遺跡編 第三幕 バトルロワイアル

第80話 オッサン、アンタはダメヨ

 アレから何事もなく二日が経過した。

 『遺跡都市』は相変わらず三勢力が睨み合いを続けているが『星の探索者』は我関せずな様で平和である。

 オレは日々改良を続けるマスターのメディカルベッドにて思ったよりも早く松葉杖が不要となった。やっぱり、自分の足で歩くのは良いぜ。

 能力的には六割ってところだが内臓がマシになった分、薬膳料理も食べられるのでここからの回復は早いだろう。材料を買って来てマスターに作ってもらうか。


「ゆっくり眼を閉じて、己に問いかけるの」

「眼を閉じて……問いかける……」


 そんで、カイルは未だに己の魔法がどんなモノなのか発現しなかった。

 『魔法水』の色はずっと変わらず本人も終始手放さずに、マホー! と気張っていた。

 今は、クロエから瞑想で引き出そうとしている程。らしくないが、ここまで苦戦するとはオレも思わなかった。


「カイル、眼を閉じた?」

「閉じてる……」

「何が見える?」

「真っ暗だけど……」

「その真っ暗な中に浮かぶモノはない?」

「………………なにも見えない」

「そう、目を開けて」


 珍しくクロエは、ふむ、と顎に手を当てた。


「うーん、ここまで行くとカイルは『闇魔法』の適正があるのかもしれないわ」

「『闇魔法』?」


 『闇魔法』は主に周囲の環境や対象者にマイナスの効果を及ぼす魔法であり、他のエレメント系と違って視認しにくいのだ。


「ふっ……どうやら某の出番の様だな!」


 どこからか、ドンッ! と現れたスメラギが直立不動で告げる。そういや『闇魔法』使えたな、お前。


「やはり、カイルよ。お主はこのスメラギの弟子になる運命! さぁ、行くぞ! 愛弟子よ!」

「勝手に弟子にすんなって言ってるだろうが」


 オレが冷静にツッコミを入れると、おっさん、おはよう! と愛弟子が元気に挨拶してくる。


「ローハン、もう歩けるのね」

「六割ってところだ。もう、今夜からメディカルベッドは卒業だよ」


 となれば……今夜からまたカイルのテントで世話になる感じか……まぁ、カイルが寝てからオレも寝れば良いか。


「カイル、多分お前は『闇魔法』じゃない」

「そうなの?」

「そうなのか!?」

「証拠はあるのか! ローハン!」


 クロエ、カイル、スメラギの順で声を出してくる。スメラギ、テメェ、仇を見るような目を向けるんじゃねぇよ。


「剣を教えててもその兆候は全く無かったし、無意識に使ってたら『星の探索者』でも気づくだろ?」

「そうね」

「ならば、謎は深まるばかり!」


 もしカイルが強化系にしか適正がないとしても、エレメント系を全く使えない理由にはならない。


「なんかさー、全然イメージが湧かないんだ。皆が魔力で水や炎を操ったりするの、マジでどうやってんの?」


 まぁ、本人のイメージも必要だしな。だが、カイルの事だ。一回でも発動すればそこからコツを掴んで行けるだろう。


「おはようございます」

『既に全員起きているな』


 と、早朝割引を狙って買い物に行っていたレイモンドとボルックが帰宅した。荷車には食材の入った木箱がいくつも乗せられている。


「買い込んだな」

『倹約する事は有意義だと認識している。ワタシからすれば食事の摂取と排泄は不便なプロセスだと思うが』

「飯を食う前に排泄とか言うなよ……」


 今日の朝ご飯の当番はマスターである。サリアは肉を調達に行くと言って珍しく弓矢持って森へ狩りに行っていた。


「レイモンド。そっちはおっさんの課題は終わってる?」

「終わっては無いけど、何となく……進んでるかな」


 レイモンドのヤツ、見栄を張ってるな。あの口調だとレイモンドも課題に詰まってる様だな。

 まぁ、タイプは違えどレイザックの息子であるレイモンドも感覚型に近いのだろう。


「どうすっかな……」

「実戦で花を開いて見るしかないんじゃない?」


 クロエは、二人が理詰めでは前に進めない事を言及する。


「けど、ただ剣を交えたりするだけじゃいつも通りで意味が無いんだよな」


 何か、別の刺激が欲しい所だ。


「昨日、マスターが頼まれて『大型モニター』を直したそうなの。今日は『バトルロワイヤル』をやるみたいよ」

「お、マジ?」






「うぉぉぉ!! ベッグ! 行けェ!」

「カイギス! お前に10万賭けてんだ!」

「ハング! 馬鹿やろう! 負けちまいやがってぇぇ!!」


 遺跡内部。と言っても転送陣のある広間で、その熱狂は怒号と絶望が入り交じっていた。

 朝食を終えた、オレ、クロエ、カイル、レイモンドの四人は開催されている『バトルロワイヤル』に参加する為に足を運んだ。


「スッゲー! 何コレ!? 初めて見た!」


 カイルは設置された巨大なアーティファクト『大型モニター』を見上げて驚いていた。『モニター』の端には“ゼウス印”がある。


「クロエさん! 四角い箱の中で人が戦ってる!」

「ふふ。そうなの?」


 盲目のクロエには『モニター』に関して説明してもいまいち理解出来ないだろうな。


「賭け試合ですね。場所は……遺跡の上層ですか? 季節は“夏”……場所は孤島ですね」


 『ターミナル』には『コロシアム』がある。レイモンドはすぐに察したみたいだな。


「あのアーティファクトは遺跡の上層を映してるんだ。それを見ながら賭けてる奴の順位を当てる事で配当金が出る」

「おっさん、おっさん」


 カイルが服をクイクイやってくる。おー、どうした?


「俺、アレに出場てみたいんだけど!」

「そのつもりで連れて来たんだよ」

「おっしゃー!」


 カイルはここ数日間ずっと、マホー! と叫んでいた事もあって、だいぶフラストレーションが溜まっていた様だ。わくわくしてやがる。


「レイモンドもよ」

「まぁ、そんな気はしてました」


 クロエに言われてレイモンドもウズウズしてるな。耳がずっとモニターの方を向いてるから分かりやすいぜ。


「受付けに行くぞ」


 この分だと次の試合には間に合いそうだ。


「オゥ! 参加者デスカ?」


 ちょっとカタコトな受付がオレらを見る。


「次の試合に参加したい。四人で頼む」

「イイヨー! チョット失敬」


 と、受付の男は手に持つアーティファクトを向けると、ピッ、ピッ、ピッ、ピッとオレらの何かを測る。


「オゥ……オッサン、アンタはダメヨ」

「は? おい、どういう事だ?」

「戦いの基準値、ダメ」


 今のアーティファクトはそれなりの戦闘力を測るモノだったらしい。いや、ちょっと待て!


「待て待て、クロエはどうなんだ? オレと同じくらいの数値出てるだろ!」


 何でオレだけ弾かれるんだよ!


「こっちのレディ、華になる。オッサン、華にならナイ。ダメ」


 くそがぁ……



※クロエ↓

https://kakuyomu.jp/users/furukawa/news/16818093075316888363

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