第157話 スタイリッシュ……
止まった!
止められた!?
カイルとタルクの考えは真逆だった。
タルクが『海底迷宮』の上空に作った『水牢』。ソレの完全な支配権を持つタルクは何故『水域』が止められたのか理解が追い付かなかった。
魔力は俺のモノだ。つまり……『水牢』の支配権は失われてない。なのに……この女はどんなスタイリッシュで『水域』を止めた!?
「ごぼぼぼぼ!!」
対するカイルはタルクにリアクションを起こすよりも空気の確保に手足をバタつかせて急いで浮上する。
息が既に限界を迎えていた。
「ぶはっ!」
何とか水面から顔を出す。その肩に乗っていたリースも水中から出た。
『カイル! 大丈夫ですか!?』
「ぜぇ……ひゅー、大丈――うぶっ!?」
『カイル!?』
カイルは息を整える間も無く再度『水牢』へ引きずり込まれた。どうする事も出来ないリースは水面を飛ぶばかりである。
「公演の途中退場はスタイリッシュじゃねぇぜ?」
カイルの足を掴んだタルクは彼女を再び『水牢』の中心へ引き込む。
下手な事をすると、どんなスタイリッシュを返されるか解ったモンじゃない。ここは堅実に――
「スタイリッシュにフィナーレと行こうか!」
『音界波動“水刃波”』
それは『音魔法』と『水魔法』の混合魔法。水中で音の波を極限まで狭める事で“面”では無く“線”を破壊する。
『海人』でも使える者は極端に限られ、下手な使用は自分をも刻んでしまう危険な魔法。
しかし、タルクは自分の作り出した『水牢』内であれば自在に発動する事が可能である。
カイルを円形に切り裂く波紋が逃げられぬよう四方から発生すると迫っていく。
「お前のスタイリッシュは悪くなかった。敗因は俺の方がスタイリッシュだったって事だ!」
迫り来る波紋の斬撃に対し、カイルは焦る事なく眼を閉じる。
思い出せ……さっき俺は『水魔法』を操作した。出来る……それが俺の!
「ごぼぼば!(魔法だ!)」
『
『音界波動“水刃波”』を散らす程の『水域』がカイルを護る様に荒れ狂う。
「! どういう事だ!?」
タルクが驚くのも無理はない。カイルは『水牢』に満たされたタルクの魔力をそのまま使用して『水域』に発動したのだ。
『
「ぐぉぉぉ!?」
この『水牢』の支配者は俺だ。俺の魔力で作って、俺の意識でしか魔法は使えない。それが摂理! それがスタイリッシュ! だが……この嬢ちゃんは……このスタイリッシュは――
「俺を越えるとでも言うのか!?」
「ごぼぉぉぉぉ!!(うぉぉぉぉ!!)」
『水域』は荒れる狂う様に見えつつも、タルクまでカイルを運ぶように海流を作り、勢いの乗ったカイルの拳を腹部にクリーンヒットさせた。
ぶっ飛ばす! と言うカイルの意志も乗せた拳は『
コイツ……『音界波動』まで……『人族』のクセに――
「スタイ……リッシュ……だぜ――」
タルクが意識が飛んだ事で『水牢』は崩れ、カイルは『海底迷宮』へと落ちる。
「ぼっば!(勝った!) おわ!?」
俺は『海人』へ拳をぶちこむと、何だか物凄い威力にヤツは気を失った。その瞬間、周囲の水が下から崩れるように落下を始める。
「って! マジ!?」
真下には海底渓谷が存在していた。流石の俺も、さっき助かったのは偶然だと思っている。もう一度落ちたら今後は間違いなく死ぬ!
「あっち! あっちに寄せて!」
俺がそう言うと、落下しつつも水が道を作る様に崖までの水路を即席で作ってくれて、滑る様に尻から跳ねて着地する。痛てて……
上空からさっきまで俺と『海人』がバトってた大量の海水が『海底迷宮』へ落下。ちょっとした濁流が起き、俺は近くの珊瑚礁に掴まって耐える。濁流は海底渓谷へと流れて行き、
「スタイリッシュ……」
「ちょっ!」
そんな事を言う『海人』が流されて来たので咄嗟にその手を掴んだ。
濁流は海底渓谷へと流れ込み、水嵩が減るとようやく落ち着けた。
『カイル!』
「リースか。はぁ……はぁ……勝ったぜ」
パタパタと飛んでくるリースに、息は荒くても親指を立てて笑って見せた。戦いが終わって笑う事が強さの心得だって、おっさんも言ってたしな!
その時、まだ薄く残る海水をパシャ、と踏みしめる音が聞こえ、
「ん? !!?」
横から放たれた蹴りに俺は咄嗟に反応。肘と手を添えてガードするが、凄まじい威力は俺の身体を易々と吹っ飛ばす。
「【ダイバーランク10位】のタルクを『水牢』で倒すなんてやるじゃない」
俺を蹴り飛ばしたのは『人魚』の女だ。たしか名前は……よく解んない! 自己紹介もされてねーし!
「でも、ここからは関係ないわ。私は魔法よりも
「……はは。なんだよ、それなら『すたいりーしゅ』よりも解りやすいぜ!」
俺は立ち上がると手や足に鱗を出す『人魚』の女と向かい合った。第二ラウンドだ!
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