第156話 オールナイトショー

 ハワイ、ウェーブ、ボーゲン、タルク、セレンは同郷の幼馴染みだった。

 彼らは“英傑”アーサー・ペルギウスの物語を幼い頃から両親に読み聞かせられ、ソレを共通として友達になったのである。


「おれ達で『シーアーサーブレード』を手に入れよう!」


 そう告げるハワイに皆は覚めない夢に心躍らせ、ソレを確認するように“海割れ”の無い日でも何度も『海底迷宮』へ訪れた。

 『シーアーサーブレード』は“海割れ”が発生しないと現れない。更に海底渓谷も近いために大人達は子供が『海底迷宮』に近づくことを固く禁じていた。

 しかし、好奇心旺盛な時期であるハワイ達は、現実に存在する“シーアーサーブレード”に虜だった。彼らは大人の忠告を聞かず、何度も『海底迷宮』へ足を運び、その手に『シーアーサーブレード』を手にする日を何度も思い描いた。


 いつも通り『海底迷宮』に集まったある日、セレンが海底渓谷の降下海流に呑み込まれると言う事件が発生する。

 ハワイとウェーブは間髪入れずセレンを追いかけて海底渓谷へ。少し躊躇った、ボーゲンとタルクも後を追った。

 深海の闇の中、海流を頼りにセレンを追い、何とかその手を掴むも流れに逆らえず一つの空間に出た。


『諸君! よく集まってくれた! これは僕が君たちへ捧げる為のものだ! 己の中に忘れずに残して置いて欲しい! 夢は決して消えず、覚める事は無いのだと!』


 そこには、巨大な深海鉱脈の空洞だった。魔石の層が長い時を掛けて削られて巨大な空間になっており、そこには多くの“観客”で溢れていた。


「なんだここ?」


 ハワイ達は異常な光景を目の当たりにしていた。何故なら、本来なら縄張り争いで殺し合う程のに海獣達も同じ空間に存在していたからである。


 『光クラゲ』と『深海アンコウ』の光が淡く幻想的に照し、『巨王烏賊クラーケン』や『海王蛇レヴィアタン』と言った他にも手を出す事を禁じられる程に危険な海獣種が集まる空間。彼らはメッセージを聞いていた。


『時間だ! この僕――アーサー・ペルギウスのオールナイトショーを始めよう!!』


 魔石がよりも強い魔力を帯びて光を生み出すと、声を出すアーサー・ペルギウスの姿が目の前で形となる。

 光に色が付き、移動する様な演出を見せ、『音魔法』の絶妙な反響効果が軽快な音楽として空間に流れ出す。


 ナイトショーの内容は歌劇。アーサーは遥かに昔に近海を支配していたと言われている【暴君】ポセイドンとの戦いを派手な演出を含めつつ公演を始めた。


 その映像に本来は縄張り争いに殺しあう海獣達も場の雰囲気を楽しむかの様に並んで酔いしれる。


 陽気な空気にハワイ達も巻き込まれる様に参加されられ、時に緊迫し、時に笑い、時に驚き、時に感動するアーサー・ペルギウスのナイトショーの虜になって行った。


『【暴君】ポセイドン、君の力は強大だ。しかし! 僕と『シーアーサーブレード』は決して屈さない! 覚悟しろ!』


 『シーアーサーブレード』に貫かれた【暴君】ポセイドンは泡となって消える。その様を見届けたアーサーは『シーアーサーブレード』を地面に突き立てた。


『この剣は僕の話が偽りでない証明だ! 『シーアーサーブレード』を抜く事が出来る者はこのアーサー・ペルギウスを伝説の続きを作る者! いや……』


 と、アーサーはこちらへ向かって指を指した。


『君が王としての伝説が始まる瞬間だ!』


 その言葉を最後に幕が下りる様に魔石の発光は消え、淡い光だけが残る。

 ソレは誰に伝えようとしたのかは解らないが、場に居たハワイ、ウェーブ、ボーゲン、タルク、セレンの心には強い想いを残す。


「みんな! おれ達は間違ってなかった! 絶対……絶対に! 『シーアーサーブレード』を手に入れよう!」


 感無量に言葉が出なかった面子の中でハワイが告げる。その言葉に同意した気持ちは、今でも彼らの中に残っていた・・・・・






「だからこそ、俺はスタイリッシュな現実を見るのさ♪」


 【ダイバーランク6位】タルクは、類い希な才能を狩りではなく、エンターテイメントに使う事を考えた。

 過去に見たアーサー・ペルギウスの公演は、あの日以来一度も行われない。タイミングを逃しているのか、それともあの一度きりだったのか……それは解らないが、それでもタルクにとっての答え合わせは十分だった。


「ぐぐぐ……」

『キャァァ!!』

「上に下に右に左。まるで四方八方から海流に振り回される感覚は成す術が無いだろう? 本来なら俺を彩らせる『魔石』を流して演出のイルミネーションにとして使う『水域』さ。スタイリッシュにな♪」


 タルクによって作られた『水牢』はまさに彼の世界そのもの。絶え間なく流れが切り替わる『水域』は『水牢』の中を循環する様に流れ、決して獲物を外には逃がさない。一度巻き込まれれば脱出する事は不可能だった。

 カイルとリースからすれば最早、どこがどの方向に向いているか解らないくらいに振り回されている。


「『サーアーサーブレード』。いい夢を見たぜ。けど夢は覚めるのが摂理ってヤツさ! だが、他のヤツまで覚ます必要はねぇ! 俺はそのスタイリッシュを貫くぜ!」


 振り回される事で発生する重力でカイルの身体は内臓が圧しやられ徐々にダメージを受けていく。

 リースは『結晶蝶』であるため、抵抗感は殆んど無くただ振り回されてるだけだが、カイルは肉体がある故に死へと秒読みが始まる。


「ぼごご……」


 上下左右が解らない。意識が揺れる。体内から絞り出される様な感覚が強くなる様は明らかにヤバい。ヤバいのに――


「――――」


 カイルはこの土壇場で、冷静に『水域』を作る魔力が知覚出来ていた。理由は解らない。理論も解らない。ただ、こうすれば止められる、と本能的な確信に干渉する。


「ごばれぇ!(止まれぇ!)」


 空気を吐きながら、カイルが『水牢』で叫ぶ。その瞬間、意を叶える様に『水域』が停止した。


「スタイリッシュ!?」


 タルクは共学する。

 カイルは無意識に『共感覚ユニゾン』でタルクを指定し、『水域』を強制的に掌握したのだった。

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