。ローハン・ハインラッドが『 叡智ゼウス』の眷属だった。そして、クロエ・ヴォンガルフがサリアを捉える程の『音魔法』を要していた。下調べは十全ではなかったな」

「あり得るのか……そんな事か……」

「あり得た故に今の結果が存在する」

「くそ……もう後には退けん。ここで『叡智』を仕留めなければ!」

「……俺が行こう。使い魔で奴らの動向を探っているがまだ暫くはあの場に留まるようだ」

「作戦を考える。だが、お前は絶対に前に出るな。狙撃手の育成知識は決して失うワケにはいかん」

「……待機する」






「…………」


 起きては眠るを繰り返して、頭の中がクリアになってくると現状を理解する余裕が出来てきた。身体は重いが……動かせない程じゃない。ベッドから身体を起こすと――


「っ……」


 いつものつもりで腕を動かしたら尋常じゃない痛みが走った。ズキズキと余韻のように両腕からの痛みが続き、指一つ動かせない。


「……」


 喉には管。この単純なコレがあたしの命そのものか……

 なんとも……安くなったモノだ。いや……最初からこの命にこれ程の価値はなかったのだろう。だから――


“外れた“弾丸”に価値は無い。そこらの鉄屑の方がまだ上等だ”


 師の言葉が脳裏に浮かぶ。

 あたしは外した……弾丸として価値などなく……敵に生かされている。

 無様で……滑稽で……生き恥だ……こんな体たらくでは死ぬ事も出来ない……ははは……今のあたしは標本に飾られた虫同然……


「調子はどうかしら?」


 すると、ゼウスが入ってくる。起きているあたしを見て近寄るとベッド脇の椅子に座った。


「身体は起こせる様になったのね。うん、経過は良さそう」


 ゼウスはあたしの頬や胸の中心に手を当てて状態を図ってくる。


「点滴ばかりでごめんなさいね。『バジリスクの溶解毒』が喉の周りを強く溶かしちゃったから」

「…………」

「でも、明日には管は取れてお喋りも出来る様になるわ。ご飯は……まだ内臓が弱ってるからしばらくは点滴だけど」


 喋れる様になる……考えられる事とすれば、こちらの情報を求める意味があるのだろう。ローハンのあの目は……師匠と同じで必要であれば手段など選ばない目だった。


 師匠は……絶対に助けに来ない。そもそも、『バジリスクの溶解毒』を飲んだ時点で生き残れるとは誰も思わないだろう。


「両腕も今のところは感染症の様子は無いわね。感覚はどう? わたくしの体温は伝わる?」


 ゼウスが動かない腕にそっと手を重ねてくる。それは指先一つで命を奪ってきたあたしの手にはもったい無いくらい暖かかった……


「ふむぅ。神経がまだ繋がってないみたいね」


 勘違いさせるのは悪いと思い、あたしは無理に腕を動かした。すると、僅かに指が動いた気がする。同時に猛烈な痛みが脳に伝わり少し涙目になった。


「あら。ふふ。痛み止めを点滴に混ぜてあげる」


 そう言ってゼウスは席を立つと、他のテーブルに置かれた薬瓶から痛み止めを手に取って点滴に混ぜてくれる。


 ……なんで、あたしはゼウスの期待に答えようとしたのだろうか……


 まだ体力が戻らないのか、少しだけ眠くなり、そのまま意識は暗転した。






 “親無し”とは読んで字のごとく、自立できない年齢で両親を失った、又は捨てられた『エルフ』の子供の事を指す。


 あたしの場合は両親の顔は知らない。物心ついた時から“親無し”だったからだ。

 『エルフ』として基礎的な訓練である、弓矢の扱いや『音魔法』による“耳笛”の聞き分け。同年代の子供達が遊び回る時期だったけど、あたしにとっては訓練が当たり前で、他の親無しもそうだった。

 中には両親の事を思い出して泣く子も居たが、あたしにはその感覚が解らなかった。

 だから師匠があたしを“バレット”に選んだのかもしれない。


「サリア、我々『エルフ』にはラストネームが無い。何故だと思う?」

「……わかりません」

「己の『エルフ』の血に誇りがあるからだ。家柄ではなく、己個人に流れる血がな。そして統率力のあるものが『族長』となり、腕の立つ者が『狩人長』となる。だが、時に稀な役割を担う者達はラストネームを名乗る事を義務付けられる」


