第155話 舞台に二名様をご招待だ♪

『カイルっ!』

「おわっ!? どうした? リース?」


 リースはカイルへ飛行するとその無事を確認するように胸に飛び込んだ。


『良かった……本当に無事で……』

「俺は死なないよ。だってさ――」


 カイルの脳裏に映るのは、ローハン、クロエ、ヤマト、他旅の中で出会った強者達である。


「越えたい人たちを、まだ誰も越えて無いからな!」

「良いねぇ! 実にスタイリッシュだぜ!」


 拍手するように手を叩いてタルクが前に出てくる。


「セレン、俺がやるぜ?」

「手段は選ばないでよ?」

「そいつは! スタイリッシュじゃねぇな!!」


 海壁から深海の海水が流れ込み、カイルとリースを拐うように取り込む。


「うわ!?」

『キャ!』

「俺様の舞台に二名様をご招待だ♪」


 海水はタルクの意のままに操られ、宙へ丸まる様に形を作ると、『海底迷宮』の上空付近に巨大な球体として固定させる。

 拐われたカイルは息を吐き出さない様に口を閉じて水中に浮かぶ。そこへ入ってきたタルクへ視線を向けた。


「んんん……」

「ハッハッハ! 水中で呼吸が出来ないってのはスタイリッシュじゃねぇな!」


 更にタルクは荒れ狂う様な『水域』を作り、カイルの身体を上下左右に振り回し始めた。


「スタイリッシュなオンステージ、開幕だぜ♪」






 ウェーブの『音破』とオレの『音破』を乗せた拳が正面からぶつかり合う。

 更に互いに拳を繰り出す度に発生する『音破』を相殺するも、完全には無効に出来ない。


「小粒のクセにしぶとい野郎だぜ!」

「その小粒も仕留められないお前は、ソレ以下だな」

「――殺す!」


 ウェーブは殴るのを諦めて掴みに来た。ヤツとの体格差を考えれば打撃よりも“組み”を狙った方が確実にオレを殺れると思っての事だろう。

 逆にオレは距離を詰める――


「バカが!」

「お前がな」


 倒れるように前のめりに足を出し、寸前まで脱力。足の裏が地面に着く瞬間とウェーブがオレを覆うように掴み触れる瞬間は刹那でこっちの方が早かった。

 踏みしめた瞬間、脱力から生まれる威力を溜める様に腰に構えた両掌を突き出し“撃”として放つ。


「【玄武】『絶壊』!!」


 オレよりもふた回りも大きいウェーブの身体が空箱の様に吹き飛んだ。そのまま近くの珊瑚礁を破壊しながら巨体が視界から消えた。


「…………やべぇな。思ったよりも威力出た」


 『桜の技』【玄武】。

 『原始の木』にアクセスした時にユキミ先輩に術理を習ってイメトレを繰り返していただけだったが、綺麗に決まるとこれ程の攻撃力を生むとは。


“半分は威力も出てないよ”


 背後からそんな声が聞こえて来たので、バッ! と振り返るが誰もいない。


「……カイルを探しに行こっと」


 その時、グオッ……と巨大な岩が進行方向に落ちて来たので足を止める。ったく……しぶとい野郎だ。


「……チッ」


 巨岩を投げたのはウェーブだった。ヤツは舌打ちをすると、ペッと血を吐き、オレに先程とは違う視線を向けてくる。


“ほらね。まだ彼は生きてるよ。僕ならさっきの『絶壊』で粉々さ”

「ユキミ先輩……ちょっと黙ってて貰っていいっスか?」


 故人なんだからさ……


「おい、“クソ野郎”」

「あ? “小粒”から昇格か?」


 ウェーブの目付きは、オレを片手間で侮る眼から、始末する獲物を視るようなモノとして向けてくる。『絶破』のダメージは殆んど無さそうだ。


「お前は俺の『水魔法』で刻む」


 オレは咄嗟にその場から飛び離れると、元居た位置を✕字に通り抜ける様な斬撃が走った。これは――


「『水刃』か」


 常に『音破』が反響する環境下で『水魔法』を的確に発動するとは……そりゃ日常的に使ってればこのくらいは余裕か。それでも――


「クロエよりは怖くねぇな」


 アイツの『水魔法』の方が殺意が高い。

 ウェーブが、ザッ、ザッ、と歩いてくるとノーモーションで『水刃』が飛んでくる。

 魔力の初動を隠さないので、避けるのは問題ない。問題があるとすれば……『水魔法』と『音魔法』しかまともに使えない環境下にある。


 周囲の魔力は水と音しか変換出来ない程に色濃く存在し、他の属性に変換したとしても僅かな出力しか作れない。

 このまま、グダグダやってると『海底迷宮』は再び深海に沈む。時間も、魔力もウェーブの味方。加えて武器も無い状況でウェーブの耐久値を一撃でゼロにするには――


「アレしかねぇな」


 ウェーブは持ち前の体格と筋力に加えて、『音魔法』と『水魔法』を使って多くの敵を倒して来たのだろう。故に搦め手や深い思考は必要としない戦いが染み付いている。

 故に、この技ならオレでも合わせられる・・・・・・ハズだ。

 オレが技に集中したその時、ウェーブの意識と視線が後方上空に向く。


「タルクか。あの野郎……手間かけやがって」

「おいおい……」


 オレもついそちらへ視線を向ける事は必然的な動きだった。

 それは巨大な『水牢』。直径二十メートルはあるソレが『海底迷宮』の上空に生成され、その中にはカイルとリースが巻き込まれていた。


「タルクの『水牢』は渦に巻き込まれるのと同じだ。『海人』どころか『人魚』でさえ脱出は出来ねぇ。しかも水中で息の出来ない『人族』のガキなら尚更な」

「そうかよ」


 ウェーブの言っている事は正しい。おそらく、物理的に抜け出すには相当な労力が必要となるのだろう。しかし、


「海の中しか知らねぇのは本当に損だよな」

「あ?」

「ゴロゴロ居るって事だよ」


 オレは再度、ウェーブに集中する。カイルは大丈夫だ。すぐに気がつく・・・・


「お前らを凌駕する奴は世界中にいくらでも存在している。お前の目の前に立つオレもその一人だ」

「…………ハッ。じゃあ、やってみせろや!!」

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