第166話 “古代種”である。
「報告します! 北海域より! 『極北鯱』の群れが接近!」
「情報入りました! 西海域より、『
「! 『古海四王』の一角が動いてるだと!? 一体どうなっている!?」
『古海四王』とは、太古からの海の生態系に大きく関与する四体の海獣。海に生きる者ならば決して手を出す事を考えない、海の天変地異の様な存在だった。
「み、南より!」
「なんだ!? 今度は何が――」
「し、島です! 『孤島陸亀』が『シーモール』へ接近!!」
海の状況を管理する『海底協会』では、唐突に和気出した海獣たちは勿論……普段は己の縄張りから決して動かない『古海四王』が突然動いた様子に騒然としていた。
「『古海四王』は一体が動くだけで海域の生態系が変わるんだぞ!? 何がどうなって――」
そこへ、別の『人魚』が慌てて情報を持ってきた。彼女は『シーモール』付近の深海を担当している。
「深海より! 『深海鯨』! 『
『古海四王』が全て『シーモール』へ向かっている。その報告に疑問を議論する声さえも失った。
「終りだ……
と、そこへ『ニーノの
『こ、こちら! 実況のマレーです! 皆さん、落ち着いて聞いて下さい! 唐突に音楽が流れ、海に穴が空きました! 『シーアーサーブレード争奪戦』の最中、一体何が起こっているのか! 何とも形容したがたい状況で――キャッ!?』
『シーアーサーブレード争奪戦』の実況を受信していた酒場の端末から、マレーの短い悲鳴が聞こえると次に――
『さぁ、みんな! 準備は出来たかい? 下を向いている者は空を見上げ、室内に居る者は外へ出よう! 僕の公演は誰でも参加OKだよ!』
宣言する様な“声”が割り込むと、次に高音と重低音の混ざるリズムの良い『音楽』が酒場へ流れた。
“海割れ”でお祭り騒ぎの『シーモール』であったが、更なるざわめきと人波の移動が行われ始める。
なんだ、なんだ? と、酒場の客と店主が店から出ると、端末を通して聞こえた『音楽』は『シーモール』全体に流れており、人々は海岸へ移動して行く。
「…………なんだ……なんだこりゃあ」
海岸では海がせせり上がり、『シーモール』全体をドーム状に覆う様に広がっていた。
未曾有の天変地異。しかし、それでも人々がパニックにならなかったのは、その恐怖よりも軽快な音楽と空間を漂う虹色の泡が幻想的な雰囲気を生み出し、天上の舞台には『シーアーサーブレード』を持つ女が居たからだ。
「――――空想の……
店主はニーノを見上げて、かつて『シーアーサーブレード』を触れられずに覚めてしまった“夢”が再び己の中に戻るのを感じた。
ニーノの姿は、『シーアーサーブレード』にたどり着き、手に入れることが叶わないと知った【ブレードダイバー】全員の“夢”を甦らせる。
「おわ!? なんだ!?」
海岸では休んでいたボーゲンは足元から現れた虹色の泡に身体を持ち上げられると、ニーノの側に居るハワイ達の元へ運ばれた。その眼下では、
沖合の『孤島陸亀』からカモメ達が演出を助長するように空を舞い。
海面から頭を覗かせる『
深海より浮上した『
『深海鯨』の“波吹き”によって海水が『シーモール』全体へ道を作る様に『水域』を展開する。
「おお! 旧友達よ! 来てくれたんだね! ポセイドンと戦った時以来だね! 息災だったかい?」
ニーノが『シーモール』全域を『公演』の為に覆い始めた時には、海から四体の化物が集合していた。
ソレらを見て、ハワイ達は唖然として開いた口が塞がらない様子。そりゃそうだ。
『孤島陸亀』。島を甲羅とする魔亀であり、動く島とも言われている。“古代種”である。
『
『
『深海鯨』。海流を作り、海の生態系を循環させている。一部界隈では神として崇められている。“古代種”である。
「うぁ! なんだ!? アイツら!? 皆デケー!」
『海にはあんな生物が居たんですね!』
「…………」
海を代表する“古代種”の同窓会かよ……
奴らが喧嘩でも始めたら『シーモール』どころか、沿岸部から百キロは更地になるぞ。
「…………」
「どうしたんだ? おっさん。さっきから汗をだらだら掻いて」
『緊張してます?』
「いや……オレは自分が実に浅はかな事をしたのかと後悔してるところだ」
これって……『シャドウゴース』の対象範囲か? 直接被害を生むワケじゃないから……いや、きっかけはオレだし……判定が良くわからん!
「心配は無用だよ、ローハン。彼らは僕の為に集まってくれたのさ♪ だから、誰も傷つけない。むしろ、気の良い友人達だよ?」
クルっと『水剣メルキリウス』を杖の様に回してオレにドヤ顔を決めるニーノ。マウントをとった時のその顔イラつくんだよ! 止めろ!
「さぁ、第二節だ!」
~『第二節 この世界は誰もが
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