 ソレは一族間で通るコードネームのような意味合いがあるらしい。

 あたしと師匠は“バレット”。意味は……『弾丸』。


「サリア、最後まで己の役割を忘れるな。我々は“弾丸”だ」


 一族の敵を撃ち抜く。“バレット”はそれだけの為に存在する者達の証なのだ。






「ごめんなさい」


 『エルフ』の女のテントから出てきたマスターは開口一番にそう言ってオレを含める全員に頭を下げて謝った。


「この件はわたくしの過去の負債なの。皆の事を危険に晒してしまったわ」


 【千年公】ゼウス・オリンに出来ない事はない。そう言われるほどにマスターの能力は天井知らずだと思われていた。

 しかし、マスターにも因縁はある。それも現在まで続く程の大きな因縁が。それにオレ達を巻き込んだ事を謝ったのだ。


「クロエ、クロウ。あなた達にクラン脱退の許可を与えます。脱退するなら退団金も出すから別のクランに入るまで足しに――」

「マスター、その件に関してはオレらで話を纏めてる。クロエもクロウも残るってよ」

「僕は『星の探索者』を離れません! まだまだゼウス先生から教えを受けたいです!」

「クロウが残るなら私も。それに、現状では一人でも多くの人手が必要だと思います」

「二人とも……ありがとう」


 マスターは嬉しそうに微笑んだ。すると、あることをクロウに告げる。


「クロウ、貴方の義足に仕込まれていたアインの防護陣は一回きりみたいだから、次は気をつけてね」

「え!? そうなんですか!?」

「ライフル弾を頭に直撃して軽い脳震盪で済んでるんだ。コレを何度も使えるなら皆に欲しいぜ」


 クロウにも改めて気を付ける様に認識させた所で、本題を話し合う。


「あの『エルフ』。最終的にどうするんですか?」

「あの子が何を望むのかによって、それを歩む手助けをする。ソレが必要な子だから」


 偽善。一言ではそう言えるが、オレも同じ立場だったからマスターの行いを否定する気は無い。ただ、


「殺意与奪の件は覚えてますよね?」

「覚えてるわ。ローの采配で救う命は優先して」


 それを確認出来たのならオレとしては『エルフ』の女を生かす事は賛成だ。適度に解放して糸を引いてる奴らまで誘導させて『ゼウスの雷霆』でまとめて始末する。


「二人はあの子の事をどう考えてる?」


 マスターは命を奪われかけたクロウとブラコン末期のクロエにも問う。


「僕は『エルフ』さんと話してみたいです! 何でこんなことをしたのか……」

「私も彼女の意図を知りたいですね。今後の為にも」


 相手の思考を理解すれば“先読み”の精度を上げられる。これまでに無い敵――狙撃手の思考をクロエは理解しようとしているらしい。

 不安要素をとことん排除していくつもりかよ。コエー女。


「まだ、起き上がるので精一杯だから、まだ様子を見てからね」


 それまで防備を固めとくか。






「呼吸機はもう大丈夫そうね。外すわねー」


 サリアの手術を終えて1日が経過した。

 ローハンはサリアの居た地点から彼女の道具や装備を回収し、クロエとクロウは狙撃を遮る遮蔽物を“砂の山”から“壁”へと改修したり、食料の調達を主に動いていた。


「まだ、喉に穴が空いてるから包帯は取ったらダメよ。それで、このチョーカーで……」


 ゼウスはサリアの喉に振動を言葉に翻訳するチョーカーを着けた。


「これで喋れるわ。ずっと寝たきりで少しは言いたい事も溜まってるでしょう?」


 まだ両腕は動かず、自分一人で立てそうにもない。そんな状況で会話が出来るとなれば――


『…………』

「ふふ。喋りたくなったで良いわ。よいしょ」


 ゼウスはサリアの身体を検診するように補聴器を当てる。


「うん。心音に問題は無し。『バジリスクの溶解毒』による後遺症も、感染症も無さそうね」

『…………』

「熱もない。後は身体のリハビリね。身体は自分で起こせるから、腕の慣らしからやりましょうか」


 ゼウスはサリアの指に触れ、1本ずつ丁寧に折り曲げる。


「指に感覚があったら言ってね」

『……なんで――』


 そこまでする? と思わずそう言いそうになり、言葉を止めた。

 ゼウスはサリアが何を言いたいのか察し、


「全ては救えないし、看取るべき命もある」

『…………』

「でも、貴女は生きたがってた。だからお話をしたかったの」

『…………殺そ……そうとした……貴女を……なのに……』

「そうすることが貴女にとって意味があるのなら仕方がないのだと思う。けど、こう考えてみてはどうかしら?」


 そっとサリアの手に自分の手を優しく伸せてゼウスは眼を合わせる。


「貴女は一度死んだ。今の貴女は前の貴女の生まれ変わりで、新しい道を選んで行けるって」

『…………何も……ない……外れた……弾丸に……帰る場所なんて……どう生きたら……良いかなんて……あたし……には……』


 サリアはゼウスから視線を外し、動かない両腕を見る。

 このまま生き残っても“バレット”の名を汚すだけだ。それに……どうやって生きれば良いのか……何も……何も解らない……


「なら、わたくしの所に居なさい」


 その言葉に俯くサリアはゼウスを見た。


「今日から『星の探索者このクラン』が貴女の家。わたくしが貴女の“家族”。だから――」


 サリアはいつの間にか眼から涙が流れていた。ゼウスは優しく、ころん、と微笑んだ。


「貴女は一人じゃない。一人ぼっちじゃないの」

『……うん……』


 ボロボロと涙が止まらないサリアの頭をゼウスは泣き止むまで撫で続けた。






「失礼します!」


 皆が話したい事があるそうだから貴女の事を教えてあげて。

 と、ゼウスが告げるとクロウが入ってきた。


「クロウ・ヴォンガルフです! 『エルフ』のお姉さん、大丈夫ですか?」

『…………』


 元気な様を感じ取れる純粋な瞳。その眩しさにサリアは居たたまれない気持ちになって思わず視線を反らした。


「あれ? ゼウス先生、僕……変な事を言っいました?」

「違うわよ。こっちにおいで」


 ゼウスが手招きすると、クロウは駆け寄り並んで座ってサリアを見る。


