第119話 ヤマトの能力
「ヤマ、兄の、能力?」
「そうだな! そこまで言うならヤマトがどんな感じで最強なんだ?! ちなみにおっさんは何でも出来るぜ!」
オールラウンダーで高水準の戦士は確かに臨機応変な動きが可能だ。そこに判断力と発想が重なれば敵として厄介な事は無いだろう。
「まぁ【霊剣】の事は置いといて、今はヤマト実力の内訳が知りたいわね」
アタシの質問にカイルも乗って来てくれたおかげでより情報を追及しやすくなった。
「強い、と言っても色んな形があるでしょ? どんな戦いでも無傷とか、どれだけ窮地に追いやられても逆転するとか」
「…………ヤマ、兄は――」
カグラは少し考えてからゆっくり語り出す。一言一句、逃す気はない。可能ならその能力を明確にしたい所だ。
「何も、効か、ない。何も、防げ、ない」
「何だそれ?」
「どういう事?」
あまりに短絡的な解答にカイルさえも聞き返す。
「ヤマ、兄は、どん、な攻撃、で、も、跳ね返、す。その刀、は誰も、防げ、ない」
まるで子供が考えた様な能力だ。しかし、
「つまり、ヤマトの能力は『反射』ってこと?」
「『反射』ってなんだ?」
「『反射』は有名なカウンター魔法よ。向かってくる魔法に合わせて同質の魔法で無力化しつつ、その場で対象を跳ね返すの。しかも、相手の魔法と同調するから発動コスパも良いのよ」
『反射』を主体とする戦術を取る者がいる程に奥の深い魔法だ。
「ええ!? そんなヤバい魔法があるのかよ! 無敵じゃん!」
「そんな便利な魔法じゃないわ。『反射』は返す対象物に対して深い知識が必要になる。それに一回見られたら対策はいくらでも出来るわ」
「そうなのか?」
「“攻撃のタイミングをズラす”、“属性を変えて攻撃する”、“範囲攻撃で返す隙間を与えない”とかね」
基本的には相手のフィニッシュ技を『反射』し、逆転する様な使い方が一般的だ。特に魔術師は土壇場の切り札として持っている者も多い。
「ソー、ナみた、いに皆、そう、考えた。でも、ヤマ、兄には、意、味な、い」
カグラはヤマトの事を強く慕っている様だし身内贔屓でそう思いたいのだろう。だが、『反射』程度なら部隊の連携でいくらでも対応出来る。次は――
「何も防げないって事は持ってる武器が関わってるの?」
ヤマトの防御面はわかった。次は攻撃能力についてだ。
「ヤマ、兄の、刀、
「おおわざもの?」
「刀の中でも最高位の能力を持つって意味よ。名刀の類いね」
「へー。『霊剣ガラット』みたいなモンか!」
「アレはまた別よ」
「『草薙』は、只の、刀。能力、は何も、ない」
「じゃあ“防げない”のはヤマトの技量ってこと?」
鎧や魔道具で防御を固めていても、動く必要がある以上、隙間は出来てくる。達人と称される者たちはその欠点を的確に狙ってくるのだ。ヤマトもその類いだと推測――
「……カグ、ラは、よく、わかん、ない。ヤマ、兄は、鎧を、傷つけ、ず中身、斬る」
「なんだそれ?」
「万象、全部、綻び、ある。ヤマ、兄は、いつも、言って、る。ソレ、に刃を、通す、だけ、だって」
「へー」
「…………」
カイルは感心しているけど、アタシからすれば理解できないわね。
これに関しては実際にヤマトが戦っている場を見たり、交戦記録が無い以上は推測も立たない……か。
「じゃあ、ヤマトの能力って『反射』だけなのか? それならおっさんには遠く及ばないな!」
カイルのマウントに、やれやれ素人は、と言わんばかりにカグラ首を横に振る。
