第118話 自慢大会
どういう状況よ? コレ……?
ソーナはジリジリと焼かれる様な暑さの部屋――サウナルームに座ってそんな疑問が頭を過った。
「あちー」
カイルはパタパタと熱を払う様に手を扇ぐ。しかし、周りの温度が同じなので“涼しむ”と言う意味を成さない。何か行動する度に揺れる胸にソーナはイラっとするが、それよりも――
「“眷属”カグラ」
「な、に? おっ、ぱい、の小、さ、い人?」
「殺すっ!」
「わっ! ソーナ! 止めろ! アネックスさんに怒られるぞ!」
カグラへ掴みかかろうとするソーナをカイルが羽交い締めで後ろから抑える。
「押し付けるな! そのデカイものを!」
「じゃあ止まれよ! って言うかマジでヤバい――」
「どうされました?」
いつの間にかメイド服のアネックスが背後に立っていた。
「カグ、ラは、よく、わか、ん、ない」
「コイツっ!」
「悪気! カグラに悪気は無いんだって!」
「ソーナ様」
興奮するソーナはアネックスの冷静な声に呼ばれて動きを止める。
「お客様同士の確執に関しましては、当館は関与致しませんが、血で血を見るやり取りを行うのでありましたら当館の外でお願いします。何なら、今から私が放り出しましょうか?」
“感情的になりすぎるのがお前の欠点だ。いつか、ソレで隊が危機を迎えるかもしれん。見直しておけ”
部隊長のレクスから言われている事をソーナは思い出す。
「……すみません」
「ご理解の程、ありがとうございます。それではごゆっくり」
ふわっと煙の様にアネックスが消え、戦意が落ち着いたソーナにカイルも、ふいー、と彼女を放す。
「名、前」
「ん?」
「カグ、ラ、小さい、人と、大きい人、の名前、知らない」
「俺はカイル! 【銀剣】のカイルな! よろしく!」
「……ソーナよ。階級は二等兵。その小さい人って言うのは止めなさい」
「カグ、ラは……カグ、ラ。【大妖、怪】。『宵、宮』の見、習い。姫様の、“眷、属”」
自己紹介を済ませた三人は改めて座った。
「カグラ、その“だいようかい”って何だ?」
カイルはカグラの隣に座り、先程に彼女が言っていた事が気になっていた。
「【大妖、怪】は『妖、魔族』、全て、を率いる、者の称、号。カグ、ラが、名乗、った」
「おお! ってことは……カグラは『よーま族』では一番強いのか?」
「うん。文句、言う妖、怪は、全員、黙ら、せた」
『妖魔族』は『ジパング』しか存在しない種族。しかし、その内訳にはあらゆる一族が存在し、各々で特殊な能力を持ち合わせる魑魅魍魎だ。
世間に流れる『妖魔族』の記録は多くないが、『ジパング』を訪れた多くの者達は口を揃えてこう言う。
『妖魔族』は『古代種』にも匹敵する力を持つ。『ジパング』が島国ではなかった場合の被害は計り知れなかっただろう、と。
「ソーナは『よーま族』について知ってるか?」
「さぁね。こっちは自分達に振りかかる驚異以外は気にする余裕はないわ」
「俺は『ジパング』に行ったこと無いからさー」
「皆、良い、妖怪。『空亡』が、居なく、なってか、ら平和に、なった」
「『
「悪い、太陽。姫様、を奪お、うと、して、ローハ、ンとヤマ、兄に斬、られた」
「へー」
「『空亡』、『妖魔、族』を、縛ってた。今は皆、自由」
「流石、おっさんだぜ!」
カイルは己の敬愛する師匠でもあるローハンの活躍を聞くと心から嬉しくなる。
「ヤマ、兄も、強い。ローハ、ンより、強い」
「なにぃ!?」
ふんす、とどこか誇らしげなカグラにカイルは物申す。
「おっさんは強いぜ! なにせ、『シャドウゴースト』を出さずに『炎剣イフリート』の爺さんを倒したんだからな!」
「…………カイル、それって前にオークションに賭けられてた『炎剣イフリート』の事?」
「おう!」
「でも、あれを出品したのは二流の冒険者三人だったわよ?」
「あー、クロエさんを助ける為に情報と引き換えに譲ったんだ。でも手に入れたのはおっさんだぜ!」
『ギリス』陣営でも戦力を上げる為に『炎剣イフリート』の入手は検討された。しかし、鑑定書(ゼウス印)の説明を見たら、所有者になれる可能性が完璧に運である事からも不要と判断された。
「ふっ、そん、なの、ヤマ、兄なら、二太刀で終わ、る」
「何をー! おっさんは『シャドウゴースト』のゼウスさんとタイマンで戦って生き延びたんだぜ!」
「ちょっとカイル……それって本当?」
「おう!」
カイルは元気に肯定するが、普通に常識外だ。
遺跡内部から異物を排除する為に現れる『シャドウゴースト』は不滅無敵の存在であり相対すれば1分も持たない。それだけ圧倒的な存在なのだ。しかも、出てきたのが【千年公】の『シャドウゴースト』など……どうやれば時間を稼げるのか検討もつかない。
「そん、なの意、味な、い。ヤマ、兄は『シャドウ、ゴース、ト』で誰も出、てこな、いから。もし、出て来て、も普通、に斬、る」
「そんなのやってみないと解らないだろ!」
「ふ、ふー、ん」
身内マウントの取り合いは聞いてて面白いが、ソーナはこれをチャンスと考えた。
「それじゃ、カグラがそこまで言うヤマトはどんな能力を持ってるの?」
さりげなく場の雰囲気に乗っかり、ヤマトの事を探る。
戦う可能性のある中で最も強いと称されるも、能力も謎多き存在、ヤマト。
『ギリス』も街中でヤマトとスレ違うだけで多くの者達が鳥肌を覚えたが、その能力は未だ不明なのだ。それを聞き出す良い機会だ。
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