「今、指のリハビリをしてるのよ。クロウも手伝ってくれる?」

「はい! ドンと来いです!」


 クロウはサリアの指に触れると丁寧に間接部を折り曲げて動く感覚を教えて上げた。


「『エルフ』のお姉さん。痛かったら言ってくださいね! 僕、姉ちゃんみたいに他の人の事を察するの得意じゃないから……何かあったら言ってくれると嬉しいです!」


 んしょ、んしょ、とクロウの懸命さが指を通して伝わってくる。


『…………』


 引き金を引く。ただそれだけの感覚があれば良かった。スコープの先で倒れた者の事など知ったことではななかった。

 考える必要もなかった。ゼウスを狙い、クロウに当たって彼が倒れた時も同じ――


『ごめんね…………』

「え?」

『あたしが……撃って……貴方の事を……』


 スコープの中の存在は遠いモノではなかった。こうして……誰かの為に一生懸命になったり、話しかけたり、誰かにとって大切な人なのだと――


「わっ!? ど、どうしたんですかお姉さん!? ゼウス先生! 僕……お姉さんに変な事したんでしょうか!? 泣き出しちゃいました!」

「貴方のせいじゃないわクロウ。今、彼女は自分の心に整理をつけてるの」

「そうなんですか! お姉さん! 何かあったら僕に言ってくださいね! 一緒にご飯を食べましょう!」






「入ります」


 クロウは退室し、入れ替わりにクロエが入ってきた。


「クロエ、彼女は少し精神的に不安定だから複雑な質問には即座に答えられないかもしれないわ」

「それでも私はこの場で二つの事を確認したいのです」


 ベッドの近くまで歩いてくるとサリアを鼓動に意識を集中する。


「貴女にとって私達は何に見える・・・かしら?」


 その質問の答えは、立場や状況によってあらゆるモノへと変化する。

 クロエにとって、その答えだけでサリアの本質を見抜く事が可能になる程に、人心の読み取りに長けていた。


『…………置物……だった』


 サリアは本心を語る。


「そう。貴女にとっての“置物”は、私にとって掛け替えのない家族クロウだった。マスターにローハンもそう。その指先一つで貴女は私から彼らを奪う。今も、そう考えてるの?」

『…………あたしは……もう……貴女達を撃てない……撃ちたいとも……思えない……』


 心音は緊張していない。口調に震えは無く、言葉を選んで詰まった様子もない。どの反応も何かを偽る“音”は出していない。

 クロエはソレを彼女の本心であると汲み取る。


「クロウが貴女の事を知りたいと言ったから、私も貴女の事を知る努力をするわ」


 そう言うと、ゼウスの横に座ってサリアの手に自身の手を乗せる。


「私はクロエ・ヴォンガルフ。貴女の声は常に拾ってるから何かあったら呼びなさい。小柄なマスターじゃ、肉体的にカバー出来ない事もあるでしょうから」


 クロエのその声色はサリアに対して敵に対して向けるモノではなく、彼女を助けたいと思わせるモノだった。

 弟に手を出した者には一切の容赦がないクロエが、少しずつ他を理解しようとする様子にゼウスも微笑む。






 着替えとか、身体とか拭きたいときは呼びなさい。

 そう言ってクロエが退室し、ローハンが入ってくる。


「…………」

『…………』

「両腕をぶっ飛ばされて、『バジリスクの溶解毒』を飲んだにも関わらずお前は生きてる。そんでもって、明日には立てるようになって、その次の日には歩ける様になって、二日後には体力も戻るだろう。それまでに指も動くようになる。で、だ」


 ローハンは近づいて来るとゼウスの横の椅子にどすん、と座った。


「まだ、マスターを撃ちに戻るか?」

『…………』


 サリアはローハンに眼を合わせる。

 答え次第ではこの場で殺すことも厭わない眼。それはローハンがサリア以上の修羅場を何度も越えてきた戦士であると伝えていた。

 ゼウスは成り行きを見守る。


「あの時と同じだ。Yesなら縦、Noなら横だ」

『…………』


 嘘は通じない。いや、嘘を言うリスクを最大限の危険なモノとしてローハンはぶつけていたのだ。

 ソレは高い精度で嘘を見抜くクロエとは別――本当の事を言わざる得ない気迫は冷静に言葉など選べず、本心を語ることを強制させられていた。


『あ……あたしは……』


 サリアは震えて言葉が上手く出せず俯く。ローハンにちょっとでも疑いを宿してしまえば次の間には殺される――だから、心からの本心を口にした。


『……ここに……居たい……』

「…………そうかよ」


 すると、張り詰めていた空気が抜けた様な雰囲気がローハンより感じられた。サリアはその言葉に視線を戻すと、彼の方が安堵した様子で表情が和らいでいた。


「ここはオレの家なんでね。家でずっと警戒するなんてゴメンだ」

『……ごめんなさい……』

「何に謝ってんだ? マスターにもクロエにもクロウにもきちんと話をつけたんだろ? クランの皆がお前を助けるって言うなら、オレだけ空気が読めない事は言わねぇよ」


 ローハンは立ち上がるとこれ以上は話す事はないと告げる様にテントの出口へ、


「マスター、ソイツの事は全部任せるよ」


 サリアの殺意与奪の権利を放棄する事をゼウスに告げるとテントを後にした。


 




 何人も殺した。けど、殺した実感はなかった。スコープの先で標的が倒れる度に何も感じなかったのだ。

 弾丸のつもりで生きてきた。だから、外した時があたしの生き様は終わりだと思っていた。


「大丈夫?」

「だい……じょうぶ……です……」


 クロエに支えられてベッドから身体を起こす。肘から先への力は指をぎこちなく動かす程度で支える事も出来ない。ならせめてこの足で立てる事くらいは出来なければ……


「あら」

「わっ! もうテントから出ても良いんですか!?」

「マスターのメディカルベッドのおかげだな。普通なら立ち上がるまで一週間はかかるぞ」


 テントから出ると三人が夕飯を作りながら、あたしに注目する。

 他との関わりは師匠が大半だった。訓練時も会話は最低限。顔を合わせた事は片手で数える程しかない。暖かみなど欠片も無い、淡々と次の任務内容を告げるだけの会話。事実確認だけを済ませるとまた一人……