「ヤマ、兄は、先に、“結果”を、持っ、てくる。未来、の刃、を相手、に通、す。だから――」
誰も勝てない。
「今日まで、貴殿らは何を鍛えた?」
刃が僅かに通る月の光の下に晒される。
「何を考え“武”を選び、何を思いソレ行使する?」
ヤマトは夜の遺跡都市を歩いていた所を襲撃された。
場所は『温泉館』もある人の往来が多い区画ではなく、古くからある遺跡都市の暗闇の区画。どの組織にも所属しないアウトロー達の住みかだった。
「賞金か……しかし、釣り合うモノではないな」
ヤマトは自分の顔写真が載っている落ちた手配書を隻眼で見た。
「へっ、金貨1000枚じゃ自分の価値と釣り合わねぇってか? お高いご様子で」
「アマテラスって女は捕まえたら殺す前に死ぬ程ヤってやるよ!」
「カグラってガキは一部に小児愛好家が居てなぁ」
「野郎二人は要らねぇ! ぶっ殺してその刀だけ貰うぜ!」
「私が言いたいのはそう言う事ではない」
ヤマトは動かない。
「貴殿達の実力が釣り合っていないのだ」
「馬鹿がっ!」
その時、目の前に男が現れるとナイフをヤマトの顔面に突き立てた。
『加速』。直進と短距離限定だが、男は格上でも容易く喰らうスキルを保有している。
「私は忠告した」
「!? ギャアアア!?」
男はナイフを持つ手が大きく裂けていた。ヤマトへ届くナイフごと貫かれた様に二つに割れている。
「貴殿らは釣り合わない、と」
ヤマトが一歩踏み込む。男は『加速』で後ろに下がって刃の範囲から余裕で脱する――が。
「『後斬り』」
停止した瞬間、上半身と下半身が分断され二つに分かれて飛び散った。
「コイツっ!」
「何をしやがった!?」
「野郎っ!」
『土魔法』にて、地面から『土壁』ヤマトを挟むように勢いよく現れる。しかし、ヤマトに触れた瞬間、弾けるように左右に砕けた。
ヤマトが歩いてくる。しかし、男達は焦っていなかった。もう一歩、こい……と待ちわび――
「馬鹿が! 死ね!」
周囲の建物を崩し、ヤマトを生き埋めにするには十分な瓦礫を上空から降り注がせた。
「何度もあった」
しかし、ヤマトは歩みを止めない。それどころか、自身に当たる瓦礫だけが見えない壁に当たる様に砕けていた。
「“生き埋め”の対処法は既に済んでいる」
背後で残りの瓦礫が道を塞ぐ。男の一人がヤマトへ斬りかかり、その背後からもう一人の男が『雷魔法』の『閃光』でヤマトの視界を潰す。
「それも――」
目を閉じるヤマトを両断する勢いで剣が振り抜かれる。しかし、逆に男が両断されていた。ヤマトの刀には血の一滴もついていない。
「て、テメェ……」
「対処済みだ」
『雷槍』。両断された男が絶命し倒れると同時にその『雷魔法』が飛来する。ヤマトの眼は閉じたまま。初動も見きれてない。
確実に当たる! 放った男は勝ちを確信すると己の身体を『雷槍』が貫いていた。
「か……ほ……? な……んで……」
「最初から眼に頼ってはいない」
襲撃者最後の一人は、ひぃ~! と逃げ出した。
「【天光流】『
ヤマトは男を追わず、パチン、と刀を鞘に納める。すると男は縦に割れた。右半身と左半身は崩れ、臓物を撒き散らし絶命する。
「……遺跡都市。まだ見ぬ闇に根を張る組織があると思ったが……烏合の集まりのみ。刃を研ぐには……頭打ちか……」
いや、ローハン・ハインラッドならばあるいは……
返り血を一滴も浴びなかったヤマトは闇を抜け、アマテラスとカグラを迎えに歩を進めた。
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