魔物から助けた弟子が美女剣士になって帰って来た話
古朗伍
序章 ローハンとカイルと『星の探索者』
第1話 ローハンとカイル
人生にはターニングポイントと言うヤツが存在する。
オレにとってのターニングポイントは、アイツと出会った事だった。
オレ事、ローハン・ハインラッドは自分で言うのも何だが凄腕の剣士だ。
色々あって片田舎で常駐の剣士として滞在する事にはなっているが、こう見えても大都市でも名の知れたクランに居たんだぜ?
そんなオレは戦いに明け暮れてそして、疲れちまった。
まだまだ現役で通じる年齢だが、ここいらでちょっと安らかな老後ってヤツに憧れてね。
常駐の剣士を募集してる片田舎で骨を埋める事にしたってワケなのよ。
村の村長と顔を合わせ、一通り村人と挨拶をして、先任の老戦士からある程度のノウハウを引き継いだ。
今日も元気に村の周りに出る魔物を討伐中。村は森の中にある事もあって、野生の魔物を見る機会は多い。
大半はヒトを見れば逃げるが、時折、襲ってくるヤツもいる。そんな時はオレの出番だ。
死霊王をぶっ飛ばして手に入れた“霊剣ガラット”を持つオレからすれば森の魔物なんて下の下。まぁ、田舎に出てくる魔物程度なら使うまでもないがな!
「無事か? 坊主」
はぐれオーガに襲われていた村の少年をオレは助けた。
村から少し離れた森の奥には果物が生る木が多くある。老戦士から、それを取りに行く子供が度々居るそうなので、毎日の警邏ルートに入っているのだ。
「あ、ありがとう……おっさん」
「うっ……おっさんか……確かにオレは28だが……」
剣を鞘に納め、おっさんと言われる年齢になった事を自覚する。老け顔じゃないハズなんだけどな……髭は剃るか……
「おっさんって……凄く強かったのか」
「当ったり前よ。言っとくけどな、オレに勝てるやつは地上には存在しないぜ!」
「へー」
「まぁ、その辺りは嫌でもわかるさ。なにせ、オレが生きてる内はこの村の安全は確約されたされたようなモンだからな!」
ワッハハ。とオレは少年を連れて村に戻る。倒したオーガは村の解体所で素材として処理してもらった。
そんな出来事があったからか少年はオレの所に剣を習いに来るようになった。
「たぁ! はぁ!」
いやー、実に微笑ましい。例の少年――カイルは毎日のようにオレの所に剣を教わりに通い詰めてくる。
オレは素振りとか足運びとか詳しい理論は全く分からない感覚型なので、カイルとは木刀を交えて剣の振り方を身体に覚えさせる手法を取っていた。
これが憧れてた師弟関係と言うヤツだ。これだよ、これ。オレが求めていた安らかな老後ってヤツは。
「はぁ……はぁ……」
「どうした? 打ち込みが止まったぞ?」
いかんいかん、現状が幸せ過ぎてカイルの様子を見逃していた。
「おっさん……俺……ダメだな。おっさんみたいになれないかも……」
「どうしたどうした?」
意気消沈するカイルはその理由を話し出した。
「オーガに襲われる夢を見てさ……あんなのと向き合うなんて思ったら……怖くて震えちゃうんだ……」
カイルはオーガに襲われた時の事がトラウマになってしまったらしい。剣を習いたいと言い出したのは、少しでもあの時の恐怖を紛らわすためだと言った。
「はっはっは」
「なに笑ってんだよ! 俺は真剣に……」
「オレのトラウマはスライムだったぜ」
オレは駆け出しだった頃に、スライムに窒息死させられかけた事を話す。
「けどな、炎魔法を使えるようになったら何てことは無くなったのさ」
越えられない恐怖は無い。オレはカイルの頭を手を置いて、安心させるように言う。
「よし、お前が剣の道に進むなら“霊剣ガラット”を譲ってやるよ」
「え? いいのか?」
“霊剣ガラット”は傍から見ても常識を超えた宝剣としての雰囲気を漂わせている。
「いいぞ。オレが持ってても、もう使う事はなさそうだ。剣ってのは使ってナンボ。若い奴に使われる方が良い」
「おっさん……」
「後、おっさんは止めてくれ」
「わかったよ、おっさん」
むぅ……まぁ、カイルが少し明るくなったので良しとしよう。