 だから……始めて知った。こんなに暖かいモノがあるなんてって……


「あらあら、クロエ。彼女をこっちの席に」

「わっ!? 『エルフ』さん!? どこか痛いんですか!?」

「やれやれ、まだ水は口から飲めねぇんだからあんまり水分は出すなよ」

「ゆっくりね」


 クロエに座らせて貰ってあたしは席に座る。そして、皆を見て――


「あたしは……サリア。サリア……バレット」


 自分の名前を知って欲しいと思って名乗ったのは初めてだった。


「ようこそ。『星の探索者』へ」






「…………」

「エルガン。首尾はどうだ?」

「奴らにまだ動く気配はない」

「そうか。こちらは今、森の中に同胞を展開している」

「補足されるぞ?」

「【魔弾】に劣らずの隠密能力を持つ“アサシン”達だ。奴らの雑な索敵など掻い潜っている」

「そうか」

「場を撹乱する。お前は『叡智』を確実に狙撃しろ」





「サリア、皆を紹介するわ。ローハン、クロエ、クロウよ」


 マスターはオレらの事をサリアへ丁寧に紹介した。だが、恐らくサリアはある程度は知ってるだろう。


 特にクロエは【水面剣士】として一部の界隈ではかなりの知名度があるし、その身内となるクロウも抱き合わせで情報が集めやすかったハズだ。

 逆に、オレに関しては戦争で『ベルファスト』が滅んだ事もあって殆んど情報が集められなかっただろう。

 【オールデットワン】である事は軍でも機密扱いだったし、そこが『エルフ』側に不確定要素を生んだと見て良さそうだな。


「やっぱり、“バレット”か」

「……知って……るの?」


 一通りの自己紹介を終えて、オレはサリアのラストネームを言及する。まだ上手く声が出せないサリアの名前は大体想定していた。

 オレは狙撃手ポイントにあったサリアの装備をテーブルの上に出す。


「拳銃に手榴弾。予備弾倉三つに、消音器サプレッサーまで。よくもまぁ、揃えたモンだな」


 銃器は現在では製造不可の『古代兵器』の類いだ。

 使えるように手入れはされているが、本当に必要な時以外の使用は控えていたのだろう。

 拳銃と消音器サプレッサーは、狙撃では不可能だった場合に接近しての射撃も想定された暗殺セットである。


「わっ! コレ何ですか!?」

「クロウ、何が見えてるの?」

「L字の金属!」

「オレとマスター以外は触るなよ? 安全装置セーフティはかけてるが、事故は起こらないに限る」

「…………」


 サリアは目の前の銃器を見て少しだけ表情を曇らせる。オレは拳銃を取るとカードリッジを出して弾を確認し、一度スライドさせて初弾を出すと薬室に弾丸が入ってるかを目視で見る。そして、安全装置を外すと銃口を上空に向けて一発撃った。

 波の音に銃声が飲まれるも、不思議な静寂と硝煙の臭いが場を包む。


「指先一つで人が死ぬ『古代兵器』だ。老若男女問わず、手軽に人殺しになれる」

「はわ……」

「撃つ際に意思を向ける必要があるのなら躱せるわね。初動は金属の擦れる音で判断出来そう」


 クロエの奴がさらっと、とんでもない事を言ってるが冗談でも見栄でも無い所が恐ろしいな。

 オレは安全装置をかけてテーブルに拳銃を置いた。


「この銃器の扱いに長けるのが“バレット”だ。サリア、教えてくれ。“バレット”は後何人いる?」

「………………」


 サリアは葛藤している様だった。

 心境は複雑だろうが正直なところ、コレは生死を分ける情報になるだろう。特に狙撃銃は個人を殺るには一線を画する。


 普段の生活をしている所に突如として弾丸に頭を抜かれるのだ。

 現在の遠距離武器は魔法か弓。しかし、二つとも魔力反応や射程の問題から一撃目で即死となる事は殆んど無い。

 たが……狙撃銃はヒトが警戒する範囲の遥か外から一撃で仕留める事が可能だ。しかも自分が狙われている事さえも気づかない距離と瞬間を、突如として死に変える。

 知識が無きゃ、周りも何が起こったのか解らないだろうよ。


 それを現実的に実行しているのが『エルフ』の“バレット”だ。今回の件で実害が出た以上は今後も狙われる可能性も考えて確実に潰さなければならない。


「今、ベースキャンプは壁に覆われているが、一生こんな事を続けるワケにはいかない。サリア、オレ達を助けるつもりで情報をくれないか?」

「…………あたしは……」


 それでもサリアは口を噤む。いや、喋れないのかもしれないな。知らされてない可能性もあるし、数日前まで居た自分の陣営を売る事に抵抗もあるのだろう。

 しかし、一つだけ確定している事はある。そっちで突いてみるか。


「少なくとも一人は居るだろ? お前に技術を教えたヤツだ」


 何もない所からここまで出来るとは思えない。

 知識は“技術”と“経験”に分けられる。サリアの狙撃技術はその両方が高水準だった。当人の才能もあるとは思うが、その上でレクチャーを受けたのなら単独でマスターの暗殺を任される程の技量を持つ理由になる。


「…………【死期】。師匠は……そう……呼ばれてる」

「【死期】?」

「エルガンね」


 オレの聞き返しをマスターが少し険しい表情で応えた。


「マスター、ソイツは何者だ?」

「ロー、情報において最も危険な事は何だと思う?」

「虚偽とか、リーク?」


 オレの回答にマスターは顔を横に振る。


「“知らない”と言うことよ」


 その言葉に状況を理解したオレは自分の浅はかさを認識し寒気を感じた。

 そうだ……良く考えてみればサリアに技術を授けたヤツは長い間、狙撃兵として存在していたと言う事になる。そして何より……その存在を世間では全く知られていない・・・・・・・事が問題なのだ。


「あの子に狙われた標的はその時点で生を終える。故に裏社会の人間は決して『エルフ』に手を出さない。【死期】がやってくるから」

「初めて聞きました」

「僕も」


 比較的にその手の話しに詳しそうなクロエとクロウも知らなかった様だ。

 認知されてない狙撃兵は災害と同じだ。あちらは銃口を向けていても、こっちはソレを感知する事も想定する事も出来ない。


わたくしもエルガンの事はゴーマから教えて貰ったの。同時に彼は簡単に動かないと言う事も解ったわ」

「何故です?」

「活発に動けば動くだけ、情報が漏洩してしまうからよ」


 クロエの質問にマスターは的確に応える。

 恐らく、マスターに補足されない為だろうな。それに、一撃殺害を持つヤツは姿が見えないからこそ抑止力となる。


「足跡を沢山残してくれれば、その分情報がスケるんだ。けど、マスター。今回は本気で狙って来てるとオレは思うんだが……」

「その件も大丈夫よ。わたくしが後日、『エルフ』とは話をつけるから」


 その言葉にオレとクロエは激戦になると戦意が沸き上がる。


「二人とも、そんな物騒な気配は必要ないわ。『エルフ』は一枚岩じゃないの。わたくしにここまで執着するのは一個人だから」


 どうやらマスターは、今回の件を引き起こしているヤツに心当たりがあるらしい。


「彼を止めれば、自ずと全部止まる。だからサリア。もう何も喋らなくて良いわよ」

「…………」

 

 それでもサリアは複雑そうに俯いた。まぁ、オレもサリアの立場なら気持ちのやり場に困るぜ。どれ、


「サリア、あんまりに気にするな。オレらが深刻に考えてる事は、マスターからすれば拍子抜けするくらいあっさり解決しちまうからよ」

「ええ。考える分、気疲れするだけよ」

「ゼウス先生は何でも出来ますからね! 僕も微力ながら協力しますよ!」

「皆もこう言ってるから。サリアは身体を休めてて」

「……あり……がとう……」


 少しだけ明るくサリアは笑った。その時、


「――――」


 サリアの表情が変わった。それは驚いた様子で何かを聞き取った様だ。そして次に反応したのはクロエである。


「ローハン」

「動きが早い。まぁ、想定内か」


 サリアが襲撃してから二日もこの場に居るのだ。そして、ある意味確定したとも言える。

 『エルフ』はここでマスターを殺りに来ている。つまり……【死期】が来てる可能性も高い。


 オレとクロエは武器を持ち、壁で囲われたベースキャンプの外へ意識を向ける。警戒するのは狙撃。しかし、夜間での命中精度は大きく下がるだろう。

 クロウは反応が変わったサリアを心配していた。


「ロー、クロエ」

「多分、話し合いの余地は無いですよ。止めろなんて聞けませんからね」

「【死期】が来ているかもしれません。マスター達は壁の外へ出ないでください」


 敵が来る。しかし、耐えてどうにかなる状況でもないので待ち構える気はない。こっちから討って出てさっさと終わらせる。


「止めないわ。けど、これだけは忘れないで」


 マスターはオレとクロエの手を握って告げる。


「サリアはまだ自由に動けない。わたくし達が護ってあげなくちゃ」

「……多分、狙われてるのはマスターだと思うよ?」

「マスターも警戒しててください。クロウをお願いします」


 どんな時でも自分の事は二の次に考えるマスターにクロエは、クスリ、と笑った。

 というか、マスターは最初から自分が狙われていると言う事を自覚してくれ。






“己の名を思い出せ”


 今の『耳笛』はあたしに向けた師匠からのメッセージだ。それはあたしが生きているかどうかなんて関係ない。

 もし、生きていた場合に取るべき行動は――


「クロウ、なるべくわたくしの視界範囲から出ない様にね。後、壁際から離れないで。『広域検知』を常に展開しておくから」

「はい!」


 あたしはテーブルに置かれた拳銃を見る。そして、次に『広域検知』に集中する彼女を見た。


「…………」

「サリアさん! 大丈夫です! 姉ちゃんとローハンさんは凄く強いんで!」


 クロウの言葉に、今自分が何を考えたのかハッとする。“バレット”として動こうとした考えを振り払う様に顔を振った。


「……あたし……は……」


 何を選ぶべきなのか――






「クロエ、オレ達はある意味“縛り”を食らってる」

『そうね』


 オレは即座に森へ入り獣道を駆け上がっていた。クロエには上から枝で死角になる森の入り口で待機して貰い、『音魔法』で会話をする。


『森の中から不協和音が幾つも聞こえるわ』

「『広域感知』でも捉えてる。そっちは任せるぜ。オレは――」

『【死期】を仕留めるんでしょ?』

「ああ」


 誰かが知識を持ち出せば、ソレを教える者が居る。その系譜を辿れば辿るほど、原初に居る存在は表面に上がっている者よりも桁の違う熟練者である事は必然的だった。


「サリアよりも数段格上の狙撃兵だ。ここで仕留めなきゃ、『エルフ』と話し合いの席にも立てねぇ」


 今回は常に銃口を向けられている状況に等しい。本来なら狙撃が出来ない様にポイントを潰すのがセオリーなのだが、それでは【死期】をこの場に呼び込めない。

 リスクは高いが、その分リターンも大きいと考えてあえて狙撃ポイントは残した。数は全部で三ケ所。まずは一番近い場所から接触する。


 オレは即死対策で【オールデットワン】の姿で駆ける。黒い外見も夜の森ではプラスに働くだろう。


「そっちは任せるぜ、オレは確実に【死期】を殺る」


 その時、ヒュンと風切り音――


「!!? っ……マジかよ!?」

『どうしたの?』

「撃たれた! ったく……どうなってんだ!?」


 オレは獣道を走っていて斜め上の角度から飛来した弾丸を鞘に入った『霊剣ガラット』の側面で受けて何とか反らした。

 即座に射線側の木に背中を預けて様子を見る。

 狙いは頭部。夜の森を走るオレを殺りに来やがった。どんな夜目と当て勘をしてやがる! しかも『音魔法』で発射音を消してる事もあって無音での飛来。【オールデットワン】で五感が強化されてなかったら反応できなかったぞ。