それからカイルは時間を見つけてはオレの所に足を運び、剣を教わりに来た。傍から見ても良い師弟だったと思う。
先任の老戦士が現役を引退し、オレは本格的に村の戦士として引き継いだ頃には、カイルも良い青年になっていた。
「ふむ。イイ感じだな」
「だろ? へへ。ようやく当てたぜ」
カイルの剣はオレの服を掠るまでに成長していた。身体も昔に比べて出来上がり、才覚はオレを超えるモノを感じさせる。
「まだまだ敵わないけど、そこらの魔物程度には負けねぇぜ!」
「だな。大したモンだよ」
「おっさんを超えるために隠れて鍛錬してたからな!」
「それ、言っていいのかよ」
なんて会話をしながら良い師弟関係であると自他ともに言われていた。嬉しそうに、よっしゃ! と笑うカイル。その自信にあふれた様は既にオーガのトラウマを払拭した様子だ。
オレはそんな弟子の非凡な才能を鑑みて、ある提案をする。
「カイル。お前、街に行ってみる気はないか?」
「街に?」
言葉の意味を探る様にカイルが聞き返す。
「お前はまだまだ伸びしろがある。本格的にこの道に進むならもっと上の経験を積んでも良い。オレが教えられる事には限界があるからな」
体験談はいくつも話せるが、実体験するのとは話が別だ。経験に勝る知識は無い。
「街にはいろんなヤツがいるし、色んな経験が出来る。オレの前に居たクランに斡旋できるしな」
「……一つ聞いてもいいか?」
「なんだ?」
「その……強くなったら……おっさんは俺の事を頼りにしてくれるか?」
「おお。頼りにするぜ。背中を預けるヤツが増えるのはこの上ない事だからな」
後々はカイルが村の常駐を引き継いでくれるならオレの人生は上出来だろう。
「わかった! 街に行くよ! そんで……軽くおっさんを超えて戻って来るからな!」
「ワハハ。そいつは、頼もしいねぇ」
カイルが新たな戦友となる未来が遠くないとオレは自覚しつつ、所属していたクランへの紹介状を書き、カイルの出発の日に“霊剣ガラット”を譲った。
カイルの居ない日々は少し寂しくて静かだったが、充実な日々である事は変わらない。
変わらない日常に、村人たちとの交流。ゆったりとした時間の流れではあったが、カイルからの手紙なんかを楽しみに理想的な日々が過ぎて行った。
そして、数年の月日が流れ――――
「そろそろ冬眠してた魔物も起きて来る頃だな」
暖かくなってきた春先。オレはいつもの警邏を終えて村に帰ると少し騒がしい。
稀に来客者がいざこざを起こす事があるので、その手合いかと思ったが喧騒とは少し違う。
「何の騒ぎだ?」
オレは近くにいる知り合いを捕まえて事情を聞く。
「いや、カイルが帰って来たんですよ」
「お? マジ?」
我が弟子が帰って来たか。手紙ではオレの所属していたクランで、かなり活躍をしたと書いてあった。さてさて、どれほどの腕前になったのか見てやるとするか。
「おう、カイル。帰って来るなら、手紙にも一言書いて――」
「あ、おっさん」
そこでオレは硬直した。目の前に思わず言葉を失うほどの美女が居たからだ。
ポニーテールに巨乳。動きやすい様にスリットの入った服はこれでもかと女らしい魅力を引き出している。その腰には“霊剣ガラット”が差してあった。間違いなくカイルである。
「……お、お前……女だったのか!」
オレの発言に数年ぶりに再会したカイルは呆れたように腰に手を当てる。
「手を抜かれないようにサラシを巻いてたんだけど……マジで女って気づいてなかったのかよ……」
「そ、そりぁ……」
そう言えばやたらと服を脱ぐのを渋ってたりしたが、当時は特に気にしなかった。しかし、女であったのなら納得が行く。
「その……変か?」
カイルはオレの様子から自分の姿を不安そうに気にかけた。
「いや、普通に似合ってるぞ」
むしろ、性的な意味でやべーよ。村の同年代の男はお前の巨乳に釘付けだぞ。師であるオレが守護らねばならぬ……
「そうか? えへへ」
周囲の事など露知らず笑うカイル。
街から村までの道中で疲れた事を考慮して今日は解散。腕前に関しては明日に見ることにした。
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