『無事?』

「ああ。クロエ、お前は絶対に山を上がってくるなよ。流石に避けられねぇぞ」

『こっちはそんな暇は無さそうよ』


 クロエの方も敵が来ているらしい。本来なら絶望的な状況だが、詰みに手がかかってるのはお前らの方だ。


「位置が割れたな。もう終わりだ」


 夜の森を移動するオレを的確に当ててくる射撃は間違いなく【死期】のモノだろう。

 オレは撃たれた角度から狙撃ポイントを割り出すと弾けるように木の影から飛び出す。

 【オールデットワン】の身体強化によるランダムな走法にて狙いをつけられない様に接近。狙撃ポイントを視界に捉える。


「『閃光』」


 『雷魔法』『閃光』を肩口に展開しこちらを見ているであろう【死期】の眼を潰す。同時にこちらは――狙撃銃の銃口を捉えた。


「逃げ切れねぇぞ」


 接続アクセス

 オレは手に槍を持つ様に“雷の槍”を形成する。

 発動速度を重視して出力は本来の1%。だが、山の一部を抉る程度の威力は十分にある。


「『ゼウスの雷霆』」


 溜めるように滑って停止すると力の限り投擲。

 『ゼウスの雷霆』は全てを貫きながら狙撃ポイントを通過すると、その経路に“後雷”が発生。閃光と共に狙撃ポイントを抉るように吹き飛ばした。


「――――」


 瞬間、『ゼウスの雷霆』がオレへ返って来た。






 夜の森は危険だという事が通例だった。

 誰もが告げる。夜の森に入ることは死ぬのと同じだ、と。

 それは正しい。昼間でさえ視界の悪い木々に、更に暗闇も加われば最悪の環境となる。

 だが、ソレは――見えている事・・・・・・が大前提の“危険”であった。


「『エルフ』達にとって夜の森も庭のように動けるのかしら?」


 クロエは森の入り口から這い出るように現れた黒ずくめの『エルフ』達へ剣を抜く。

 『エルフ』は俗世を離れて森の中で生活をしていると聞く。それなら、この程度の夜の森に恐怖など無いのだろう。しかし、


「今回ばかりは恐怖した方がよかったわね」


 闇を日常とするクロエにとってはいつもと変わらない。


「――――」


 ゆらり……と『エルフ』達が動く。狙いはクロエ――ではなく、その背後にある壁の向こうに居るゼウスだ。


「驚いたわ」


 トン――とクロエがステップを踏むように動くと、一人目の首が落ちる。

 トントン――

 無駄の無い体捌き。流れる様に負荷の無い重心移動。腕の振りから剣の届く距離まで完璧に――


「貴方達、死ぬ寸前まで心音がまるで変わらない」


 完璧に動いたクロエがトン、と彼らに背を向けて再び夜の森へ視線を向けると、『エルフ』達は首を断たれてその場に倒れ込んだ。

 すると夜の森から再び黒ずくめの『エルフ』達が現れる。今度はクロエと相対する動きで囲う様に間合いを取り始めた。


「……妙ね。貴方達――」


 内、森に潜伏した一人がクロエへ吹き矢を放つ。無論、即死の猛毒が仕込まれているが、クロエからすれば丸見えだった。スッ、避けるが、次に地面が呑み込もうと流動してくる。


「――!」


 移動しつつ囲いを脱する為に一人を斬ろうと動いた瞬間、囲んでいる『エルフ』達全員・・が一斉に距離を詰めてきた。


 このタイミングで?


 『土魔法』に巻き込まれる。

 クロエは冷静に一番近い『エルフ』を斬って囲いを抜ける。だが、斬られた『エルフ』は倒れつつも絶命の瞬間までクロエの足首を掴んだ。


 怯まない!?


 そこへ、他の『エルフ』も殺到し、同時に流動する砂は圧縮する様に彼らごとクロエを巻き込む――


「…………」


 クロエは足首を掴んだ『エルフ』の手首を切断して離脱。『土魔法』の範囲から脱していた。

 目の前で砂の流動に巻き込まれた『エルフ』達は全員、骨や肉を潰される音を立てて砂を赤黒に染める。


「何とも嘆かわしい!」


 すると、胸元を開ける服装にコートを着たを『エルフ』の男が森から現れた。長髪に美麗な様は『エルフ』特有の美しさを更に引き立たせている。


「“アサシン”ともあろう者が、標的を抑えて置く事さえも叶わぬとは! 全く……訓練が足りんな!」

「貴方は随分とお喋りね」


 クロエは現れた『エルフ』の男へ即座に踏み込む。しかし、脇からソレを阻止する様に現れた別の『エルフ』に対応を切り替えた。


 踏み込む歩幅を変えて向き直り、その首をハネる。そして、襲いかかる『土魔法』をステップの方向を変えて避けた。

 首をハネた『エルフ』は『土魔法』にバキバキと呑み込まれる。


「何ともっ! 美しくない! あまりにも下品! 醜悪! このエアロ・アサシンが原場に出て来ていると言うのに! お前達は本当に今まで何を訓練してきたのだ!?」

「…………」

「これは改善点だ! もっと質を高めるなければ。お前達! “アサシン”の存在意義はソレしか無いと言うのを理解せよ!」

「……彼らは捨て駒と言うことかしら?」


 クロエは『土魔法』に潰された『エルフ』達は全員死亡している様を感じ取る。絞られた果実の様な死体はヒトとしての死に方ではなかった。


「捨て駒? 違う、違うぞ。これが“アサシン”の役割だ! 全てを任務に捧げる! 思考を消し、個を消す! 命令に準じ、己の命さえも賭して任務を遂行する者達の事だ!」

「……『エルフ』は随分と命に余裕があるのね」

「私は使えない命を使えるようにしているに過ぎない! それが“アサシン”だ。まったく……これだから下等生物のブスは理解に乏しくて困る」


 ぴくり、とクロエが反応する。


「…………ブス?」

「お前の事だ! 全く……見るに耐えん醜さだ! お前を直視するとこっちまで醜くなる様に感じる! 勘弁しろよ!」

「…………初めてよ。こんな気持ちは」

「んんー? 知らなかったのかね? お前がブスだと言うことを!!」

「もう、黙りなさい」

「お前が黙れ!」


 クロエは踏み込み、エアロが指を向ける。すると背後の闇から感情の無いアサシンが現れ、クロエを迎え撃つ様に襲いかかった。


「ブスの足を止めろ! “アサシン”としての教示を果たせ!」

「その前に貴方の首が飛ぶわ」


 本気でエアロの首を狙いに行こうと歩を進めたその時、


「――――」


 山中で『ゼウスの雷霆』の魔力を検知した。ソレはローハンが放ったモノ。だが、問題はソレが“反射”で即座に跳ね返ったと言う事だった。

 同時にローハンの“音”が消失する。


「どうした? 誰か死んだか?」


 同様。僅かな歩幅の乱れが、間合いを誤り“アサシン”の一体が腰に組み付く。近すぎる故にナイフを抜くと組み付いた“アサシン”の首をカッ斬り始末する。

 しかしその隙に、他の“アサシン”に逃げ場を封じられ、砂が全員を球体状に呑み込む。


「じゃあな、ブス」


 グシャッ! と圧縮された砂から血が滲んだ。






「ロー……クロエ……」


 ゼウスは壁に囲まれたベースキャンプの中で周囲の状況を全て把握していた。

 二人の魔力反応が消えた事も含めて――


「ゼウス先生……ローハンさんは……姉ちゃんは……無事ですよね?」

「…………」


 クロウもローハンとクロエの反応が消えた様は感じ取っている。

 サリアは何も言えず、何も出来なかった。


「物事は全てが刹那なのだ」

「!?」


 その時、“壁”がまるで役割を失ったかのように崩れ始めた。


「これは! クロウ! サリア!」

「わわっ!」

「…………」


 ゼウスは重ねて『土魔法』を発動し、崩れる壁から二人を護る様に砂をドーム状に構築。その時、パンッと銃声が響く。


「くぅ!」

「! ゼウス先生!」


 肩に弾丸を受けて倒れるゼウス。崩れた壁の向こうから現れたのは【死期】エルガン・バレットだった。


「咄嗟に砂粒で弾丸の軌道を変えたか」


 ゼウスの頭を狙ったエルガンはその手に拳銃を持っていた。硝煙の臭いを場に立ち込ませるエルガンは、ザッザッ、と砂を踏みしめて倒れたゼウスに歩み寄る。


「俺からすれば……強くとも、賢くとも……何ら意味はない。寧ろ、付け入り安い弱点と言える」


 ソレは彼が今まで弾丸で標的を殺してきた事で得た、揺るぎ無い“真実”だった。


「強い者ほど前に進む。賢い者ほど罠にかかる。狙撃手は“遠距離から狙撃する”と言う半端な固定概念をローハン・ハインラッドは宿した時点で死は決まっていた」


 エルガンは狙撃ポイントに罠を張った。

 自動で一射だけ射撃する装置を設置し、近づく反応に応じて射撃する。

 更に設置形の魔法陣にて一度きりではあるがあらゆる遠隔攻撃に対して『反射』を発動する様に設定プログラムしていた。

 もし遠隔攻撃をしなかった場合でも狙撃ポイントには踏み込むと炸裂する爆薬を大量に仕込んでいたが、ソレは不発に終わった様だ。


「貴方がエルガンね」

「いかにも。俺は素直に驚いている。『魔法解除領域マジックキャンセラー』において『土魔法』を発動するとはな」


 エルガンはゼウスに近づき過ぎない距離で止まると発砲。しかし、流れるように高速で移動する砂が弾丸を横へ弾いた。


「『魔法解除領域マジックキャンセラー』は魔法が生んだ結末を解除し、魔力を使用者に認識させない効果を持つ。けど前もって設定プログラムした“結末が生まれていない魔法”までは無効に出来ない」


 戦いが始まった際に周囲の砂へゼウスは魔力を通わせると“高速で飛来する物体を撃ち落とせ”と言う命令を設定プログラムしていた。


「貴方の弾丸はわたくしには届かない」


 創造力と……ソレを実現可能にする能力と知識。これが『叡智ゼウス』か。長が欲しがるワケだ。だが――


「無理矢理『土魔法』を発動したあちら・・・には、その設定プログラムは残っているかな?」


 エルガンは二丁目の拳銃を抜くとゼウスに銃を向けたまま『土魔法』のドームに護られたクロウとサリアへ銃口を向ける。


「――――」

「何もするな、ゼウス・オリン。お前がやるべき事は、この弾丸に額を撃ち抜かれるまで無防備で居ることだ」


 その銃口による死は避けられない。誰よりもソレが解っているサリアは何も出来ずに震えるしかなかった。しかし、


「させない!」


 クロウはドームを飛び出すと近くのテーブルに置かれたサリアの銃を取った。そして、エルガンへ向けた瞬間に銃声が響き、うわっ!? とクロウは倒れる。


ソレの驚異は世界で誰よりも知っている。素人でさえ俺を殺す可能性もな」

「うう……」


 肩を撃たれ、その勢いで後ろに倒れるクロウの手から銃が放られる。


 片腕とゼウスに注意を分けていると流石に外すか……


 情報を修正したエルガンはクロウの額へ照準を合わせ――


わたくしを撃ちなさいエルガン。クロウには手を出さないで」


 ゼウスは周囲の設定プログラムを全て解除する。『魔法解除領域』によってもう魔法は発動できない。


「その名の通りだったな。『叡智の奴隷ゼウス・オリン』」


 エルガンは一丁をホルスターに戻すと両手で構え、ゼウスへ決して外すことの無い一射を撃つ。

 銃声が夜の海岸に響き渡った。






「……野郎。罠を張ってやがったか」


 オレは『反射』で帰ってきた『ゼウスの雷霆』は避けられなかった。【オールデットワン】でも流石に直撃はヤバい。

 咄嗟に『霊剣ガラット』を抜いて刃を当てる事で威力を半分にして何とか耐えたものの、身体は痺れて動けなかった。


「クソ……ここに居ないってことは――」


 エルガンはベースキャンプだ。こっちの考えを先読みしてくる能力は明らかにオレよりも上。その時、銃声が響いた。






「…………」


 硝煙が立ち上る。

 エルガンはあらゆるモノを逆手に取った。

 ゼウス達が【死期】を恐れて確実に自分を始末に動く事を読み、ローハンを始末する罠を仕掛け、“アサシン”にクロエを足止めをさせた。


 そして、サリアにも語っていない自身の固有魔法『魔法解除領域マジックキャンセラー』を最大の搦め手としつつゼウスを肉薄。

 それでも尚、抵抗したゼウスには驚いたが、それも身内と言う弱点を狙う事で修正し、確実にその額を撃ち抜く。

 だが……唯一、エルガンにとって生涯唯一の誤算が――


「…………」


 サリアを“バレット”として育てた事だった。

 硝煙はサリアの拳銃から立ち上り、放たれた弾丸はエルガンの首を横から撃ち抜く。

 貫通したのは頚椎。脳からの命令が身体に上手く伝わらず、エルガンの身体は糸が切れた人形の様に仰向けに倒れた。






 クロウが放った銃が目の前に落ちてきて、ソレを反射的に取った。

 慣れ親しんだ様に、動かないハズの腕は銃を握る為に動き、構えるところまで手の震えは無くなかった。


「…………」


 腕はもう上がらなかった。今の一射が限界で、足も上手く動かせない。でも……あたしは行かなきゃならなかった。

 だって……あたしが撃ったのは……


「……ゴボッ……」

「……あぁ……」


 倒れた師匠の傍らに膝をついて、自分のしたことを改めて認識した。

 撃った……師匠を……あたしは……なんて……なんて事を……


「ごめん……さない……師匠……ごめんなさい……う……うぅぅぅ」


 何を護りたかったのか。この銃は誰を敵として見て、誰のための引き金だったのか。

 心の中はぐちゃぐちゃで……ただ自分のした事に後悔しかなかった。


「サリ……ア……」

「師匠……あたし……あたしは……」

「お前は……正しい……」


 その言葉にあたしは涙が溢れた。


「もう……お前は……“弾丸”じゃ……ない」

「う……うぅぅ……うぅぅぅぅあああああ!!」


 師匠はそれを最後に微笑みながら眼を閉じ、あたしは今までに無いくらい感情が溢れでて、師匠に縋る様に声を上げて泣く事しか出来なかった。






「…………」


 オレは動ける様になった事で『雷経路』でベースキャンプに帰還。

 すると、壁は崩れ明らかな奇襲を受けた様子に駆け寄ると、倒れているエルガンにサリアが縋って泣いていた。


 エルガンは首から血を流し倒れている。サリアが撃ったのか……


「ローハン」

「クロエ……うぉ!?」


 横からクロエに話しかけられてそちらを見ると、全身血まみれだった。手には、舌を出して絶望の形相で死んだエルフの首を持ってるし……何があった?


「ローハン、聞いても良い?」

「な、なんだ?」

「私は醜いかしら?」

「……普通に綺麗だと思うぞ」

「そう、ありがとう」


 ポイ、とエルフの首を森へ捨てた。






 二日後。海岸ベースキャンプ。


「サリア? おーい」


 オレは『エルフ』どもの死体を埋めて、二日かけてエルガンの仕掛けた狙撃ポイントの罠を解除。奴の残していた装備を一通り回収してサリアに見てもらおうと探していた。


「どうしたの? ローハン」

「クロエ、サリアを見てないか?」


 マスターとクロウは仲良く片手を三角巾で吊って療養中。薬草を使っているので今日には三角巾は取れる。

 メディカルベッドはサリアに優先して使わせた為、アイツは完治。両腕も以前と変わらずに動く為、今日から戦力として働いて貰う予定だ。


「サリア? 食料の調達に狩りに行くって言ってたわよ」

「そうか」


 しばらくすれば戻るだろう。そう考えながら、装備一式をベースキャンプの共同スペースである真ん中に置くと、


「ん?」


 手紙が置かれていた。『皆へ』と書かれたタイトルのソレを手に取り、開く。


「……マスター」

「ローハン? 何か置かれてたの?」

「サリアの手紙だ。マスター! クロウ! 二人とも来てくれ!」


 オレは『魔道車輪車』をいつでも起動できる様に準備しているマスターとクロウを呼んだ。クロエの為に内容は声を出して読み上げる。






 皆へ。まず、急に消えるみたいな形で去ることを許してください。

 あたしは……皆のおかげで初めて“家族”と言うモノがどんなモノなのかを教えてもらった。

 ローハン、貴方はあたしの師匠と同じ戦士だった。だから、あたしの事も理解してくれたんだと思ってる。

 クロエ、大切な家族を傷つけたあたしを許してくれてありがとう。

 クロウ、貴方の元気な笑顔と声にあたしは救われた。

 マスター、あたしを家族と言ってくれて、ここに居ても良いって言ってくれて、本当に……嬉しかった。


 でも、師匠の事も、今まで関わって来た『エルフ』達の事も無かった事には出来ない。

 ずっと後ろ暗いモノを抱えてたら本当の意味で皆と笑い合えないと思うから、この件はあたしが決着をつけに行ってきます。






「……マスター、例の『エルフ』との話し合いってどうなってる?」

「あちらが一週間後に部族全体で席を用意する予定よ」

「それでは」

「前倒しですね!」


 マスターとクロウは三角巾を外し、オレとクロエはベースキャンプの撤収を始めた。

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